シャープは、2022年度(2022年4月~2023年3月)の連結業績を発表した。売上高は前年比2.1%増の2兆5481億円、営業利益は前年の847億円からマイナス257億円の赤字に転落。経常利益は前年の1149億円から、マイナス304億円の赤字に、当期純利益は前年の739億円から、マイナス2608億円という大幅な赤字となった。
シャープ 代表取締役 社長執行役員 CEOの呉柏勲氏は、「2022年度業績で巨額の赤字が発生したことは、私に責任がある」と発言。「2022年度は経営再編の1年であり、さまざまな改革を実行しなくてはならなかった。収益拡大と支出削減に向けたさまざまな施策や、新規ビジネスの立ち上げにも早期に着手してきたが、予想以上の環境変化により、大きな課題に直面した」とコメントした。
また、シャープ 代表取締役副社長 執行役員の沖津雅浩氏は、「売上高は、ディスプレイデバイスを除く4セグメントが伸長し、前年を上回ったが、営業利益および経常利益は、円安やディスプレイ事業の不振の影響が大きく、2015年度以来の赤字となった。また、最終利益はディスプレイデバイスに関連する減損損失などによる一過性の費用を計上したことで、2608億円の赤字となった」と総括した。
営業外損益として、為替差益でマイナス172億円、持分法による投資損失でマイナス204億円のほか、特別損益として、段階取得に係る差益でマイナス124億円、事業構造改革費用でマイナス44億円、減損損失で2205億円を計上した。
減損損失の内訳は、ディスプレイデバイスにおいて、堺ディスプレイプロダクト(SDP)による「日本の連結子会社の液晶事業関連の建物、機械装置、のれんなど」で1884億円、「日本の連結子会社のOLED事業関連の建物、機械装置など」で212億円。また、その他として、107億円を計上。
内訳は「日本・中国の連結子会社の機械装置などの遊休資産」、8Kエコシステムでの「シャープや、日本および米国の連結子会社の建物、のれんなど」、エレクトロニックデバイスでの「日本および中国の連結子会社の建物、工具、器具、備品など」、ICTでの「日本・欧州の連結子会社のソフトウェアなど」となっている。
呉社長兼CEOは、「今回の減損で、すべてを出し切ったと考えている。減損したことで固定費が削減され、今後の競争力強化につながる」とした。
今回の減損損失の多くを占めたSDPを、2022年6月に完全子会社化したことについては、「当時は、ディスプレイ製品の多様化や、テレビ事業の拡大をはじめとした既存事業とのシナジーを期待した。また、日本製としての強みを訴求する狙いもあった。だが、予想以上の市況悪化に直面し、テレビに依存していたこともパネル価格の値下げにつながり、損失を大きくした。今回は減損という判断になったが、キャッシュへの影響を大きくはない。SDPとシャープディスプレイテクノロジー(SDTC)との融合により、テレビ、PC、サイネージのほかにも、新たなカテゴリーへのシフトを進め、ブランド事業の強化にも相乗効果をもたらすことができるだろう。また、新たなサービスビジネスの確立にもつなげることができる。日本製は強みになり、台湾やインドの企業との協力も検討したい。さらに、潜在的には、TFT技術を、半導体にも応用できると見ている」(呉社長兼CEO)とし、「SDPの完全子会社化は、前経営陣が判断したものだが、プロセス上での責任はない」とした。
2022年度のセグメント別業績では、ブランド事業の売上高は前年比3.67%増の1兆3864億円、営業利益は53.4%減の361億円。そのうち、スマートライフの売上高が前年比5.1%増の4687億円、営業利益は41.6%減の282億円となった。「白物家電事業では、下期以降に、国内やASEANをはじめとした世界各地での市況悪化の影響を受けたが、通期では増収となった。とくに、調理家電については、欧米でスマートキッチンやB2Bが伸長したことで、売上げを大幅に伸ばした。洗濯機ではドラム式洗濯乾燥機などが好調で、前年を上回った。また、エネルギーソリューション事業も、海外EPC事業や、国内住宅向け事業が伸長して増収となった。一方で、原材料価格の高騰や、円安の進展によって、国内の白物事業の収益が落ち込んだことで営業利益は減益となった」という。
8Kエコシステムの売上高は前年比4.3%増の5918億円、営業利益は46.2%減の134億円。MFP事業やスマートオフィス事業が、欧州および米州、アジアを中心に大きく伸長したほか、インフォメーションディスプレイも欧米などで売上げを伸ばし、ビジネスソリューション事業は前年比10%を超える増収となったほか、高付加価値化が進み増益となった。一方で、テレビ事業は、市況低迷の影響を受けて減収となったほか、第3四半期に一過性の費用が発生して減益になったという。
ICTは、売上高が前年比0.6%増の3258億円、営業利益は前年同期の40億円から、マイナス55億円の赤字に転落した。赤字の要因として、円安の影響が大きかったことを理由にあげている。
スマートフォンのラインアップを強化し、ハイエンドモデルの販売が増加したことで通信事業は増収となったが、PC事業は、世界的な需要低迷の影響を受けて減収。だが、「国内のB2Gや教育向けPCは前年を上回っている。注力分野であるソリューション関連の売上げも伸長している。また、欧州での構造改革やプロダクトミックスの改善など、収益改善の取り組みをいち早く進めてきたことから、2022年度下期には、通信事業およびPC事業ともに黒字になっている」という。
デバイス事業の売上高は前年比1.7%増の1兆2355億円、営業利益は前年同期の273億円から、マイナス516億円の赤字に転落。そのうち、ディスプレイデバイスは、売上高が前年比11.6%減の7599億円、営業利益が前年同期の203億円の黒字からマイナス664億円の赤字となった。エレクトロニックデバイスは、売上高が前年比19.8%増の4755億円、営業利益は前年比111.8%増の147億円となった。
「ディスプレイデバイスは、車載向けパネルなどは大きく伸長したが、市況の低迷により、スマートフォン向けパネルや、PC向けパネルが減少。営業利益は、大型ディスプレイ事業の悪化などもあり、前年比867億円減少し、赤字になった。エレクトロニックデバイスは、顧客の2022年モデル向けデバイスの販売が堅調だったことがプラスとなり、増収増益となった」という。
2023年度(2023年4月~2024年3月)通期の業績見通しは、売上高は前年比0.5%増の2兆5600億円、営業利益は400億円への黒字転換を計画。経常利益は390億円、当期純利益は100億円を計画している。
営業利益では、SDPに関連する損益で340億円の改善のほか、ブランド事業で327億円、デバイス事業ではSDPを除いて29億円の改善を見込んでいる。
沖津副社長は、「2023年度の需要環境は、コロナ特需の反動や、世界的なインフレなどの影響により、全体的に低調に推移すると見ているが、カーボンニュートラルやDX関連分野などでは、引き続き堅調な需要が見込まれる。その一方で、半導体不足や原材料価格の高騰、物流コストの上昇などの影響については、足元では緩和傾向にあるが、今後も不透明な状況が継続するだろう」と市場環境を分析。その上で、「2023年度は、最重点目標として最終利益の黒字化に取り組むとともに、中長期的な事業の拡大に向けて、新規事業の早期具体化や事業変革の加速、ブランド事業を主軸とした事業構造の構築を進めていく。年間黒字の必達に向けて、全社で開源節流を徹底する」と語った。
さらに、沖津副社長は、「事業変革を加速するために、新たな体制を構築する」と語り、注力領域の明確化や事業間シナジーの最大化を狙いに、ブランド事業のグループ体制を、「スマートライフ&エナジー事業」、「スマートオフィス事業」、「ユニバーサルネットワーク事業」の 3つに再編。技術力強化を目的に、最先端のAIやロボティクスなどの全社イノベーションを支える機能を束ねたイノベーショングループを新設したことも示した。同センターは、従来のシャープ研究開発センターを格上げしたものと位置づけた。
なお、デバイス事業は、従来通りにディスプレイデバイス事業とエレクトロニックデバイス事業で構成する。
ブランド事業については、スマートライフ&エナジー事業が前年比で増収増益を計画。白物家電事業では、新規に開発した独自特長商品やソリューションの創出、海外事業の拡大を進めることで、付加価値商品のシェア拡大や、日本および米国市場におけるスマートキッチンの拡大、ASEAN事業の高付加価値化などに取り組む。エネルギーソリューション事業では、堅調な再エネ導入需要を追い風に、住宅用PVや蓄電池の販売拡大に加えて、アジアにおける大型発電案件の獲得に取り組むという。
スマートオフィス事業は、売上高は前年比横ばいとし、営業利益は改善を見込むという。ビジネスソリューション事業では、ソリューション事業の強化と、B2Bディスプレイ事業の収益改善を推進。さらに、スマートオフィスの販売拡大や、MFP事業でのラインアップ拡充および商品力の強化、デジタルイメージングソリューション事業のグローバルでの事業拡大などに取り組むという。また、PC事業では、国内B2B事業の強化と、ソリューション事業の拡大を図る計画で、国内B2B向け新商材の投入や、PCマネジメントサービスの拡大に取り組む。さらに、海外については、北米、アジア、オセアニア地域に集中した事業展開を推進するという。
ユニバーサルネットワーク事業は、2023年度に黒字化を見込む。TVシステム事業では、商品力の強化やサプライチェーン改革によって収益性を改善。「XLED」のグローバル販売の拡大や、生産拠点の競争力強化などに取り組む。また、通信事業では、スマートフォン事業のブランド力強化と、非スマートフォン事業の拡大に取り組み、ハイエンドおよびミドルエンド端末の構成比の向上や、ルーターなどのワイヤレス新商材の販売拡大などを進める。
沖津副社長は、「将来の持続的成長に向けて、ブランド事業を主軸とした事業構造の構築を加速し、輝けるグローバルブランド“SHARP”を早期に確立したい」と述べた。
ブランド事業における新規事業の取り組みについても説明した。2023年4月1日付で、各事業グループに、新規事業専門組織を設置。同組織が中心となって、将来の成長の柱となる事業の早期立ち上げに取り組むという。
具体的には、スマートライフ&エナジー事業では、食・水・環境、ヘルスケア、B2B、次世代型太陽電池といった領域を挙げ、スマートオフィス事業では、MFPの戦略商品や、AI活用ソリューションを挙げた。また、ユニバーサルネットワーク事業では、XRやローカル5G/プレ6Gなどに取り組むことになる。
呉社長兼CEOは、「新規事業については、安定した既存事業から、新たな事業に発展させるものもあり、白物家電はスマートライフとして、8Kはスマートオフィスとして、さらにユニバーサルネットワークという新たな領域にも挑む」とした。
一方、デバイス事業は、従来の区分のまま、2023年度も事業を展開する。ディスプレイデバイス事業は、通期では赤字見通しとしているが、赤字幅は大きく縮小する計画だ。中型パネル事業の拡大と、工場稼働の最大化および最適化を進めるほか、VR向け事業の拡大や車載向けパネルの販売拡大などに取り組む。また、大型パネル事業では、収益性改善を最優先した事業運営により、パネル価格の推移を視野に入れた生産および販売活動を展開していくという。第3四半期以降のパネル価格の上昇にも期待しているとのことだ。
エレクトロニックデバイス事業は、2023年度に減収減益を見込んでいるが、カメラモジュール事業では、新規事業および新規顧客の開拓を推進。XR市場向けデバイスの販売拡大に取り組むほか、既存事業の収益構造の改善も推進する。また、センサーおよび半導体事業では、新規分野の開拓を加速。バイタルセンシングデバイスの販売拡大などに取り組むという。
呉社長兼CEOは、「シャープは、2023年度に黒字転換すること、技術の強いブランド企業に向かって進むことが大切だと考えている。技術変革は極めて重要であり、コア技術の強化、ブランド事業の展開を進める。また、新たなビジネスチャンスの創出を目的に、新規事業本部とイノベーションセンターを設置し、これがゲームチェンジャーの役割を果たすことを期待している」と述べたほか、「不採算事業については、開源節流を徹底し、改善ができない場合には事業をクローズしたり、売却したりすることも検討する。だが、現時点で対象となる事業はない」とした。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」