昔々(といってもほんの20年ほど前)、携帯電話のバッテリーを交換したくなったら、背面のケースをスライドさせて開いてバッテリーを取り出すだけで、それができた。すっきりとした外観だが、背面のケースを外すことはできないスマートフォンの台頭により、ユーザーによる交換可能なバッテリーはほぼ姿を消した。しかし、2020年代半ばに近づいた今、そうしたバッテリーが復活する可能性が出てきた。
「修理する権利」を支持する2つの規則案が欧州連合(EU)の機関によって進められていることを受けて(6月末、その規則案の1つが欧州議会によって可決された)、メーカー各社はスマートフォンの設計に大幅な変更を加えることを余儀なくされるかもしれない。それらの規則案が施行されると(それぞれ2025年と2027年に施行される見通し)、スマートフォンや携帯ゲーム機などの小型機器のメーカーに対して、ユーザーが自分でバッテリーを交換できるようにすることを義務付ける規制が導入される。
スマートフォンの所有者であれば、バッテリー特有の頭痛の種、つまり、時間の経過とともに最大容量が減っていくことと、その問題を安価かつ簡単に解決できる手段がないことを、おそらくよくご存じのはずだ。バッテリーを自分で交換できれば、スマートフォンをより長期間使用できる可能性が高くなる。
市場分析会社CCS Insightのチーフアナリストを務めるBen Wood氏は電子メールで、「バッテリーの劣化が機種のアップグレードを検討する主な理由だ」と述べている。
Appleやサムスン、HMD Global(Nokiaブランドのスマートフォンメーカー)など、自社のデバイスをユーザーが自宅でより簡単に修理できるようにしようと努めているメーカーは増えつつある。HMD Globalは2023年に入って発表したスマートフォン2機種は、iFixitのツールキットが必要ではあるものの所有者が簡単にバッテリーを交換できる。これまで、スマートフォンの修理は大部分が専門家の仕事とされてきた。しかし、デバイスを修理する権利への支持が高まれば、ユーザーが新しいモデルを購入して古いデバイスを捨てることが少なくなり、故障した製品や古くなった製品から生じる電子廃棄物の総量が減少することが期待される。
HMD Globalの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるLars Silberbauer氏は、ユーザーによる交換可能なバッテリーに関するEUの提案を歓迎しており、「劣化したバッテリーを消費者が自分で交換できるようになれば、デバイスをより長く保有できるようになる」と述べている。「スマートフォンの修理も、より低コストでできるようになる」(Silberbauer氏)
しかし、新しい規則を順守するのであれば、企業はエンジニアリング上のいくつかの厄介な問題を解決しなければいけなくなる。スマートフォンメーカーのFairphoneは、ユーザーが自分で交換できるバッテリーを搭載するスマートフォンの先駆けだが、同社が筆者に語ってくれたところによると、それは容易なことではなかったという。その経緯については、後述する。
ユーザーが自分で交換できるバッテリーに関する施行予定の規則は、EU内で販売されたスマートフォンにのみ適用される。だが、テクノロジー企業がEUの規制を受けて実施した変更が、他の場所で販売される製品にも影響を及ぼす前例がある。その代表例が、2022年10月に最終承認され、2024年秋までに施行される予定のEUの共通充電器指令(小型および中型のすべてのデバイスに同じ充電端子を搭載することを義務付けるもの)だ。これにより、Appleは「iPhone」で「Lightning」コネクターを廃止し、ほぼすべての「Android」スマートフォンに搭載されている、より一般的なUSB Type-C(USB-C)に切り替えると予想されている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」