ゲーム業界の目覚め--ゲームが気候変動のためにできること

David Lumb (CNET News) 翻訳校正: 編集部2023年05月30日 07時30分

 インディーゲームの開発者であるKara Stone氏は、中古の太陽光パネル、バッテリー、そしてミニコンピューターの「Raspberry Pi」を組み合わせてゲームサーバーを作った。かかった費用はたったの数百ドルだ。曇りの日はサーバーが止まり、ゲームがプレイできなくなるのではないかと指摘されると、それも狙いのひとつだとStone氏は答えた。

 「すべてに24時間対応を期待するべきではない。一時的に動かないことがあっても問題ないはずだ」

 Stone氏の次回作「Known Mysteries」は、温室効果ガス排出量を減らすために動画の圧縮率を上げ、データ量の削減を図っている。今はなき電子百科事典「Encarta」のCD版をほうふつとさせる粗い映像は、最近の大作ゲームに見られる超高精細の美麗な映像とはまったく違う。最近のゲームはデータ量が100GBを超えることも珍しくないが、Stone氏が開発しているゲームの初期バージョンは200MBほどしかない。気候に与える影響を減らすために、ゲームの設計そのものに意図的な制約を加えた結果だ。

 Stone氏のように、ゲームが気候変動に与える影響について責任を感じている開発者は増えつつある。ゲーム業界はこれまで、ビデオゲームを作り、ビデオゲームで遊ぶことが多くのエネルギーを消費し、温暖化ガスを発生させること、つまり気候変動の一因となっていることを明確に自覚してこなかった。持続可能なゲーム開発の提唱者たちは、ビデオゲームが地球に与えるインパクトを減らすべきだと主張している。

 ビデオゲーム業界では、サステナビリティに対する意識が高まりつつあるが、自社の事業が気候に与えているインパクトをデータで公開している会社はほんの一部だ。世界中のゲーマーが消費しているエネルギーまで考慮している会社となると、さらに少ない。

ビデオゲーム
提供:Adam Berry/Getty Images

沈みゆく船

 ビデオゲームの市場規模は約1840億ドル(約25兆4000億円)であり、この業界のエネルギー消費量と温室効果ガス排出量は、控えめに見積もっても世界の映画産業、あるいはスロベニア一国に匹敵する。こう指摘するのは、オーストラリアのコンサルタントで、元学者のBen Abraham氏だ。同氏が2022年に出版した「Digital Games After Climate Change(気候変動後のデジタルゲーム)」は、ビデオゲーム業界が排出する温室効果ガスが地球に与える影響を詳細に調査した数少ない書籍のうちの一冊だ。

 Abraham氏によると、ゲーム業界が2020年にビデオゲームを作るために生み出したCO2の量は、概算で300万~1500万トンに達するという。ここには地域の電力供給網から購入した電力やオフィスの照明、ゲーム制作用のコンピューターを動かすために使われるエネルギーも含まれる。

 その一方で、ゲーム機などハードウェアの製造、プレイヤーにゲームを届けるための輸送(ダウンロード版の場合はサーバーへの電力供給)、開発者や経営者が会議やカンファレンスに参加するための出張にかかるエネルギーは計算に入っていない。

 世界最大手のゲームスタジオのひとつであるUbisoftを例に、ゲーム業界がどれだけの温室効果ガスを排出しているのかを考えてみたい。同社の年間カーボンフットプリント(2021年のCO2換算排出量は148キロトン)のうち、同社が直接運営する事業によるものは5~10%にすぎない。残りの排出量は、ネットワーク配信や小売店への輸送に関するものが約10〜15%、ゲーム機器の製造に関するものが約40%、プレイヤーの使用(PCやゲーム機への給電を含む)によるものが約40%となっている。

 Microsoftの試算によると、高性能なゲーム機を所有している平均的なゲーマーが1年間に消費するCO2は72kgに達するという。Project Drawdownの報告書によると、ゲーマーが1年間に排出するCO2の量は、米国だけで2400万tに達する。

 この事実をゲームメーカーが知らないわけではない。一部の最大手メーカーはサステナビリティに関する目標を設定した。Abraham氏は2022年末、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする、いわゆる「ネットゼロ」目標を掲げている業界大手のパブリッシャーやスタジオ33社に関するレポートを発表した。同レポートによると、このうち10社はネットゼロを2030年までに達成するという意欲的な計画を掲げており、ここにはMicrosoftやApple、Googleといった巨大テック企業だけでなく、Ubisoft、Tencent Holdings、Riot Gamesも含まれる。ソニーは2040年、Activision Blizzard、バンダイナムコ、コナミ、セガは2050年までにネットゼロを達成する予定だが、これは最低ラインだとAbraham氏は言う。

 「これより遅ければ、地球を破壊すると宣言しているようなものだ」と同氏は述べる。

 ネットゼロを達成するための戦略は会社によって違う。そのひとつである「オフセット」は、環境に配慮したエネルギー利用による排出削減効果を「クレジット」として購入することで、化石燃料エネルギーの消費量と「相殺」するもので、グリーンウォッシュの一種だと批判されている戦術だ。

ゲームをするふたりの人物
提供:Paras Griffin/Getty Images

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