Appleが独自の仮想現実(VR)ヘッドセットを発表することについて、懐疑的になる理由は無数にある。しかし、Appleがその解決策を見出した、と信じるに足る理由が1つある。それは、同社が年次開発者会議「Worldwide Developers Conference」(WWDC)で実際に製品を発表する予定だという事実だ。
世界最大規模を誇るIT企業であるAppleは、参入する分野に変革をもたらし、変革の過程で独自の価値を世界に提供できると確信する場合にしか新しい分野に参入しない。
同社が米国時間6月5日に開幕するWWDCでヘッドセットを発表するというのは、ほぼ確実だ。それよりも明らかでないのは、Appleが、Googleやサムスン、ソニー、Metaなど無数の企業がこの10年間見落としていた何を発見したのか、また、なぜそれを発見できたのか、という点だ。それらの企業はいずれも、VRに夢中になる理由を世界に与えることはできていない。
Appleが5日に披露するものは、魅力的ながら限られたものになる可能性が高い。初代の「Mac」「iPod」「iPhone」「Apple Watch」が、その可能性で私たちを魅了しつつ、その初期機能は非常に限られていたのと同様だ。「Reality Pro」(これが本当の名称だとすればだが)は、同社が最終的に実現しようと思い描くものよりも画期的ではないものが、物理的に実現されたものとなる可能性がある。
VRはここ数年苦戦が続いているが、非常に得意な分野も明らかになっている。例えば、VRは急速に、トレーニングに多大な影響を与えている。PwCの調査によると、VRを利用して学習する人は、教室で学習する人よりも4倍速く内容を習得し、Eラーニングで学習する人よりも4倍高い集中力を発揮し、学習後にスキルを適用することに対する自信が275%高く、教室で学習する人よりも学習内容に対する感情移入が3.75倍高いという。
人工知能(AI)が未来の仕事に影響を与え、膨大な数の労働者の再トレーニングが必須になるにつれて、この種の効果的なトレーニングに対する需要は今後数年間で高まるとみられる。
VRは没入感が非常に高いため、トレーニングツールとして効果的であるというのは、理にかなっている。VRの完全な没入型の体験と、ウェブページを閲覧したり動画を視聴したりする体験の間には、明らかに大きな隔たりがある。
それでは、こうした臨場感はどのような分野で次世代の体験を生み出すかという疑問が湧き出てくる。
これこそ、Appleが目を向け、思い描いている全体構想であるはずだ。そしてこれこそ、同社がヘッドセット、すなわち未来の拡張現実(AR)メガネと、コンピューターやスマートフォン、タブレットよりも高い没入感や魅力を持つ体験のエコシステムを実現する道のりに足を踏み出した理由でもあるはずだ。
ここで明確にしておきたいことは、このヘッドセットは日常的に使用するデバイスを置き換えるものではないし、常に使用し続けるものでもないという点だ。しかし、最も重要だと感じている体験や、より没入したいお気に入りの体験のために用いるものになるだろう。あなたの仕事や日常生活に関する最も重要なことに、より深く、より没頭できるとすれば、それはどのようなものかを考えてみてほしい。
例えば、不動産業者は丸一日かけて市内を車で走り回って顧客に優良物件を紹介するのではなく、仮想空間で内覧してもらうことで1時間もかけずに5軒の物件を紹介できるようになる。また、家族旅行の行き先を決定する際、家族でヘッドセットを順に装着してホテルやレストラン、アクティビティーの簡単な説明を見て、それぞれが3つの選択肢を体験できるようになる。そしてスポーツ好きな人はヘッドセットを利用することで、現実には高価で手の届かない最前列の座席からライブイベントを楽しめるようになる。さらに、専門性の高い分野の仕事に就こうとしている人であれば、ヘッドセットを装着することで、地球の反対側にいる、世界で指折りの専門家に弟子入りし、大人数を対象にした教育プログラムをまるでマンツーマン形式のように受講できるようになる。
インターネットは、ここで挙げたような数多くの体験の第一段階を既に提供してくれている。VRは次の段階への扉を開けることになるだろう。そしてAppleは今、使いやすさと洗練されたハードウェア、そしてもちろん、コンシューマー向けの説得力あふれるストーリーテリングに注力しようとしている。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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