「宿泊業は逆風」のコロナ禍3年間で伸長--別荘のサブスク「SANU」の軽やかな経営

 セカンドホームのサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)」が順調に業績を伸ばしている。個人向けの初期会員枠は、計1500名以上を集め、4月に開始した法人向けサービスも完売。秋には早くも二次枠の受付を開始する予定だ。コロナ直前の2019年に会社Sanuを立ち上げ、「宿泊業は逆風」と言われた約3年間で着実にサービスを拡充させたその背景にはどんな施策があったのか。Sanu CEOの福島弦氏に聞いた。

Sanu CEOの福島弦氏
Sanu CEOの福島弦氏

稼働率は曜日を問わず70〜80%をキープ

――会社の設立が2019年の11月。コロナ真っ只中でのサービス開始でしたね。

 かなり珍しい存在だったと思います。宿泊業がどちらかと言えばクローズしていく流れの中ではじめました。珍しい存在だったのはサービス開始時期に限らず、最初の拠点に白樺湖を選んだことも同様で、地元の方からは「30年ぶりの新築ができた」と言われたほど。ただ私たちの中では、非常に良いタイミングで事業をスタートできたと思っていて、この時期だからこそ、人々は住む場所を見直し、自らの暮らしを問い直した。ちょうど移住や多拠点生活などを考えるタイミングで登場できたと思っています。

 Airbnbはちょうどリーマンショック時の宿泊業の多くがダウンしていく中でスタートしていて、これも実はとてもタイミングが良かったんですよね。なぜなら家を貸したいという人が増えた時期だったから。私たちは需要サイドの話しで、これだけオンライン会議が発達して、働き場所に縛られなくてもいいということがわかったタイミングで、移住を考える人も増えてきた。住まいや暮らしを人々が見直す時期にサブスクリプションという形で別荘暮らしを提案できたのは、ここまで順調に進んでこれた理由かなと思っています。

――実際どんな方が利用されているのですか。

 30〜40代のファミリー層やカップルが中心ですが、20代の方から、上は80代まで、幅広い方にご利用いただいています。特徴的なのは、閑散期、繁忙期のばらつきがないこと。平日と休日の稼働率がほぼ一緒なんです。これは、ワーケーションなどお仕事をしながら使っているためで、半分のお客様が月1〜2回、仕事をする場所としてSANUのセカンドホームをご利用頂いています。

 通常、貸別荘の稼働率はゴールデンウィークなどの長期休みには80%まで上がっても2月の寒い時期などは10〜20%まで落ちてしまいます。SANUは年間を通じて曜日を問わず70〜80%の稼働率をキープできているという利用実態が出ています。

――現在、10拠点61室を用意されているということですが。

 白樺湖、八ヶ岳を筆頭に、河口湖、山中湖、軽井沢、北軽井沢、伊豆高原に拠点を構えているほか、一宮、那須、伊豆下田にも開業を予定しています。この拠点場所にもこだわりがあって、リゾートホテルなどが出店しづらい、王道の観光地とは少しだけ離れた、今まで観光地としてあまり光が当たっていなかった場所を狙っています。そのため、耕作放置された土地や活用されていない雑木林など、眠れる資産だったものを取得して別荘を作っています。

 また、ホテル開発では1万坪など広大な土地が必要になりますが、SANUでは土地の大きさにあわせて、棟数を変えられますから、1000〜3000坪程度の土地を活用できる。小さな場所には2棟、大きければ20棟など、ゲリラ的な開発スタイルが取れるのも私たちならではの強みだと思っています。

5月にオープンした軽井沢の拠点「SANU 2nd Home - 軽井沢1st」
5月にオープンした軽井沢の拠点「SANU 2nd Home - 軽井沢1st」
室内の様子
室内の様子

セカンドホームまでのラストワンマイルを解決する連携の取り組みも

――今まで観光地としての光が当たっていなかった場所では、交通の便などで不安があるのではないでしょうか。

 会員になっていただいている方は車所有者が多いので、現時点ではそこまで不安視はしていません。ただ、会員を増やしていく中で、モビリティは大きな鍵になってくると思いますので、対応策としてTOYOTA SHAREと連携し、駅からセカンドホームまでのラストワンマイルを車を借りて移動できる環境を整えています。

 実際、セカンドホームを訪れてみると、周りには地元の食材を使ったレストランやカフェ、店舗なども多く、地元の産直スーパーなどもある。楽しめるお店も多く、みなさんが考えられている以上にセカンドホームの暮らしを満喫できると思います。

――各拠点のセカンドホームはすべて自社物件なのですか。

 自社物件の割合は少なくて、サブリースが主流ですね。別に土地や建物の所有者、投資家がいて、SANUがその物件を借りて、又貸し(サブリース)することで収益を得ています。この手法をとることで財務的に軽やかに、かつスピード感を持って拠点展開できることもSANUの特徴だと思っています。その分、セカンドホームのオペレーション部分や企画、プロデュースなどに注力することで、勝負しています。

――実務部分のオペレーションは自社開発ですか。

 自社開発と既存のソフト、ハードを活用している部分と両方あります。SANUのサービスを展開する上で、一番重要なのはお客様の体験価値向上で、年間10〜20回予約して通っていただくために、お客様が触れるUI、UXの部分は私たちで開発しています。そのため、数クリックでいきたい場所を予約して、チェックインできるようになっていますし、自分の家のようにセカンドホームを使える体験を提供しています。一方で、スマートロックの個人認証キーなどは、信頼性の高い既存のIoT技術などを活用させていただいて、組み合わせで展開している感じですね。

――社内エンジニアの方が開発されている?

 そこも少し変わっていて、私たちはノーコードを活用した軽やかな開発からスタートしており、巨大なエンジニアチームを抱えるよりもリーンな体制で進めています。ただ、この1年は初期フェーズの位置づけでリーン開発をして、サービスの実証性を見てきましたが、今後はエンジニアリングに力を入れて、ディープな開発が必要になってくると見ているので、エンジニアチームをまさに創設しているところです。

――社員の方の構成はどんな感じなのですか。

 今、社員数は28名ですが、建築、開発などを手掛ける事業開発部、アプリ等テクノロジーから顧客体験、マーケティングまで事業運営全体を担うカスタマーエクスペリエンス部、財務人事系が3分の1ずつという感じです。建築、テクノロジー、マーケティング、ファインナンスとさまざまな分野のプロが集まっているのがSANUのチームの魅力です。最も力を入れているのは土地開発の部分ですね。土地探しは人対人のビジネスなので、確実に人手をかけて、逆に効率化できる部分はテクノロジーを活用しています。

 土地探しについては、かなり草の根的にやっていて、山梨、長野、群馬、栃木、千葉、静岡のほぼすべての不動産仲介会社の方とお会いしています。同時に、自治体や金融機関、地元の事業者や土地主などにもアプローチさせていただき、プッシュとプルの両方から土地候補が上がってくる感じですね。

1万人が思いついても必ず途中で諦めるビジネスモデル

――コロナ禍を経て、多拠点居住や住み放題サービスなど、住居関連の新たなサービスが続々と立ち上がってきました。その中でSANU 2nd Homeの強みはどこでしょう。

 初期費用0円、サブスクリプションのセカンドホームという唯一無二のサービスコンセプトそのものだと思います。シンプルな言い方をすれば別荘のサブスクですから、このアイデアを思いつく人はすごく多いと思うんですよ。でも実際にやるのは本当に大変。土地探しはもちろん、スタートアップにしては莫大な金額も調達しなければならず、ファイナンスの部分も重い。1万人が考えてついても、途中で諦めるビジネスモデルだなと(笑)。

 誰もが挫けそうになるビジネスモデルでも、私たちが実現できたのは、自分たちがこんなサービスがあったらいい、使いたいと思っていたからこそです。私も共同代表の本間(本間貴裕氏)も自然の中で育ったため、東京に移住して、働いてという暮らしの中で自分の人生と自然の中にいる環境を取り戻したいという思いがかなり強い。「Live With nature 自然と共に生きる。」とsanuのビジョンを定めているのもそれが理由です。

 ただ、ここまで東京に長く暮らしてしまうと、「八ヶ岳に移住したい」と思ってもそう簡単にはいきませんよね。それを、できるだけ負担を少なく、現実的に実行できるサービスとして始めたのがSANUです。私自身もユーザーとして使っていますし、その熱量が会員のみなさまにも伝わっているのかなと思っています。

――現実的に実行できるサービスとして重要なのが価格だと思います。月額5万5000円の利用料はどう導き出されたのでしょうか。

 これは私と本間でそれぞれ家族会議を開いて、支払えるギリギリの金額はいくらか、と考えて決定しました。私たちにもっと貯金残高があれば、別荘の販売というビジネスになったかもしれません。もちろん市場調査もやりましたが、自分たちがペルソナでもありますから、自分ごとに置き換えて考えた金額になります。

 別荘を持つと、固定資産税や維持管理費などで、月額5万円程度がかかる計算になります。そう考えると初期費用ゼロですから、維持管理のみで別荘を手に入れられる計算になります。1年間払うことを考えても決して安い金額ではないので、ユーザーのご家族にとっても大きな一つのライフスタイルの選択になりますよね。その時に、さらに、同じ場所ではなくて、別の拠点でも使えますから、お気に入りを見つけたり、季節に応じて行き先を変えたりと複数のセカンドホームを行けることも魅力の一つです。

――法人サービスも好調ですね。

 法人サービスを始めた目的は、自然に気軽にアクセスできる利用者の裾野を広げたいという思いからです。このサービスにふれる人を増やしたいという思いからスタートしました。月額6〜10万円程度で、年間30泊が可能です。以前は保養所という形で、社員に宿泊施設を提供していたと思いますが、これも保有するには重い資産ですよね。ここをもっと軽やかにしたいというのが私たちの思いです。

 それと同時に、社員の方のウェルビーイングやワークライフバランスなど注目されている今、経営層は社員の心の健康や自然に近い暮らしを、本格的に考える時期になっていると思います。実際に、SANUのサービスを導入していただいている企業の中には「間違いなく採用につながる」と言っていただいています。都心のオフィスに加え、コワーキングスペースなどを用意している企業も多いと思いますが、この2つに加え、ワーケーションという選択肢も用意していただけるとうれしいなと思います。

――今後の展開を教えて下さい。

 5年以内にグローバル展開していきたいと考えています。衣食住車はライフスタイルの4大産業ですが、住の部分は世界的に見ても「これぞ」というブランドが生まれていないと思うんですよね。衣類だとパタゴニア、食はスターバックスやブルーボトルコーヒーなど、車に関してはトヨタ自動車やテスラ、グローバルレベルで時代を象徴するブランドが存在しています。

 しかし住に関しては、長い時間を過ごすものであり、あまりにも重たい産業がゆえに「時代を象徴するような新しいブランド」が出てこなかった。そこに私たちがグローバルでも十分に戦えるコンシューマーブランドを作りたいと思っています。現在の切り口はセカンドホームですが、この次はファーストホームに取り組んでいくつもりです。

 私自身は経営者として、世の中を良くしていきたい、現状のすべてに満足できない、というものごとを追求するタイプで、それがSANUの事業を展開する原動力になっています。一方で、本間は純粋無垢の少年のような人物。自分がどこの自然へ行きたいか、どこにセカンドホームを作りたいか、すべてを自分視点で作っていく。そこに、私の「一人でも多くの人にサービスを届けたい」という強い衝動が合わさり、SANUのビジネスモデルができています。自分たちが作りたいサービスを純粋に作りきっているからこそ、SANU 2nd Homeは、ほかの人が真似できない唯一無二のサービスになっていますし、この根幹の部分をなくさずに情熱をもって今後も取り組んでいきたいと考えています。

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