7月23日、Elon Musk氏は映画「バイ・バイ・バーディー」のタイトルよろしく、青い鳥に別れを告げた。いつもながら唐突に、Twitterのブランド名を「X」に変更することを発表した。Musk氏の奇行には慣れっこになっていたユーザーの間でも、このニュースは波紋を広げた。その後たたみかけるように、「X.com」ドメインのページがTwitterにリダイレクトされるようになり、おなじみの青い鳥のロゴがシンプルな黒いXに変わり、Twitter本社に「X」の文字をかたどった巨大な看板が設置され、ライトアップされるようになった。
Twitterのユーザーたちはただちに反応した。中には好意的なコメントもあったが、多くは否定的なコメントだった。自分たちが親しみ、時には愛していたTwitterが、絶滅した鳥ドードーのように消え去り、謎のXに取って代わられることへの不安が広がった。
社名とブランド名を変えるという判断に疑問を呈する者もいれば、新しい名前のおさまりの悪さを揶揄(やゆ)する者もいた(今後「ツイート」を何と呼べばいいのか)。Musk氏らしい奇抜な思いつきだ、と冷めた目で見る者もいた。
ある者は「世界人口の相当部分が『ツイート』とは何かを知っていることを考えれば、(Twitterという名前には)それなりのブランド価値があるはずだ」と投稿した。ある者は「440億ドルで買収したブランドを、ほんの数カ月でまるごと消し去ってしまう。これが世界で最も賢いビジネスマンのすることか」とつぶやき、またある者は「なぜ一目でTwitterだと分かる陽気なシンボルを、黒いXのような否定的で陰気なロゴに変えてしまうのか」といぶかった。
7月24日、Musk氏は名称変更の理由を説明し、正当化する内容のツイートをした。同氏は、X Corp.がTwitterを買収したのは言論の自由を守り、あらゆる機能を備えた万能アプリ「X」を加速させるためであり、名称変更はこの目的に沿ったものだと主張した。
「Twitterが鳥のさえずり(tweet)のように最大140字の短文をやり取りするだけのサービスだった頃は、この名前にも意味があった。しかし現在は、ほとんど何でも投稿できる。何時間もの長さの動画を投稿することさえ可能だ」とMusk氏は言う。「数カ月以内には、包括的なコミュニケーション機能と、総合的な金融関連機能も追加する。この状況で、Twitterという名前はもはや意味をなさない。そこで青い鳥に別れを告げることにした」
このツイートのポイントは、Musk氏がTwitter改めXにさらなる機能を追加しようとしていることだ。Musk氏は、Xを単にニュースや意見、情報を共有するだけのサービスではなく、ソーシャルネットワーク、決済プラットフォーム、金融サービスなど、幅広い機能を備えた総合アプリに変えようとしている。
X Corp.の最高経営責任者(CEO)であるLinda Yaccarino氏は、Xの将来像について「オーディオ、動画、メッセージング、決済・金融取引を中心に、無限の双方向性を備え、アイデアやモノ、サービス、機会のグローバルな市場を生み出すもの」であり、「AIを活用して、人々がまだ完全にはイメージできていない方法で、すべての人をつなぐ」とツイートした。
問題は、Yaccarino氏のツイートの後半部分だ。現在のところ、グローバル市場としてのXはまだ構想の域を出ていない。この構想を実現するためには時間と労力、そして忍耐力が必要だ。しかし、これまでの行動が示すMusk氏の人物像は、短気で、時に支離滅裂な行動を起こすオーナー、事業の舵取りよりも、過激なツイートや物議を醸すコメントに熱心な人物というものだ。
一方、アナリストや専門家は今回の名称変更の効果に疑問を呈している。世界中で親しまれてきたTwitterブランドとその認知度を破壊するものだと見る人も多い。
世界的なブランド戦略企業Siegel+GaleのデジタルクリエイティブディレクターClinton Clarke氏は、今回の名称変更をMusk氏らしい大胆な行為だと指摘する。Clarke氏は米ZDNETの取材に対し、今回の名称変更がもたらすプラスの影響として、ブランドに新しい風を吹き込み、新たなユーザー層を開拓し、プラットフォームの目的を転換する「リセット」になる点を挙げた。
逆に、名称変更がもたらすマイナスの影響については、Clarke氏はこう答えた。「今回の名称変更は、かなり不穏なものを感じさせる。新しいXのロゴをMusk氏が所有する他の資産、例えばSpaceX、xAI、Tesla Model X等と並べてみると、この新ブランドは、当初はユーザーよりも、むしろ自らの所有者に忠誠を誓っているように見える。この点は気がかりだ」
デジタルマーケティングとソーシャルメディアマネジメントを手がけるHighKey EnterprisesのCEO、Luke Lintz氏は、今回の名称変更に関するMusk氏の戦略は、コストをかけずにメディアの注目を集め、宣伝してもらうことだと指摘した。
「Elon(Musk氏)がマーケティングに関する判断を下す際に考えているのは、『メディアに無料で注目してもらうためにできる、最も衝撃的なことは何か』ということだ」とLintz氏は言う。「TwitterからXにブランド名を変更するという判断は、実に衝撃的だ。2006年の設立以来、Twitterはサービス名とロゴをほとんど変えていない。そのため、今回の変更はユーザーにとっても、従業員にとっても、広告主にとっても劇的な変化だ」
名称変更がもたらすプラスの結果については、今後も続く大きな変化に備えて、ユーザーに心構えをさせることだとLintz氏は指摘する。Musk氏はXを分散型ブロックチェーンに変え、分散型技術に立脚した、初の大規模なソーシャルメディアプラットフォームを作ろうとしている。この目的を果たすために、Musk氏は分散型ソーシャルメディアの概念に沿った、検閲がなく、言論の自由が確保され、直接対話が可能なプラットフォームを作る考えを明らかにしている。
しかしLintz氏は、名称変更にはマイナス面があることも認める。
「2006年以来、Twitterを愛用してきた熱心なユーザーからの反発は必至だ。こうしたユーザーの目には、ElonがTwitterの優れた特徴を剥ぎ取ろうとしているように映る可能性がある」とLintz氏は言う。この動きは当然、広告主にも影響を与える。実際、Musk氏がTwitterの指揮権を握って以来、複数の企業がTwitterから広告を引き上げた。
「Elonが2022年後半にTwitterを買収し、唐突な変更を繰り返すようになると、多くの重要な広告主がTwitterを去った」とLintz氏は言う。「その大きな理由は、投稿されるかもしれないコンテンツとTwitterの評判に不安を感じるようになったからだ。広告主にとって、Xへの移行が不確実性をさらに高める材料となることは間違いない。広告を引き上げる企業が増え、Xのビジネスがさらなる損失を被る可能性は十分にある」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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