シャープは6月27日、第129期定時株主総会を、大阪府堺市の本社多目的ホールで開催した。また、株主を対象にした経営説明会も開催し、各事業部門におけるビジネス戦略について説明した。
午前10時から開催した株主総会で、シャープ 社長兼CEOの呉柏勲氏は、英語で2022年度の事業報告を行い、マイナス2608億円の大幅な最終赤字になったことを報告。「ディスプレイデバイス事業の減損などによる一過性の費用を計上し、当期純利益が極めて厳しい状況になった。株主に迷惑や心配をかけていることをお詫びする」と陳謝した上で、「2023年度も極めて厳しい事業環境が続くが、開源節流の徹底、新たなビジネス機会の追求、不必要な経費の削減を全力で行い、最終黒字の必達を目指す。ブランド事業を中心としたビジネス構造を確立し、新規事業の加速や、新興市場への展開拡大、ゲームチェンジャーとなる新しい技術やデバイスを創造する」などと述べた。
質疑応答では厳しい質問が相次いだ。ディスプレイデバイスにおける大幅な減損は、堺ディスプレイプロダクト(SDP)の子会社化が原因と指摘する株主からは、「子会社化した責任の所在を明らかにすべき」との要望が出たほか、SDPを中心としたディスプレイ関連だけで1884億円の減損損失を計上したことについては、「経営判断が間違っていた」、「経営に対する不信感が高まった」などと指摘する声があがった。
呉社長兼CEOは、「会社のプロセスに則って、取締役会で決議したものであり、判断は不合理とは言えない」と回答。「買収当時は、米中経済摩擦などの地政学的リスクに対応するために、テレビを中心としたパネルの安定的な調達が目的だったり、その後のプロダクト開発などが狙いだったりしていた」と説明した。
また、「SDPを赤字から脱却させるには、いまの市場状況に応じて、計画を修正する必要がある。変革と改革が必要であり、内部でプランを検討している。早い段階で戦略を発表したい」とした。
日経平均株価が33年ぶりの高値を記録したのに対して、シャープの株価が下落していることを指摘したシャープOBの株主は、「株価をあげる方法を真剣に考えてほしい」と提言。「日本で一番となる商品が生まれていない。私たちは、がんばってシャープを作ってきた。それを潰さないでほしい」と述べた。また、別のシャープOBの株主は、「開源節流では新たなものは生まれない。創業者の早川徳次氏は、『他社がまねするような商品をつくれ』と言っていた。イノベーションを生んでほしい。原点に戻ってほしい」と訴えた。
呉社長兼CEOは、「シャープが生き残るには、グローバルブランドになる必要がある。そのために事業の再構築を行っている。社員は誠意をもって働いている」としたほか、「2023年度は、ゲームチェンジャーという言葉を使っている。新規事業に取り組み、そのうちのいくつかが成功し、新たな風とビジネスを生んでくれることを期待している」と発言した。
株価の低迷については、「いま重要なのは経営を改善することであり、2023年度の黒字化に全力で取り組む。これが株価の改善につながる」とコメント。「シャープは、スマートライフ&エナジー、スマートオフィス、ユニバーサルネットワークの3つの事業グループに再編し、すべてのBUに新規事業推進部を設置している。また、イノベーショングループを設置してR&Dを推進するとともに、Panel-Semicon研究所も設置した。これらにより、新事業を推進することになり、新たな商品を生み出すことを目指す」と語った。
本社を大阪市内に移転して欲しいとの意見に対しては、「新たな情報をいち早く得るには、大阪市内中心部や都内にいることは重要である。だが、黒字化する必要性や、キャッシュフローの最大化を優先しなくてはならない。ただ、マーケティング活動を活発にするためには都市部がやりやすい。将来の展望として検討したい」と述べた。
シャープでは、2023年度から、社内公用語を英語にすることを打ち出しているが、「事業部の定例会議では、日英併記の報告書としている。英語のトレーニングにも注力しており、TOEICの受験も行っている」と、現状について報告した。
2025年に開催される大阪・関西万博への出展については、副社長の沖津雅浩氏が「シャープのいまの状況を考えると、まずは黒字化を最優先したい。出展の計画はない」と回答した。1970年に開催された大阪万博でも、シャープは地元・大阪に本社を置く企業ながら出展を見送った経緯がある。その際には、天理市に半導体工場を建設することを理由に、出展を取りやめた。大阪万博の会場が千里丘陵であったことから、「千里より天理」と呼ばれたが、この決断がその後のシャープのエレクトロニクスメーカーとしての地盤を作ることにつながった。
なお、株主総会の会場には160人の株主が出席。午前11時38分に終了し、議案はすべて可決された。
一方、株主総会終了後の正午から、約1時間に渡って行われた経営説明会では、ブランド事業グループやデバイス事業グループの事業責任者などがビジネス戦略を説明した。
ブランド事業グループは、スマートライフ&エナジー事業、スマートオフィス事業、ユニバーサルネットワーク事業で構成。スマートライフ&エナジー事業については、シャープ 執行役員Smart Appliances&Solutions事業本部長の菅原靖文氏が説明した。
同事業では、「あなたらしい暮らし、クリーンな社会の実現」をコンセプトに、「機器単体ではなく、白物やソーラー、ヘルスケア全体がAIoTでつながり、暮らしを最適化する」「再生可能エネルギーのさらなる拡大によって、カーボンニュートラルな世界を創出する」「人々のQOL(Quality of Life)向上と、環境負荷低減の両立を目指す」という3点のテーマに取り組む考えを示した。また、今後の方向性として、「これまでは個々の困りごとを解決する技術や商品の開発を進めてきたが、これからはAIoTをハブにして、食、水、空気、環境を中心とした技術で、暮らしや社会全体に貢献することを目指したい」と述べた。
食では過熱水蒸気や新鮮冷凍、鮮度維持の技術、水では洗濯機の穴なし槽、ネイチャーテクノロジー、空気ではプラズマクラスターや低騒音化、環境では太陽光発電やマテリアルリサイクルをコア技術にあげ、AIoTを通じた商品化を促進。既存領域では付加価値商品創出による規模拡大とブランドイメージ向上に取り組む一方、新たな領域としてスマートホーム、BtoBソリューション、ヘルスケア、データビジネスに取り組む考えを示した。
スマートライフ事業は、新規事業として「人々の健康な暮らしを守るヘルスケア関連機器の開発」と「医療や介護の現場を支援するソリューション提供」をあげたほか、成長事業では「創エネ、蓄エネ、省エネを実現するスマートホームの拡大」、「海外の空白・希薄地域への展開による規模拡大」「AIoTプラットフォームを介した企業とユーザーをつなぐサービス開発」「保有・蓄積データ(家電ビッグデータ)を活用したBtoBビジネス拡大」に取り組む。また、既存事業では「高付加価値商品へのシフトによるブランドイメージの向上」を掲げている。
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