台湾のスポーツデータを世界に--台湾デジタル発展省ら、日本との連携目指し「SPORTEC2023」で披露

 データの価値が世界的に高まる中、プラットフォーマーによる囲い込みを避けるべく、各国でデータの効果的かつ適正な利活用に向けた「データガバナンス」に関する取り組みが進んでいる。その一環として欧州では、2022年にデータガバナンス法を策定。同法で示された「データ公益(Data Altruism)」の考え方が1つのデータ活用の在り方として注目されている。

 その中で台湾では、スポーツの世界でデータ公益の原則に則したデータ活用を進める取り組みが始まっている。8月2〜4日に東京ビッグサイトで開催された「SPORTEC2023」に、台湾のデジタル発展省となる数位発展部(MODA:Ministry of Digital Affairs)およびスポーツテック関連企業5社が参加し、日本の官民の関係者に対して取り組みをアピールした。

台湾パビリオン
台湾パビリオン
  1. 65種類のスポーツデータ標準を策定
  2. 台湾デジタル部門の要人が来日して説明
  3. “似ている”日本に向けて5社がアピール
  4. 政府レベルでの連携、アジアでの協力関係構築目指す

65種類のスポーツデータ標準を策定

 「データ公益」とは、組織または個人が公益のためにデータを提供することを意味する。台湾政府は2023年春、同思想を取り入れた「Sports Data Altruism(スポーツデータ利他主義) Service」をスタート。同サービスを基軸として、政府に対する国民の信頼を通じて収集したスポーツ関連のデータを、公益性が高い研究のために活用し、それを民間企業が利用することで、国内に新たな産業イノベーションを起こすことを目的とした活動を開始している。

 活動に当たりMODAは、スポーツデータの専門家と協力し、一貫したデータ仕様を通じてデータを共有するための「スポーツデータ標準」を定義。同標準では現在、野球、バドミントン、ランニング、ハイキング、フィットネス、体力、生理学的データなど65種類のデータ仕様を定義している。その上でMODAは、スポーツデータの公共プラットフォームとして「Sports Data Philanthropy Platform」を構築し、運営している。

 同プラットフォーム上には、これまでにMODAが主催したスポーツイベントや個人が装着しているウェアラブル端末などを通じ、スポーツデータが約41万件、フィットネスデータが約18万件、生理学的データが約6万件以上収集されており、31の企業が健康・スボーツに関する公共の福祉のためにデータを活用したサービスを提供しているという。

データの収集例
データの収集例

台湾デジタル部門の要人が来日して説明

 MODAは今回、東京・有明のビッグサイトで開催された日本最大のスポーツ・健康産業に関する総合展示会であるSPORTEC2023に参加し、「台湾パビリオン」を構成。MODAの主任秘書 黄雅萍氏が来日し、4年ぶりに開催された同イベントのオープニングセレモニーにも参加して、日本の政府関係者や企業に対してアピールした。

「SPORTEC2023」、オープニングのテープカットセレモニーの様子
「SPORTEC2023」、オープニングのテープカットセレモニーの様子

 台湾でのスポーツデータの活用に関して黄氏は、「あくまで公益データという扱いで、国民への還元を意識している」と話す。公共の利益のために活用するのであれば企業が使って良いという建付けであり、出口としては競技者の技術向上、スポーツ大会やイベントの設計、スポーツ関連ビジネス、ゲーム開発、ヘルスケア、予防医療などに役立てられる形となる。

 データの利用にあたっては、個人情報が伴わない形で収集されている。「台湾の人に合ったスポーツ機材や製品、技術を開発することに役立てて欲しいという考えを示し、合意の上でデータを集めている。データ提供者に対するメリットやフィードバックも重視している」(黄氏)という。

MODA 主任秘書 黄雅萍氏
MODA 主任秘書 黄雅萍氏

 SPORTECの会場では、Sports Data Altruism Serviceを活用した具体的な事例が紹介された。データ提供者にメリットが生じた例として黄氏は、障害者向けスポーツを挙げる。視覚障害者向けマラソン大会を開催し、参加者の同意のもと公益データを取得。集めたデータを個人情報が伴わない形で加工して、「視覚障害者が安全により早く走れるかを研究し、実際に1kmあたり25秒速く走れるようになったという実績データも出ている」(黄氏)とのことである。

 そのほかに活用例・応用例としては、アスリートのトレーニングでの活用が行われており、国内の企業がデータとテクノロジーを組み合わせて製品やサービスを提供している。そのほかに現在非アスリートの一般国民でも参加できる、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)を活用したデジタルを活用した新しいeスポーツ「新近代五種」の開発も進めているという。それらによって、国民の健康やトレーニング技術の向上、スポーツへの参加を促していく形となっている。

“似ている”日本に向けて5社がアピール

 MODAでは、データ公益主義に基づいて開始した台湾国民のスポーツデータを活用したビジネスを、自国のみならず海外にも広げていきたいという構えである。特に、個人から収集したデータの活用がなかなか進まない日本に注力しているという。黄氏は今回SPORTECに参加した意図について、「台湾でのスポーツデータの活用事例の紹介や、それらを実践しているスポーツテック先進企業と日本企業のマッチングが目的」と語る。

 「台湾人と日本人は同じアジア人で、体形も好きなスポーツも慣習も似ている。例えば台湾人はゴルフ、バスケ、マラソンが好きだが、そこで使う機材やトレーニング方法は似てくる。それをさらにアジア地域全体に広げ、アジアでのスポーツ産業の拡大が見込めるというところまでを見据えて、世界のスポーツ関係企業・団体が参加するSPORTECに出展した」(黄氏)

 実際に今回台湾ブースには、日本企業とのマッチングを希望する、スポーツデータを活用したサービスを提供する先進スポーツテック企業5社が出展した。

 H2U 永悦健康(えいえつけんこう)は、デジタルヘルスとスポーツのパイオニア的企業グループで、ヘルスメディアや運動関連のSNSを運営するほか、企業への看護師の派遣と併せて国内・海外企業に職場の健康管理サービスを提供している。同社の健診システムは、台湾の70%以上の健診施設で利用されている。また、台湾最大級のランニング・ウォーキングコミュニティやマラソン大会の運営も行っており、そこで得たデータをサービスに生かしている。

H2U 永悦健康サービス概要
H2U 永悦健康サービス概要
サービス利用者数
サービス利用者数
(一番左)H2U Founder Chief Sustainability Officer Yao Alfred氏
(一番左)H2U Founder Chief Sustainability Officer Yao Alfred氏

 Uniigymは、インタラクティブなフィットネスアプリを提供する。スマートフォンを活用し、アプリを見ながら自宅でフィットネスが可能で、エアロビクス、ダンス、筋力強化、ヨガ、子ども向けなど、さまざまな宅内でのスポーツメニューを揃える。スマホ画面で運動者(ユーザー)を撮影してAIで正しい姿勢を判定し、画面上で共に運動をしてくれる世界中のARコーチと対話しながら、自宅でも精度の高い運動ができる。また、ユーザーをアバター化して画面に表示するゲーミフィケーションの要素も取り入れている。

Uniigymサービス概要
Uniigymサービス概要
Uniigym CEO & Co-Founder Lin Jye氏
Uniigym CEO & Co-Founder Lin Jye氏

 Space Capsuleは、独自開発の小さなセンシングモジュールを衣服に装着させ、普通の洋服をスマートウェア化させる技術を持つ。センサーはモーションキャプチャーのように身体に密着させる必要がないため、ファッションやスタイルを選ばずに展開が可能。ゴルフ向けのサービスでは、フォームを記録しリアルタイムの3Dスイングデータと分析を行うほか、プロゴルファーのスイング動画と、スマートゴルフウェアを着用した運動データをAIで比較・分析することもできる。

Space Capsuleサービス概要
Space Capsuleサービス概要
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Space Capsule CEO Jay Hung氏
Space Capsule CEO Jay Hung氏

 BIO●(石に夕)響先創は、靴にチップが埋め込まれたAIoTインソール(スマートインソール)や、小さなAIoTウェアラブル聴診器を開発している。モーションログをスマートフォン経由でクラウドに転送し、AI分析で健康状態をチェックして、最適な健康管理の方法を提案するサービスを提供する。双方を活用することで、運動・健康センシングプラットフォームを構築できるという。

BIO●(石に夕)響先創サービス概要
BIO●(石に夕)響先創サービス概要
キャプション
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 WhiiZuは、インドア型のサイクリング・トレーニングアプリを提供する。サイクリングマシンとアプリを使用することで、室内で実際の地図上と同様のルートを走行する感覚を得られる。走行時のデータを取得し、健康のために活用できるだけでなく、自転に関わる選手の強化指導や、コーチングに役立てられるという。

WhiiZuサービス概要
WhiiZuサービス概要
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Uniwill Technology Senior Marketing Specialist Hsu Jason氏
Uniwill Technology Senior Marketing Specialist Hsu Jason氏

政府レベルでの連携、アジアでの協力関係構築目指す

 台湾におけるデータ公益の理念に基づくSports Data Altruism Serviceは、自国でもまだ国民や企業にこれから周知していく段階であるが、黄氏はスポーツデータ活用の取り組みに関しては今後、日本と協力していきたいと話す。日本からも、MODAに申請して公益性が認められればSports Data Philanthropy Platformのデータを活用することも可能になる見通しだ。

 「将来的には、政府レベルでデータの交換やデータを活用した更なるイノベーションで協力できることを期待している。日本のスポーツテック企業にも、台湾企業との協力や交流を進めて欲しい。それぞれの国のスポーツ産業を自国だけで発展させるのではなく、アジア全体で協力していく形が理想だ。その際には、単に各国の持っているものを輸出・輸入し合うのではなく、それぞれのソフトウェアとハードウェアを組み合わせて、ソリューションやイノベーションにつなげていくような協力関係が構築できることを期待している」(黄氏)

プレスリリース
SPORTEC

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