2023年のiPhone新モデル「iPhone 15」シリーズが発表され、充電などに用いるコネクタ部分がアップル独自の「Lightning」から、汎用の「USB Type-C」(USB-C)に変更されたことが話題となった。なぜアップルは、これまで継続してきたLightningからUSB Type-Cに変更したのはなぜか、またUSB Type-Cに変わることでユーザーにはどのような影響があるのだろうか。
アップルが毎年9月半ばに新機種を発表するiPhone。2023年も例年通り、日本時間の9月13日未明に、新しいiPhoneの「iPhone 15」シリーズが発表された。
その詳細な内容は既報 の通りだが、中でも大きな注目を集めた要素の1つが、充電やデータ転送などのために有線ケーブルを接続するコネクタ部分の仕様変更だ。iPhoneのコネクタはこれまでアップルの独自規格のものを採用しており、「iPhone 14」シリーズまでは「Lightning」という規格が用いられていた。
だが、iPhone 15シリーズでLightningコネクタが廃止され、「USB Type-C」(USB-C)に変更されることとなった。USB Type-CはUSBインプリメンターズ・フォーラム(USB-IF)が定めたUSB規格に則ったコネクタの規格であり、現在はパソコンや、Androidスマートフォンなどに幅広く使われている汎用性の高いものだ。
それだけに、iPhoneのコネクタが独自規格からUSB Type-Cに変わったことを歓迎する向きは少なからずある一方、既存のiPhoneユーザーからしてみれば、保有していたLightningケーブルが使えなくなるデメリットも生まれてくる。では一体なぜ、アップルが長年独自規格にこだわり続けてきたiPhoneのコネクタを、現在のタイミングで変えるに至ったのだろうか。
理由の1つと見られているのがいわゆるプラットフォーマー規制だ。近年「GAFA」などと呼ばれる巨大IT企業が社会に与える影響力の大きさに対して、国家が懸念を示し規制を強める動きが加速しているが、とりわけその動きを強めているのが欧州連合(EU)だ。
EUによるプラットフォーマー規制はコネクタにも及んでおり、2022年10にはモバイル機器などの充電コネクタにUSB Type-Cを採用することの義務化を打ち出しているのだが、そのターゲットと見られているのがアップル、ひいてはLightning規格である。
アップルはコネクタにLightning規格を採用した機器を開発する周辺機器メーカーなどに対してMFi(Made for iPhone)プログラムによる認証を要求しており、過去には認証を受けていない機器がOSのアップデートなどで利用できなくなることも起きていたようだ。
アップルとしては周辺機器の品質を保証したい狙いがあるのだろうが、EU側は同プログラムがアップルに利益をもたらす一方、周辺機器メーカーの公正競争を阻害する要因になっていると判断し、規制に至ったようだ。
とはいえ規制されてしまった以上、それに従わなければEU加盟国でiPhoneを販売できなくなってしまう。そこで規制が始まる2024年末までに対応を進めるべく、iPhone 15シリーズでUSB Type-Cを搭載するに至ったのだろう。
だがもう1つ、アップル自身もLightning規格に限界を感じていたのではないか?という見方もある。そのことを示しているのが「iPad」であり、「iPad Pro」では2018年、最も安価な「iPad」でも2022年からコネクタがUSB Type-Cに変更されている。
アップルがiPadにUSB Type-Cの採用に踏み切ったのは、周辺機器のエコシステムによるところが大きい。iPad、とりわけ「iPad Pro」シリーズはここ最近、機能・性能ともに“Mac化”、つまりビジネスシーンで活用するコンピューターとしての存在感を強めている。
それだけにiPadをMac向け周辺機器と接続したいニーズが高まっていたことから、互換性を重視してUSB Type-Cを採用するに至ったといえよう。そしてMacだけでなくiPadもUSB Type-Cに移行したとなれば、今後の機器間連携などを考えるとiPhoneもUSB Type-Cに移行するのが自然な流れといえるだろうし、もしEUによる規制がなかったとしてもiPhoneのコネクタ変更は時間の問題だったのではないだろうか。
ただどのような理由があるにせよ、iPhone 15でコネクタがUSB Type-Cに変更されることは間違いない。では実際のところ、コネクタがUSB Type-Cに変わることで何が変わるのだろうか。
実はUSB Type-Cはあくまでコネクタの規格であり、実際に接続して通信する部分の規格は別に存在している。それゆえ同じUSB Type-Cのコネクタを採用したケーブルであっても、内部の規格の違いでデータを伝送する速度や、使える機能などに違いがあることも少なくない。
アップルのWebサイトでiPhone 15/iPhone 15 Proの仕様を確認してみると、USB Type-Cコネクタでできることの1つ目は、当然のことながら「充電」である。iPhone本体への充電に加え、iPhoneから「AirPods Pro(第2世代)」など周辺機器へ充電することも可能となっている。
ちなみに仕様を確認すると、アップル純正の「20W USB-C電源アダプタ」で急速充電ができるとされているが、それ以上の電力でより高速な急速充電ができるかという点は記述がなされていない。
2つ目は「DisplayPort」、要は外部ディスプレイへの出力だ。仕様を確認すると「USB-C経由のDisplayPort出力」または別売りの「USB-C Digital AVアダプタ」を使うことで最大4K HDRのビデオミラーリングやビデオ出力に対応するとされている。
そして3つ目は「USB」、つまり外部機器とUSBケーブルで接続することである。ただiPhone 15とiPhone 15 Proとで仕様には違いがあり、前者は「USB 2」、後者は「USB 3」と記載されているのだが、これは採用するUSBの規格の違いを示している。
実はUSB Type-Cはあくまでコネクタの規格であり、実際に接続して通信する部分の規格は別に存在している。それゆえ同じUSB Type-Cのコネクタを採用したケーブルであっても、内部の規格の違いでデータを伝送する速度や、使える機能などに違いがあることも少なくない。
そしてUSB 2は「USB 2.0」規格への対応を示しており、データの伝送速度は最大480Mbpsと、Lightningを採用していた従来のiPhoneと変わらない。一方のUSB 3はより上位の「USB 3.0」以降の規格に対応することを示しており、iPhone 15 Proでは最大10Gbpsでのデータ伝送が可能とされていることから、USB 3.1(Gen2)以降の規格を採用していると推測される。
なぜiPhone 15とiPhone 15 Proとで採用する規格が違うのかといえば、ひとえに用途の違いが影響している。iPhone 15は幅広い層が利用することが想定されており、大半の人は充電のためにUSB Type-Cコネクタを使うと考えられる。それゆえ高速伝送はあまり必要とされないことから、USB 2で十分とのの判断に至ったのだろう。
一方、iPhone 15 Proは写真や映像のプロが利用することを想定しており、そうした人達は後からデータを加工しやすいよう、劣化が少ないもののファイルサイズが大きい「ProRAW」や「ProRes」といったフォーマットで撮影することが多いと考えられる。そうした大きなファイルをMacや外部のストレージにいち早く送るには、高速な伝送速度が求められることから、より上位のUSB 3を採用したのだろう。
ただこうした規格の違いが存在するだけに、ユーザー側も接続するケーブルや機器の仕様をしっかり確認しておかないと、思うようなパフォーマンスを発揮できない状況に出くわす可能性がある。ケーブルによって対応している規格が異なるためだ。
とりわけ高い性能を欲するiPhone 15 Proを利用する人は「USB Type-C対応ならどれでもOK」という訳にはいかないと思われるので、ケーブル選びに慎重さが求められることとなりそうだ。
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