パナソニックホールディングスが、2023年度から新たにスタートしたPanasonicWELL本部の取り組みについて、同本部長を務める執行役員の松岡陽子氏が説明した。「人々の健康と幸福を創る新しいビジネスを生み出していける会社にすることなどが、PanasonicWELL本部ミッションである」とする一方、次世代ファミリーコンシェルジュサービスである「Yohana」が、「PanasonicWELLの軸になる」と位置づけた。同サービスは、国内では東京都、神奈川県に加えて、千葉県、埼玉県にもサービス範囲を拡大するとともに、サービス利用料金を月額1万8000円から、1万円に値下げしたことも発表した。
パナソニックグループでは、共通戦略のひとつとして、「一人ひとりの生涯の健康・安全・快適」を掲げており、PanasonicWELL本部は、この領域において、グループ全体から発生するデータを、デジタルによって統合し、より良い商品やサービスを生み出し、加速する役割を担う。
パナソニックホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は、「今後は、くらしのソリューションプロバイダーを目指す」と宣言。「単にハードウェアを売るだけでなく、くらしのなかで、一人ひとり、あるいは1家族ずつにとって、一番いいものを提供することを突き詰めていく」としており、それを実現する推進役が、PanasonicWELL本部となる。
松岡執行役員は、「パナソニックグループは、松下幸之助創業者が示したように、くらしに寄り添い、人々の幸せを追求してきた企業である。その一方で、世界が変わり、お客様のニーズも変化し、新たなテクノロジーによって、ドローンが飛び、AIが活用され、農業も工場も変化している」と前置きしながら、「だが、家族のくらしのなかにはテクノロジーが入ってきておらず、アナログのままである。PanasonicWELL本部は、人々の健康と幸福を創る新しいビジネスを生み出していける会社にすること、最先端のテクノロジーを活用したサービスを家族に提供するプラットフォームを構築すること、シリコンバレーのノウハウやテクノロジー、ソリューションを、パナソニックグループの社員などが学べる機会を提供し、既存のビジネスや製品を強化するループを作ることがミッションとなる。顧客一人ひとりに合った価値を提案する『くらしのソリューションプロバイダー』として、家族の健康、安全、快適を追求していく」と語る。
PanasonicWELL本部では、ミッション達成のためには、ハンティングゾーンを捉えたビジネスを推進することが重要だとする。
ハンティングゾーンは、「ビジョンとビジネスを結びつけるもの」、「他社よりも上手に解決でき、顧客の問題がたくさん存在する領域」と定義。「顧客を惹きつけ、顧客を助けられる課題」、「メガトレンドを捉えた社会ら全体の潮流」、「いまのタイミングを外さない市場の魅力度」、「パナソニックグループだからこその優位性」の4つの要素が重なったゾーンを指している。
「パナソニックグループの優位性は、お客様との接点が多く、近いこと、家族に信頼され、多くの製品が家庭内で利用されていることである。これは他社にはない強みである。また、社員にはタレント性があり、方向を示すと一気に走り出すことができる会社である」と自己評価する。
こうした強みを生かしながら、PanasonicWELL本部では、liveWELL、learnWELL、playWELL、careWELL、eatWELL、workWELLの6つの領域をハンティングゾーンと位置づけ、「最先端のテクノロジーがあるから、これらの領域にアプローチするのではなく、人間を勉強し、人間のためにやることを中心にサービスを考えた上でビジネスを進めることが大切だ。長年、ホームオートメーションに携わって感じるのは、テクノロジーファーストの取り組みでは成功しないということである。ハードウェアとソフトウェアを混ぜ、そこに人が関わること、くらしを支えていくことが必要である」などと語った。
一方、AIについては、「多くの会社がやみくもに生成AIを導入しようとする今の動きは、世界を実験場にしているだけであり、決していいことではない。パナソニックグループは、人間のためのAIであることが大切だと考えており、For Humansを実現するために、信頼に応えることができるResponsible AIが重要だと捉えている。また、最終的な判断は人間が行うHuman in the loopという考え方が大事であり、パナソニックグループは、判断などに人が入ることができるBy Humansに取り組む。そして、AIを理解し、どう使っていくべきかをわかっている人たちと仕事をするWith Humansの重要性も感じている」と発言。「Yohanaは、AIなどの新たなテクノロジーに頼ったサービスではなく、人が多く入っているサービスである。パナソニックグループが目指すウェルビーイングにおける最初のサービスがYohanaであり、PanasonicWELLの軸になる」と述べた。
Yohanaは、忙しい家族のくらしをワンストップでサポートし、解決することを支援する次世代ファミリーコンシェルジュサービスであり、松岡執行役員が、YohanaのCEOを兼務している。
Yohanaは、2021年9月から米シアトルで「Yohanaメンバーシップ」のサービスを開始。2022年6月には米ロサンゼルスでサービスを提供し、2022年10月からは全米に展開している。国内向けには、2022年9月に神奈川県でサービスを開始したのに続き、2023年2月には東京都でもサービスをスタート。このほど、千葉県、埼玉県を加えて、一都三県へとサービスエリアを拡大した。
日米累計で約12万件以上のTo-do(タスク)をサポート。日本においては、30代が47.4%、40代が42.9%と、子育て世帯の利用が中心だが、介護世代となる50代以上や単身者、男性の利用も増加。国内における男性比率は22.0%となっている。
日本で利用されるカテゴリーとして最も多いのが「フード&グルメ」で約25%を占めるという。ここでは、献立の提案や買い物リストの作成、ネットスーパーの買い物サポート、レストラン予約などを行っている。また、2~5位のカテゴリーは、いずれも約10%を占めており、国内および海外旅行のプランニングやホテル探し、予約を行う「トラベル」、習い事や塾関連、おすすめの絵本のリサーチなどを行う「教育」、必要なアイテムのリサーチおよび手配などを行う「ショッピング」、家事や掃除の代行、整理収納、ベビーシッターサービスのリサーチ、洋服のクリーニングなどを行う「ファミリーケア」の順となっている。
「Yohanaは、アプリを通じて、日々のくらしのTo-doを簡単に依頼できるのが特徴である。日本のユーザーの声を反映して、新機能や新カテゴリーも積極的に追加している。自分では考えられなかったTo-doや、季節性のある要件に関しても提案している。日本では、フード&グルメの利用が米国の2倍の水準となっており、教育が上位5位に入っているのも日本ならではの特徴だといえる。米国では、ハロウィンの6週間前に準備をするように告知をしたら、約30%のメンバーから依頼があった。子供が勝手に仮想したいものを言い出したり、すでに衣装が売れ切れている1週間前に決めたりすることで、親には多くのストレスがかかっている。この負担を軽減できた」と語った。
Yohanaの利用者からは、「やらなくてはならないことをYohanaに頼むことで、プレッシャーから解放され、心に余裕ができた」、「困ったときには気を遣わずにYohanaに質問できる」、「頼れる相棒ができた」などの声があがっている。
「Yohanaは、忙しい家族、共働きの家族の状況を徹底的に勉強した。その上で、なにを作ったらいいのかということを考えて、サービスが生まれている。それが高い評価につながっている」と胸を張る。
日本独自のサービスとして提供している「Yohanaプライムプロサービス」も好評だという。Yohanaが直接トレーニングしたスタッフが、料理代行サービス、掃除代行サービス、整理収納サービス、住宅修繕サービスを行うもので、月額料金とは別料金で提供している。
なお、Yohanaにおいても生成AIのテクノロジーを活用しており、検索時間の短縮や品質の向上にも貢献。一人ひとりに合わせたサービスに進化させるためにも生成AIを活用する考えを示した。
国内でのサービス開始から1年を経過したことにあわせて、サービス利用料金を月額1万8000円から、1万円に大きく値下げした。
「より多くの人に、Yohanaサービスを届けるために、新たな価格設定とした。下げてほしいという要望があったから下げたわけではない。米国では、すでに249ドルから129ドルに下げたが、これもリーチの幅を広げることと、サービスにおいて、生成AIの活用が可能になり、継続性の観点から値下げが可能になったという背景がある」と述べた。
また、企業向けには、社員の福利厚生のためのサービスとして提供するほか、多くのユーザーからの声を聞き、積極的にプロダクトをアップデートしていく姿勢も示した。
「家での困りごとをYohanaがサポートすることで、仕事における生産性を高めることができる。企業にとってもメリットがあるサービスになる。また、男性が増えていることを捉えて、男性をターゲットにしたTo-doも強化したい」という。
松岡執行役員は、これまでの取り組みを振り返り、「Yohanaのプロジェクトに関わってくれたメンバーの成果という点では10点満点で10点以上、使ってもらっている人に喜ばれるサービスが提供できているかどうかという点では10点満点で10点。だが、家族が困っていることを誰かにお願いしたり、聞いてみたりという動きが、日本ではまだ鈍いということについては、10点中6点。もっとメッセージを出して、Yohanaが家族をサポートし、豊かな生活に貢献できることを訴えたい」とする。
一方、今後のPanasonicWELL本部から創出する新たなサービスなどについては言葉を濁すが、その一方で、松岡執行役員が率いる「Team Yoky」に、今後必要な人材として、「ウェルネスに関するスキルを持った人たち」をあげてみせた。
米Googleや米アップルの本社で副社長を務めた松岡氏が、2019年10月に、パナソニックグループに入社してから、いよいよ5年目に入ることになる。PanasonicWELL本部が、ウェルネスを重視しながら、どんな次の一手を打ち出すのかが注目される。
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