業績回復のソフトバンクGは投資再開へ--AIに向き合う孫氏は「凄いエネルギー」

 ソフトバンクグループは8月8日、2024年3月期第1四半期決算を発表。売上高は前年同期比0.9%減の1兆5575億円、純損益は4776億円と、引き続きの赤字決算となった。

 だが、同日に実施された決算説明会に登壇した取締役専務執行役員CFO兼CISOの後藤芳光氏は、株式市場が改善に向かっていることから「変化の兆し」と打ち出し、業績も改善傾向にあることをアピールしている。

決算説明会に登壇するソフトバンクグループ 取締役専務執行役員CFO兼CISO 後藤芳光氏
決算説明会に登壇するソフトバンクグループ 取締役専務執行役員CFO兼CISO 後藤芳光氏

 中でも大きな改善が進んでいるのが、最大の赤字要因となっていたソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)である。四半期ベースでの投資損益が1000億円弱と、わずかながらも6四半期ぶりに黒字に転じ上向きに転じているとのことだ。

 具体的には、1号ファンド(SVF1)が約9億米ドル(約1312億円)のプラス、2号ファンド(SVF2)は約3億米ドル(約440億円)のマイナス、ラテンアメリカ向けファンド(LatAmファンド)が約3億米ドルのプラスになっているとのこと。

 ただ、「投資先の中で価値が減少した企業が3月末時点では364社であったのが、6月末時点では343社に減少するなど、潮目は徐々に変化していると後藤氏は話す。

最大の赤字要因だったソフトバンク・ビジョン・ファンドは回復傾向にあり、2号ファンドは依然マイナスだがそれ以外はプラスに転じているという
最大の赤字要因だったソフトバンク・ビジョン・ファンドは回復傾向にあり、2号ファンドは依然マイナスだがそれ以外はプラスに転じているという

 また、同社が重視するNAV(時価純資産)やLTV(純負債/保有株式価値、手元流動性はいずれも改善に向かっており、「財務安全性は盤石と言っていい」と後藤氏は説明。アリババ株式の資金化が完了したことや、英Armの評価額が向上したことなどから、守りの固めは整っているとの認識を示している。

チャイナリスクを考慮し売却を進めていたアリババの株式は資金化が完了。株価の回復とともに保有株式の価値も回復傾向にあり、足元の財務基盤固めも進んでいる
チャイナリスクを考慮し売却を進めていたアリババの株式は資金化が完了。株価の回復とともに保有株式の価値も回復傾向にあり、足元の財務基盤固めも進んでいる

 それゆえ後藤氏は「急速なAI化が進展する中でリードを取らないといけない」とし、依然慎重な姿勢は崩さないとしながらも投資を徐々に再開させていくとのこと。既に同社の代表取締役会長兼社長執行役員である孫正義氏は、6月21日の株主総会で「反転攻勢」と打ち出し積極投資に再び舵を切る様子も見せているが、後藤氏は「反転攻勢はするが慎重にお願いしますね、ということ」と、孫氏の姿勢にはある程度くぎも刺している様子だ。

孫氏は株主総会で「反転攻勢」を打ち出したが、後藤氏はあくまで慎重さを求める姿勢のようだ
孫氏は株主総会で「反転攻勢」を打ち出したが、後藤氏はあくまで慎重さを求める姿勢のようだ

 この四半期からは具体的な投資も少しずつではあるが再開させているそうで、SVFで9億米ドル、ソフトバンクグループ単体で9億ドル、合計18億米ドルの投資を実施しているとのこと。後藤氏は「昨年1年間と比べ、ギアをファーストからセカンドに入れた感じ」と、少しずつではあるが今後投資拡大へと舵を切っていく様子を示した。

ここ1年はほぼ停止状態にあった投資も再開。既にSVFとソフトバンクグループ本体との投資で18億米ドルを投資しているという
ここ1年はほぼ停止状態にあった投資も再開。既にSVFとソフトバンクグループ本体との投資で18億米ドルを投資しているという

 その投資対象は、やはりAI関連企業とのこと。事業が好調だった3年前は投資のスピードを優先した結果、「AIといいながら、ほんまにAIかいな? という投資先もなかった訳ではなかった」と後藤氏は振り返り、今後はよりAIに関連した企業を厳選して投資するとしている。具体的な例として後藤氏は、AIロボットなどの開発を手掛ける日本のテレイグジスタンスへの出資など、物流関連でAI活用した企業への投資事例をいくつか示したが、物流に限らず幅広い分野でAIに関連する企業への投資を進めていく方針とのことだ。

AI関連企業への投資事例として物流関連企業の投資事例をいくつか紹介。AIロボットなどを手掛ける日本のテレイグジスタンスも含まれている
AI関連企業への投資事例として物流関連企業の投資事例をいくつか紹介。AIロボットなどを手掛ける日本のテレイグジスタンスも含まれている

 また後藤氏は、「500社近いSVFの投資先企業をグループの経営に生かさない手はない」とし、投資先企業とソフトバンクグループ傘下企業などを集めて対話させるイベントを実施していると説明。傘下のソフトバンクを「日本トップの総合通信事業者であると同時に、ソフトバンクグループの世界展開ビジネスの日本総代理店」と位置付け、ソフトバンクを通じてSVF投資先企業のビジネスを日本に持ち込む取り組みも強化していくという。

SVF投資先企業の支援に向けた取り組みの1つとして、傘下のソフトバンクを活用しての日本進出サポート強化も打ち出している
SVF投資先企業の支援に向けた取り組みの1つとして、傘下のソフトバンクを活用しての日本進出サポート強化も打ち出している

 そしてもう1つ、ソフトバンクグループの動向で注目されているのがArmの再上場だが、後藤氏は「コメントしたいが、上場直前なので何も言えない」と具体的なコメントは控えた。ただArmの業績自体は、直近では微減ではあるものの年平均成長率が14%と着実な成長を遂げていることから、AIが本格化する中でその活用範囲が広がり「本格的な勝負はまさにこれから」と後藤氏はその将来性に期待している様子を示している。

 また後藤氏は、Armの上場準備が「順調に推移している」と話すものの、やはり上場時期や上場先の市場については言及を避けている。だが同時に、「情報が(投資家などに)入るのはそう遠くない先だと思っている」とも話しており、上場に向け着実に準備を進めている様子は示していた。

Armの上場に向けた準備は着実に進められているというが、それだけに具体的な評価やコメントはできないとのこと
Armの上場に向けた準備は着実に進められているというが、それだけに具体的な評価やコメントはできないとのこと

 なお、今回の決算にも孫氏は登壇しなかったが、株主総会への登壇によってAIに関する投資だけでなく、再び事業に取り組むことにも期待する向きがあるようだ。この点について後藤氏は「彼(孫氏)の基本は起業家」とし、孫氏の本質である起業家精神を活性化させる仕事をすることが、ソフトバンクグループの企業価値向上につながると話す。

 その上で後藤氏は、孫氏がAIに向き合うエネルギーの凄さに「倒れそうになりながら過ごしている」とし、そのエネルギーが事業会社を作る、あるいは投資により注力することにつながっていくのではないかと説明。後藤氏らはあくまで、それを支えていくことが役目だと答えるにとどまっている。

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