Appleの最高経営責任者(CEO)Tim Cook氏は2019年、CNBCのインタビューで、同社が人類に最も貢献する分野は健康だと語った。「Apple Watch」は、あらゆる身体的指標を測定する機能を備えており、これまでのところそうした課題について最も貢献しているかもしれない。だが、Appleは、10年近く前に発売を開始したスマートウォッチに関して、もう1つの重要な目的も忘れてはいない。「世界を解き放つ鍵」の機能を果たすという目的だ。
そう語ったのは、先ごろ米CNETとのオンラインインタビューに応じたAppleの技術担当バイスプレジデント、Kevin Lynch氏だ。これは新しい方向性ではない。同社はこの数年間に、Apple Watchの機能を徐々に拡充し、自動車や住宅のデジタルキーとして利用できるようにしてきた。実際、そうした目標は、初代モデルの「Apple Pay」対応を通じて最初からApple Watchの一部だった。
だが、このテーマは、7月にパブリックベータ版が提供され、秋に正式リリースされる次期ソフトウェアアップデート「watchOS 10」で、かつてないほど広まる感じがする。watchOS 10は、ウィジェットがアップデートされ、必要に応じて文字盤に情報を表示する。おそらく、手首に装着するこの小さなデバイスが今どれほど多くの用途に使われているかを示すものになるだろう。目標は、文字盤の見た目を損なわずに一目で多くのデータを提供することだ、とLynch氏は述べた。
「われわれは、長い年月をかけてこの道のりを踏破し終えた。これらのバランスを取る最善の道と最も充実した方法が見つかったからだ」(Lynch氏)
Apple Watchは2015年の登場以来、特に健康に関する多くの新機能を実装してきた。しかし、全体的なインターフェースはほとんど変わっていない。
それがwatchOS 10では、ウィジェットの導入によって変わることになる。ウィジェットとは、Digital Crown(つまみ)を回して文字盤からアクセスできる情報カードのことだ。ウィジェットを追加することで、「iPhone」のように天気予報、リマインダー、ニュースの見出しといった情報を表示できるようになる。そのため、タイマーをセットしたり、次のミーティングを確認したりするために必要なタップやスワイプの回数が大幅に減るはずだ。
これらのカードの順番は、iPhoneのウィジェットと同様、時間帯などの要因に基づき状況に応じて変化する。Appleはこの機能を「スマートスタック」と呼んでいる。その目的は、1日を通して適切なデータをユーザーの必要に応じて表示することだ。例えば、朝は最初に天気が表示され、夜は服薬のリマインダーが表示されるといった具合だ。
小さなアップデートに思われるかもしれないが、これによりApple Watchユーザーは必要な情報を得るための手間を最小限に抑えられる可能性がある。8年前に初代Apple Watchが登場したとき、このデバイスのソフトウェアはあまりにも複雑で分かりにくいと批判する向きもあった。
しかし、Apple Watchが普及するにつれて、そうした懸念は薄れていったように思われる。調査会社Counterpoint Technology Market Researchによると、2023年第1四半期の時点で、世界のスマートウォッチ市場に占めるAppleのシェアは26%で、企業別では首位に立っている。ただし、Apple Watchをより直感的に使えるようにするという点で、これらの新たなウィジェットの導入は、アプリの刷新や、サイドボタンで「コントロールセンター」のメニューを起動するショートカットの追加といった他のアップデートと併せて、まだやるべきことが残っていることを示している。
ユーザーを取り巻く世界をApple Watchによって解き放つというAppleの意図は、しばらく前から明らかだった。例えば、同社は2021年に、Apple Watchをオフィスや自宅、ホテルの鍵として使える機能を発表した。このことは、関連情報をもっと利用しやすくする形でインターフェースをアップデートするのを同社がなぜ2023年まで待ったのかという疑問を生じさせる。
Lynch氏によれば、それはユーザーからのフィードバックと、このスマートスタックを実現するために必要な機械学習を可能にするハードウェアの向上が理由だという。また、同社は、Apple Watchのユーザーインターフェースをあまりに頻繁に、あるいは、不快に思われるやり方で変更したくなかった。
「それは、当然ながら、人々がApple Watchとどのように情報をやりとりしているかについて、時間をかけて学んできたすべての経験から生まれた思いだ」(Lynch氏)
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