パナソニック、約300人で月産1000万個の最新IoTスリシティ工場--インドのものづくり

 パナソニック エレクトリックワークス社で、7重点事業の1つにもなっている海外電材。トルコ、ベトナムとともに主要拠点の1つとして数えられるインドには7つの工場を構え、インド国内を中心とした旺盛な需要に対応している。今回、人手による手組みと自動化のハイブリッド型生産設備を整えるハリドワール工場と2022年に建設し、完全自動化を推進するスリシティ工場の2つの工場から見えてきた、インドのモノづくりの現場をレポートする。

 ハリドワール工場は、2007年に旧松下電工が買収したインドの配線器具会社、ANCHOR Electricalの工場をそのまま使用している。射出成形や圧縮成形、金属加工などを担う「ハリドワール工場 Unit1」と部品の組み立て、製品の組み立てを担当する「ハリドワール工場 Unit2」から成り、総従業員数は4800人に上る。

ハリドワール工場の外観。2007年に買収したインドの配線器具会社「ANCHOR Electrical」のブランドも残す
ハリドワール工場の外観。2007年に買収したインドの配線器具会社「ANCHOR Electrical」のブランドも残す
ハリドワール工場。総従業員数は約4800人
ハリドワール工場。総従業員数は約4800人

 現状は、数多くの機材が並び、たくさんの従業員が整然と仕事をしていたが、買収当時は「清掃から始めた」というほど、日本の工場とは異なる造りだったとのこと。日本のメンバーが現地に入り込み、ライン作りから整備して、現在のハリドワール工場を作り上げた。

 最新鋭の設備を備え、人材にも投資しているというハリドワール工場が、現在進めているのは生産の自動化だ。インドでは、毎年人件費が高騰しており、あわせてエネルギーコストも上がっている。その中で生産性を上げていくのがパナソニック エレクトリックワークス社インドの課題の1つ。「少ない人手でどれだけ生産性を上げられるかに取り組んでいる。人から設備に切り替え、省力化しながら効率の良いものづくりしていく」(Panasonic Life Solutions India Deputy Managing Directorの加藤義行氏)と話す通り、自動化には長年取り組んできたという。

 ハリドワール工場では、同じ工程を、人手による手組み、半自動化、全自動化の3つで製造している箇所がいくつか見受けられた。これは、もっとも効率の良い方法を探るため、取り入れているとのこと。全自動化がもっとも効率が良いと考えがちだが、パッケージに詰める作業など、手組みのほうがスムーズに進む工程もあり、そうした違いを実践することで見極めているという。

同じ工程を手組み、半自動化、自動化の3つで行い、もっとも効率の良い方法を探る
同じ工程を手組み、半自動化、自動化の3つで行い、もっとも効率の良い方法を探る

徹底した自動化を進める最新IoTスリシティ工場

 一方、最新のスリシティ工場では、徹底した自動化を追求する。多くの機材が並べられていたハリドワール工場に比べ、建屋内はガランとした印象を受けるほど、ものが少ない。工場の敷地面積は約13万平方メートルで、月産1000万個の生産能力を持ちながら、従業員は約300人。ハリドワール工場に比べ、10分の1以下の人数で稼働できているのは自動化が進んでいる証拠だ。

スリシティ工場
スリシティ工場
スリシティ工場内。予想以上に機材が少なくガランとしたイメージだ
スリシティ工場内。予想以上に機材が少なくガランとしたイメージだ

 スリシティ工場は、インドの南側、アンドラプラデーシュ州の州都チェンナイから北に55kmの場所に位置するスリシティ工業団地内にある。ここは総合ビジネス都市と呼ばれ、ダイキン工業やユニ・チャームなど日本企業を含む200社以上の工場が建ち並ぶ。

 インド南部は、経済力が高く購買力が強い、インドの中でも最重要エリアの1つ。スリシティ工場はこの地域の商品供給力の強化を担っており、ハリドワール工場やダマン工場から陸路を使って商品を供給していた頃に比べ、配送全体のリードタイムを大幅に削減。輸送コストの大幅減にも結びつけた。

 工場内は自動化、IoT化を全面的に採用した、スマートファクトリーを実現。生産数量や稼働率をIoTで一元管理し、在庫状況をリアルタイムで把握しているという。製造工程においては、自動取り出しロボットの活用や、自動運搬車での収集など、自動化を徹底する。自動化、無人化の工程は、ハリドワール工場で実証できたものをスリシティ工場に展開。加えてハリドワールで手組みしていたものを自動化させてスリシティ工場にシフトするなど、自動化を追求している。

工場内で使用されている無人搬送車。自動でエレベーターに詰め込み、下の倉庫では別の無人搬送車が受け取ることで上下移動を実現している
工場内で使用されている無人搬送車。自動でエレベーターに詰め込み、下の倉庫では別の無人搬送車が受け取ることで上下移動を実現している

 組み立て工程では日本製、インド製、中国製の設備を使い分け、日本の津工場で開発した高速組み立て機も導入。中でも約1万箱、約2000パレットの収容能力を持つ自動倉庫は、生産管理システムと工場IoTシステムとの連動により、リアルタイムで在庫を監視する。

約1万箱、約2000パレットの収容能力を持つ自動倉庫
約1万箱、約2000パレットの収容能力を持つ自動倉庫

 スリシティ工場には建屋2つ分程度の空きスペースがあり、将来の販売伸長に伴い順次生産エリアを拡張していく予定。現在の生産能力は年間約1億2000個だが、2025年には年間2億個、2030年には年間3億個まで引き上げる計画だ。

スリシティ工場には建屋2つ分程度の空きスペースを有する
スリシティ工場には建屋2つ分程度の空きスペースを有する

 対照的に見える2つの工場だが、生産効率を高めること、従業員の労働環境を改善することを常に考えるなど共通点は多い。その中でもっとも重視されていたのが、安全面に対する意識だ。両工場ともに「ANZEN DOJO(安全道場)」と名付けられた部屋を設け、従業員への教育を徹底。半年に一度程度、定期的な研修を実施するほか、どんなことが事故につながるが、工場内でリスクの高い行為はどんなことがあるのかを従業員全員が学ぶ。こうした取り組みにより、ここ数年、工場内での重大事故はゼロになっているという。また、工場内に入る人全員が安全に関する3Dビデオを視聴。動画ではスリシティ、ハリドワールなどそれぞれの工場の間取り、造り、導入機材などを動画内で再現することで、理解度を高めているという。

「ANZEN DOJO」での動画
「ANZEN DOJO」での動画
「ANZEN DOJO」では模型などを用いてわかりやすく安全な工場づくりを教えているという
「ANZEN DOJO」では模型などを用いてわかりやすく安全な工場づくりを教えているという

 インド国内では現在、住宅着工件数が増加傾向にあり、スイッチ、配線器具といった電材に対する需要は高い。活発なニーズに対応しつつ、東アフリカまでを視野に入れた海外輸出拠点としても期待がかかるパナソニックのインドのものづくりは、実践の中から生まれた効率化、自動化を徹底しつつ、安全を最重要視した形で進められている。

(取材協力:パナソニック エレクトリックワークス社)

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