事業を創るCFOが語るタイミーの成長戦略--人口減少の労働力を補う社会インフラ目指す

 橋本環奈さんが登場するCMで知られるスキマバイトマッチングサービス「タイミー」を展開するタイミーが、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行の3行から総額130億円の大型資金調達を実施したことを、9月25日付けで発表した。しかも、一般的なスタートアップでは難しいとされる、無担保・無保証、借入金利1.0%未満という破格の条件での借入であるという。

 同社は2022年11月にも同様な銀行借入の形で3桁億円の調達を実施しており、今回の調達によって、2018年8月のサービスリリース以降の累計調達額は約403億円に達している。なぜ成長過程である同社の事業が投資家から高く評価されるのか。タイミー 取締役 CFOの八木智昭氏に、事業モデルの優位性と同社が描く成長戦略について聞いた。

タイミー 取締役 CFOの八木智昭氏
タイミー 取締役 CFOの八木智昭氏
  1. “スキマバイト”という概念を確立
  2. 2年連続で大手銀行から大型の資金調達
  3. わずか5年で急成長を遂げたタイミー
  4. 資金を投下し業種軸とエリア軸で面の拡大を急ぐ
  5. 社会課題を解決できるインフラとして高い評価を得る

“スキマバイト”という概念を確立

 「タイミー」は、ワーカーの「働きたい時間」と企業の「働いてほしい時間」をマッチングするスキマバイトサービスである。働き手は、登録後にアプリを通じて働きたい案件を選ぶだけで面接無しですぐに働くことができ、勤務終了後すぐに報酬を受け取ることができる。事業者は、来て欲しい時間や求めるスキルを設定するだけで、条件にあった労働力を得ることができるという仕組みとなっている。

 組織としては、代表取締役を務める小川嶺氏が大学在学中の2017年に起業。事業転換を経て2018年から現在のサービスを開始し、そこからわずか数年で事業を大きく成長させてきたが、それを傍らで支えているのが2020年12月に入社したCFOの八木氏である。八木氏は事業拡大期であるレイターステージからタイミーに参加し、ステージD以降での複数回の大型の資金調達・借入案件をまとめてきた。

 八木氏はファイナンスのみならず、コーポレート本部、経理・財務・IR・法務の管掌役員であり、事業サイドの一部もあわせて管掌していることから、事業を創り、語れるCFOという立ち位置である。今回の調達について八木氏は、「足元で想定を上回る事業成長が見込まれることに加え、今後のさらなる成長を実現するためにこのタイミングでの積極的かつ継続的な投資が必要との判断から、追加の資金調達を行った」と説明する。

2年連続で大手銀行から大型の資金調達

 タイミーはこれまで、スタートアップの資金調達ラウンドを経て、2022年11月には大手銀行8行からの借入により総額183億円の資金調達を行い、続けて今回3行から総額130億円の資金調達を行った。調達方式はエクイティファイナンス(新株や新株予約権付社債の発行などにより調達される株主資本による調達)という形ではなく、デットファイナンス(銀行からの借入)で実施。銀行からの借入形態も、複数の金融機関が協調してシンジケート団を組成して資金を集めるシンジケートローンではなく、金融機関と1対1の相対取引(コミットメントライン)という形である。

 「まだ実績のないスタートアップが2年連続で、3桁億円という大型の借入を相対取引で実施することは珍しい。しかも金利も年利1%未満、条件も無担保無保証で、通常のプレーンな銀行借り入れという形になっている。前回の調達時にも『何か契約上の条件があるのでは?』と他所から勘繰られたが、実際に資金の活用に当たって、基本的に条件や使途の制約もない。今回、通常取引をしている既存の3行から昨年同様の条件で引き続き支援していただいているが、これは我々が事業計画を達成し、業績や財務状況も評価されている証といえる」と八木氏は足元の状況を説明する。

わずか5年で急成長を遂げたタイミー

 審査基準の厳しい銀行が実績の少ないスタートアップに対してそこまでの条件で融資を行うのは、今後の事業成長に対する期待の証にほかならない。実際に、タイミーのビジネスは、この5年で大きな成長を遂げている。

 利用者数については、スキマバイトをするワーカーの数は、2019年末時点の73万人から5年間で約6.8倍に増加し、2023年6月に500万人を超えている。求人を掲載する事業者の数も、2023年6月段階で事業者数は2019年比で約27倍となる4万6000社、事業所数は約16倍の13万拠点と大きく増加している。タイミープラットフォーム上での募集人数も右肩上がりで成長を維持し、昨年度からの伸びも3.2倍という高い数字を維持。それを支える同社の従業員数も倍増している状況だ。

タイミーを活用したワーカー総数の推移
タイミーを活用したワーカー総数の推移
タイミーを利用している事業者数(上)と事業所数(下)の推移
タイミーを利用している事業者数(上)と事業所数(下)の推移
タイミーを利用している事業者数(上)と事業所数(下)の推移
タイミーを利用している事業者数(上)と事業所数(下)の推移
募集人数と従業員数の推移
募集人数と従業員数の推移

資金を投下し業種軸とエリア軸で面の拡大を急ぐ

 これらの成長の裏側にあったのが、積極的な投資戦略である。「市場では、ワーカーのすぐに働きたいというニーズと、事業者のすぐに人を集めたいというニーズが合致している。そのニーズが強いことを確信しているので、今はワーカーと事業者をいかに早く多くの人を集められるか、そしてタイミーを知ってもらえるかが重要であり、そのためには資金を投下して一気に面を取っていくことが大事になっている」と八木氏は語る。

 獲得を目指す“面”の中には、「業種」と「エリア」という2つの軸が存在するという。まず業種軸としては、現在は物流や飲食、小売業がメインだが、その上で現在はコロナ禍の揺り戻しもあってホテル、農業、レンタカー、イベントなどの新しい業種でのスキマバイトニーズが増えていっているとのこと。新規の業界を開拓する際には、人手不足の業界に対して、タイミーのカスタマーサクセスがスキマワーカーを使いやすいように伴走型で支援を行っている。「オペレーションを切り分けて、非専門領域以外の仕事をタイミーのワーカーに分担させるなどの提案を行う事で、タイミーで労働力を確保できることを理解してもらい、新規の業界を拡大している」と八木氏はいう。

 エリア軸では、現在タイミーは国内主要都市を中心に7支社で事業を展開しているが、「従来の拠点を置いている主要都市で営業活動に加えて、各拠点の周辺都市へとサービスを広げつつあり、支社の営業人数も増やして広域での求人企業の開拓も進めている」(八木氏)という。ここでは、主要都市圏以外では求人が少ないという現状の課題をいかに克服できるかがカギを握っている。

 そこで業種とエリアの面を広げていく上では、引き続き人手とマーケティングプラン、更にプラットフォームを強化するための開発リソースが必要となる。そのような現状を踏まえた上で、今回調達した資金は主に3つの用途で活用するという。

 1つめは「積極的な人材採用」で、エンジニアやカスタマーサクセス(営業)をはじめ、全職種での積極的な人材採用を計画しているという。タイミーは現在、毎月30人から40人のペースで社員が増えており、「従業員数は2022年末に546人、2023年8月で800人を超え、今のペースで行くと年末までに1千人を超える」(八木氏)との状況が見込まれており、そこでの人件費や採用費に充てる形となる。

 2つめは、「ワーカー獲得のためのマーケティング費用の増加・投下」である。「事業者から求人を出してもらってもワーカーが集まらないと意味がない。そこで、業種面・職種面の拡大と両輪でテレビCMを放映し、ワーカーにアピールしている。これまでも主要都市圏を中心としたテレビCMの放映によって認知度を高めてきたが、引き続きテレビCMやデジタルマーケティングに予算を投入していく」と八木氏は説明する。

 3つめは、「ワーカーへの給与建て替え支払いの増加への対応」である。タイミーでは、即日払いの仕組みを実現するために、同社が給与を立て替えるというビジネスモデルであるため、規模が増えると当然立替払い用にプールしておかなければならない資金も必要になる。

 これらの結果、「資金を投下して全体のパイを増やし、より速いスピードで事業拡大を進めていく」(八木氏)という方針である。

社会課題を解決できるインフラとして高い評価を得る

 もうひとつ、大手銀行が好条件で融資をする理由が、ビジネスの公共性と、スキマバイトという仕組みがこの国が抱える労働者不足問題と直結している部分である。日本社会が抱える大きな負の問題に対して働き方の多様化を示し、このままスキマバイトサービスが労働力を確保するためのインフラとして順調に機能していけば、さらなる大きな事業成長が見込める。

 もともとタイミーは、飲食業を中心にサービスを展開してきたが、コロナ禍での営業自粛や時短営業でニーズが激減、逆に巣ごもり需要で増加した物流ニーズに対応する形で成長を加速させてきた。そして現在は、コロナの落ち着きに伴ってもともと人材不足が問題視されていた飲食や販売、更に需要が復活した旅行やレジャー、出張に関連する業界での労働力不足も顕著になっており、ホテル・旅館やレンタカー、イベント業界での新たなニーズが生まれている。つまり同社の事業成長の起点は、社会課題や困りごとの解消にある。そしてそこは、まさしく八木氏がタイミーに参加した動機でもあるという。

 「今の採用の仕方や働き方は、何十年も変わっていない。紙からインターネットに、スマホへと進化するなかで仕事探しにおけるユーザーの利便性は高まっているものの、アルバイトにおける根本的な働き方や採用プロセスはそのまま。かつての人手余剰の時代にはそれで良かったが、今は人手不足で、今後もそれが深刻化していくことを考えると、働き方と採用の仕方は絶対に変えないといけない。タイミーはそのミスマッチを是正することができるインフラサービスなので、構造的に必ず成長すると確信していた」と、八木氏は胸の内を明かす。

タイミープラットフォーム上での業種別募集人数の推移
タイミープラットフォーム上での業種別募集人数の推移

 今後は、システム面での改善も行っていくという。八木氏は、「今は1日単位でしか働けない仕組みなので、ワーカーの空き時間と働ける時間がシームレスに繋がっているとはいえない。そこでまず、プロダクトの改善が必要になる。またアプリの使い勝手についても、これからもデータがどんどん蓄積されていくので、データに基づいてワーカーに対して働きたい仕事がすぐに見つかるようにするためのレコメンデーション機能も実装していきたい」との見通しを示す。

 マーケットが大きいからこそ、事業にコミットしてしっかりと社会課題を解決できるインフラ作りを愚直に続ける――。八木氏は同社の成長戦略をそのように表現する。

 「エリアやマーケットに加えて、今求人を出してくれている企業内でも、追加で仕事を出してもらう余地は十分にある。全国の働きたい人がすぐに働ける環境を整備し、最終的に電車や銀行、水道、エネルギーのような社会インフラのひとつになることが我々の使命。まだまだ積極的に投資をして、チャレンジを続けていく」(八木氏)

「タイミー」公式サイト

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