衣料品の廃棄、いわゆる“ファッションロス”は、アパレル業界において大きな課題の1つ。日本国内だけでも年間約15億着もの新品衣料が廃棄されているとも言われている。
ファッション通販サイトの「ZOZOTOWN」は、2012年に誕生した「ZOZOUSED」を通して、そうした流れの打破にもつながる二次流通の仕組みを拡大させている。不要になった古着をユーザーから買い取って販売するリユースという形で廃棄減に貢献しているほか、配送方法などでもサステナブルな取り組みを行っている。
2022年度の商品取扱高は、ZOZOTOWN事業の約4355億円に対し、ZOZOUSED事業は約160億円。前年同期比で見ると約19%増で、2022年度に下取りサービス「買い替え割」「いつでも買い替え割」で買い取った衣類数は約1000万点に及ぶという。
ZOZOUSED事業の中身と背景について、ZOZOUSEDの立ち上げ以前から関わるZOZO マーケティング本部 USED事業部 ディレクターの島村龍也氏に、話を伺った。
――ZOZOUSEDというサービスが生まれた経緯と、島村さんご自身の経歴について教えてください。
ZOZOUSEDは、2005年に設立したクラウンジュエルが前身です。サイバーエージェントの子会社として、最初は古着をはじめとするファッションアイテムのオークションサイトを運営していましたが、2011年に当時スタートトゥデイだったZOZOの子会社となり、翌年の2012年、ZOZOUSEDとして活動を開始しました。
クラウンジュエルの時はメンズファッションのコアなユーザーが主なターゲットでしたが、ZOZOに入ってZOZOTOWNのユーザーにもアプローチすることで、より多くの幅広い方々にサービス展開できるようになったと感じています。
私自身は大学生の時にクラウンジュエルにアルバイトで関わり、大学卒業後に社員登用の形でクラウンジュエルに入社しました。ZOZOUSEDの開始前から在籍していたこともあり、商品の撮影や採寸など一般的な物流作業の他に、古着ビジネスのコアとなる値付けをしたりするバイヤー業務、マーケティング業務、サービス開発のプロジェクトマネージャーなど、事業の拡大とともに多様な経験をさせてもらいました。
アルバイトとして入社した頃はスタッフ15人くらいの小規模な組織で、商品点数も月間数千点あるかどうかでしたから、事業のコア部分で立ち回る便利屋さんみたいになっていましたね。それから取り扱う商品量が増えて人が増え、倉庫が足りなくて新たに拠点を増やし、というのを何度も繰り返しました。事業の広がりを実感しつつ2019年にZOZOに合流し、ZOZOUSEDの事業全体を引き継ぎました。今はその責任者を務めているという状況です。
――まさに生え抜きの社員というわけですが、ZOZOUSEDになってからの事業における大きなポイントとしては何がありますか。
大きくは2つあります。1つが「買い替え割」の導入、もう1つがAIを活用した値付けです。
ZOZOUSEDの始まりの頃は、お客様が古着を売りたいとなったときに、当社からダンボールなどの宅配キットを送付して、それで古着を返送していただき、買い取ったものをZOZOUSEDで販売するという、一般的な宅配買取と中古販売の流れでした。宅配キットの送付、その後の査定と結果の連絡に加えて、お客様自身の売るもの・返却するもの判断も必要で、それが終わってようやく最終的な返送と査定金額の振り込みになります。ものすごくリードタイムのかかる作業でした。
そこで2016年に導入したのが、「買い替え割」というサービスです。買い替え割は、お客様が過去にZOZOTOWNで購入した商品をZOZOUSEDに下取りに出すことで、ZOZOTOWNの新品商品を注文する時に下取り価格分を値引いて購入できる、というものです。ZOZOにはユーザーの購入に関する膨大なデータがあり、何がいくらで販売されたのかも分かります。そうしたデータをもとに、商品をわざわざ査定に出すことなく、いくらで下取りできるかをあらかじめ算出してお客様に提示するようにしました。
つまり、下取り価格が1500円であれば、5000円の商品をZOZOTOWNで注文する歳に、割引価格の3500円で購入できるわけです。実際の下取り商品は、購入した新品商品をお客様にお届けするときに同封するリユースバッグで返送していただきます。これまでの買取サービスは、お客様、お洋服、当社の3つの要素がそれぞれ点のような存在だったのが、「買い替え割」で1本の線につながった感じがあり、ここは今のビジネスの成長にもつながる1つのターニングポイントになったとも考えています。
現在は、新品商品の購入タイミングだけでなく、好きなときに商品を下取りに出して新品商品購入時用のポイントとして受け取れる「いつでも買い替え割」というサービスも提供しています。
――先に値引きするとなるとリスクもありそうです。「買い替え割」の開始前は、社内でどのような反応がありましたか。
どちらかと言えば、慎重な意見が多かったと思います。しかし、サービスローンチ前にはかなり細かなPoCを何度も回しました。いろいろなリスクがあるのはもちろん理解していて、たとえば古着の状態がよくないかもしれない、下取り商品を返送していただけないかもしれない、もしかしたら別の古着が送られてくるかもしれないなど、挙げればキリがありません。
ですが、実際のところはどうなのか、一つ一つをPoCのなかでファクトを示しながら答え合わせしていった結果、これならサービスとして成立しそうだ、というのが私たちの判断でした。サービス開発も大規模にはなりましたが、その先にはこういう新しいオポチュニティがあるだろう、といった展望も見つけられましたので。
――他に「買い替え割」を実現するにあたって課題などはありましたか。
返送用の資材が、このビジネスにおいてはかなり大きな課題でした。先ほどお話しした通り、以前は返送用のダンボールをお客様にお送りしていたのですが、お客様がいかに楽に「商品を手放す」体験をできるようにするか考えたとき、購入していただいた商品とは別に空箱が届くのは体験として物足りない、という議論があったんです。
そもそもダンボールでなければいけない理由もないので、さまざまな素材のヒントを探すなかで、ヤマト運輸さんと共同開発のような形で不織布を使用したリユースバッグを作り、購入商品に同梱するようにしました。ZOZOTOWNで買い物すると、洋服と一緒にリユースバッグが入っているわけです。こうすると、後で買い取りの申込みがあったときに改めて資材を送る必要がありません。お客様は同封されているチラシにあるQRコードをスマホで読み取ればすぐに集荷依頼できます。伝票を用意する必要もないので、ヤマト運輸さんが引き取りに来てくれたらその場でバッグごと渡して完了です。
こういう新しい仕組みでお客様の利便性を高めることができたのは、1つの大きな価値になったと思っています。とにかくユーザー体験を簡単にしたいと考えて、時間のかかる査定を先出しし、商品を送るのに必要な作業も最小化できました。不織布という素材はリユースに向いていて、1つをクリーニングしながら5~6回は再利用しています。環境に対する意識が高い今の時代にもマッチするいい取り組みになったと感じています。
――もう1つのAIを活用した値付けについても教えてください。
AIによる値付けの仕組みは、2019年に本格的に開始しました。買い取りというビジネスは、値付けもすごくシビアな課題です。売ってくださるお客様はその下取り価格に満足できるから手放してくれるわけですし、その中古商品を買ってくださるお客様も価格に納得がいくから買ってくれます。なので、価格、値決めの方法について私たちは10年間、ずっと考え続けてきました。
そんななかで「買い替え割」を始めたのですが、そこで過去にどのお客様がどの商品を購入した、といった情報だけでなく、どのお客様がどれを手放したか、という情報も得られるようになりました。特定のお客様の新品購入から下取りまで、通常の買取サービスでは得られない一連の情報がわかるので、たとえば下取りで送られてきた商品の検品の際にも、どのお客様のどの商品が届くのかあらかじめ把握でき、検品も素早く完了します。そして、その情報をZOZOUSEDの販売にもつなげられます。
もとはZOZOTOWNで販売されていたものですから、その商品の新品時の情報があり、発売日や販売価格がすぐにわかりますし、お客様の購買データなどと何らかの方法で掛け合わせることで自動で値付けし、さらにその精度を向上させられる可能性もあります。そこで、AIを値付けに活用できないかと考え、これもPoCを何度も回して実用的なAIの機械学習モデルを作り上げました。
――具体的にはどのようにAIを利用していますか。
今は2つの用途でAIを活用しています。最初に始めたのは「一次値付け」と言われる部分で、お客様がZOZOTOWNで過去に購入した商品1つ1つの下取り価格を表示するところです。それをしばらく運用してデータ量が増えてきたことで精度が上がり、AI導入以前と比べて25~35%高い下取り価格を提示できるようになった、という成果にもつながっています。現在は全体のおよそ70%をAIで値付けしています。
残り30%の大部分は、AIではないルールベースの処理にしています。「こういう条件のこういう商品はこの価格にする」という感じですね。それもデータが蓄積されていけば、いずれはAI処理に移行する可能性もあります。また、基本的にはZOZOTOWNで販売していた商品を下取りしているのですが、ZOZOTOWN以外のところで購入した商品も同梱して送っていただけるようにしています。その際には、ごく一部で人の目を通して査定するプロセスも存在します。
もう1つのAIの用途は、私たちがZOZOUSEDで出品する直前の段階でもう一度値付けし直すところ、「二次値付け」と呼んでいる部分です。古着の需要はどんどん変化します。下取りで買い取った時点から実際の販売開始までに時間が空くと、商品自体の価値も変わるんです。それを考慮して出品時に再度値付けを行い、最新の需要における適正な価格にセットできるようにしています。
――ユーザーが下取りに出す順番やタイミングによっては価格が変わることも?
そうですね。同じ商品でも、次に下取りに出してくださるお客様に対してはより高い買い取り額を提示できる可能性はあります。ただ、需要が下がっているときはZOZOUSEDで購入するお客様にとって納得感の高い値段になりますし、反対に需要が高まっているときは下取りで高く買い取れます。値付けの精度の向上は常々改善していくべき課題として捉えていますが、私たちは、1つ1つの商品をその時点において最も適正な価格で扱えるようにする、ということを重視しています。
AIを活用した値付けは販売スピードのアップにも貢献しています。ZOZOUSEDを訪れるお客様からは「見に来るたびに新しい商品があってワクワクする」というような声もいただけていますし、商品の回転の早さという点でも役に立っていると感じています。
――リユースという括りでみるとフリマアプリも競合になってくるように思います。そのなかでユーザーがZOZOUSEDを利用したくなるモチベーションはどこにあると考えますか。
中古売買という観点ではフリマアプリも競合に入るかもしれませんが、もっと広い視点で見ると、そもそも中古売買サービス自体まだ使ってない人が大多数です。あまりライバル視はしていませんし、フリマアプリに出品するのと「買い替え割」に出すのとではニーズも異なると思っています。
フリマアプリは自分の手間をかけてでもできるだけ高く売りたい、というのが目的だと思います。一方で「買い替え割」など当社のサービスは、その手間を軽くしたい、楽に商品を手放したいというのが目的だと思っていて、そのためにも私たちは「簡単・楽」をすごく意識してUXを磨き込んできました。「大変だけど高い」と「楽だけど安い」のうち、後者を選ぶ方は一定数いらっしゃいます。しかもそれがZOZOTOWNの使い慣れたUIで提供されている。簡単に使えるし下取りもしてくれるのなら、また次もZOZOで買おうかな、と思っていただける。そういう場を作り出せていると考えています。
――世界的にも注目されているサステナビリティですが、ZOZOUSEDのこれまでの取り組みにおいてはそのあたりも意識しているのでしょうか。
私たちはリユースビジネスを10年、その前のクラウンジュエル時代から考えるともっと前から手がけていて、サステナブルな活動についても理解を深めてきているつもりです。最近はトレンドとして目を向ける方も増えてきている状況だと思いますが、私たちとしてはそこに意識的に取り組んできたつもりはあまりなく、昔から当たり前のようにやってきたこと、というイメージです。
ただ、私たちが取り扱う商品は膨大で、年間1000万件にも及びます。大量の商品を扱いつつ、ZOZOTOWNでの新品販売とZOZOUSEDの「買い替え割」という循環の仕組みを持っているのは、他にあまりなく、社会的な要請にも一定程度応えられていると感じています。ZOZOの会社方針としてサステナビリティステートメントを定めており、そこにもうまくフィットした事業だと感じていますし、その意味でもこの事業を今後もしっかり伸ばしていきたいですね。
――サステナブルの観点で、今後アップサイクルやリメイクで新しい商品を作り出していくようなことは考えてらっしゃいますか。
現時点では特に予定はありません。が、可能性としてはあると思っています。リメイクについては社内でもアイデアとして出ますが、ビジネス化してマネタイズしていく、そのためにコストをかけていく、というところにはノウハウ面の課題もあってなかなか至りません。スポット的な企画であればやりやすいかもしれませんが、それにしてもアパレルメーカー様などとの協力なくしては不可能です。リメイク販売などの可能性は模索していきたいと思いつつも、私たちだけでは決してできない取り組みなので、今後ビジネスを広げていきながらいずれ新しいトライとして実現できたら、と思っています。
――ZOZOUSEDの成長によるZOZOTOWNへの波及効果や相乗効果みたいなものは感じていますか。
それはありますね。古着を買われるお客様や、洋服を手放したり「買い替え割」を利用されたりするお客様はファッションへの関心が高くリテラシーも高いので、こういったサービスの使い方がとても上手です。お客様がZOZOUSEDで買い物したり、「買い替え割」などを利用したりすると、その後はわかりやすくZOZOTOWN内におけるロイヤリティが上がる、ということがデータからも見えています。
特に、「買い替え割」は、お客様にとっては買い物の原資を得ているのと同じような感覚だと思います。5000円の商品が1500円値引きされて3500円で買えたとき、お客様としては「1500円節約できた分で、次にまた何か買おう」という気持ちにもなりやすいのかなと。それでまたZOZOTOWNに戻って買い物してくださる、というようなお客様が増えていると実感しています。
――ZOZOUSEDとしての短期および中長期的なゴールがあれば教えてください。
お客様に対して、商品を手放したり、新しいものを買ったりという循環的な行為を体験として提供できるのが私たちの強みです。利用していただけるお客様をいかに増やしていくかがまず1つのゴールというか、目指すところだと思っています。そこにKPIを定めるというよりは、とにかく1人でも多くの方に体験していただきたいです。
短期的には、商品取扱高がわかりやすい指標になるかと思います。前期の2022年度は19.3%の成長、2023年度も9.7%成長を目標に掲げており、まずはこれをきちんと達成したい。一方で中長期のゴールは常に模索し続けなければいけないとも思っています。一次流通を持ち、二次流通も手がけていて、それをつないで循環させる仕組みも整っているZOZOは希有な例です。私たちでしか生み出せない体験価値をしっかりと作って、目標以上の成長につなげていきたいですね。
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