前回、地域事業者や行政が意識すべき要素として、地方DXを成功させるエレメント「6+1のNO」を解説した。今回は、地方創生に関わる外部の個人の視点で紹介する。特に近年、都市圏の副業希望者が地方創生に関わるケースが増えている。どんな姿勢と考え方で取り組むと成功につながりやすいのか。実例をもとに紹介したい。
この1年間、福岡の離島・能古島(のこのしま)の改革を手がけてきた。ランサーズのユーザーであるフリーランスを中心に、全国各地の約50名の個人でチームを組成。それぞれの得意と好きを活かしてプロジェクトを推進した。なかでも、より長時間滞在する宿泊者を増やすことが結果的に地域の経済効果もあると考え、能古島のコテージ「Villa防人」の予約数を追いかけることで売上増を目指した。
結果、前年比312%に引き上げることができた。観光庁の宿泊旅行統計調査(※参照元:観光庁「宿泊旅行統計調査」)によると、令和5年1月の延べ宿泊旅行者数の全国平均は前年比139%。アフターコロナや全国旅行支援の影響以上の結果といえるのではないだろうか。
実績を生み出せたことにより、確度の高いカタチで、3年後に5.7倍の売上を見込める計画を策定することができた。離島の企業も投資を決断し、フリーランスチームとともに、現在進行形でプロジェクトは続いている。
この成果にたどり着いた要因は、もちろんスキルのある個人が集まったこともそのひとつ。でも、経験や実績を持つ人材は全国に多数いる。もしそれが本質的な要素なら、どこもかしこも地域活性化は成功を収めているだろうと考えると、秘訣は何か違うように感じる。
では今回、福岡の離島・能古島の改革はなぜ結果を出せたのか。振り返ってみて、スキル以外の面で3つの要因があると気づいた。ポイントは「非効率」。一見時代と逆行しそうだが、むしろそれこそ効果的だったと思う。地方創生を手がけたい個人にとって、関わる際の参考になれば幸いだ。
[非効率1] ネットで完結しない。とにかく現地へ。
都市圏のサラリーマンやフリーランスが地方創生の副業に関わる際、すべてインターネット・遠隔で実行することが多い。しかし、それではなかなか信頼関係が深まりづらい。仕事のパフォーマンスは能力だけでは決まらないので、いかに一生懸命取り組んでも思ったような成果が出づらい。現地に足を運び、プロジェクトの関係者との関係性構築をすること。これは思った以上に肝となる。
もちろんインターネットを活用し、遠隔で関係性が作れないとは言わないが、双方のリテラシーが高いことが条件だとも思う。
[非効率2] 下調べをしない。行き当たりばったりで。
やる気満々になればなるほど、事前準備や下調べをする。多くのケースにおいてはとても重要な行為だが、地方創生を地域外の人間が手がけるなら、むしろ逆。事前情報を持ちすぎると、先入観が生まれやすい。まったく新しい切り口こそ外部の人が求められることなので、あえて何も準備せずに取り組み始めるのがオススメだ。余談だが「サボっている、マジメじゃない。やる気が本当にあるのか」と思われがちだったが、最近理解してもらえるようになってきた。 そのためにも、やはり現地で直接、なぜ準備しないのかを伝える必要がある。
[非効率3] 現地で仕事を詰め込まない。余白のあるムダな時間を。
都市圏から地方に行くと、どうしても予定満載で詰め込み、最短期間を設定しがち。それぞれの事情もあるので仕方ないこともあるが、できることなら余白のあるムダな時間を現地で過ごせるようにしたほうがいい。他愛もない地域の人との会話、名所ではないところへフラッと散歩。そういった行動によって、得られる情報が深くなる。ウェブで見た情報と全く違うことも少なくない。そこに地域のユニークな価値が眠っていることがある。
いずれも、行動に対する生産性は低い。少なくとも高いとは言えない。でも本来大事なのは、結果に対する生産性。地方創生の場合は、非効率な行動をするからこそ、その地域ならではの魅力を再発掘することができ、ひいては結果の生産性が高くなるのだろう。
四季があり、山があり、海があり、歴史があり、和食がある。世界的に見ても観光に強い日本。内需だけでは突破口がみえない国内社会において、地域は、日本人旅行者だけでなく、インバウンドも視野に入れて取り組みを進められると、今まで以上の可能性があるのではないだろうか。
しかし現状は、海外だと京都、東京、大阪など知名度抜群のエリアしか情報が伝わっていない。日本人はもう少し広く知っているとはいえ、一定のネームバリューがある観光地の域を超えない。この2年間で地球2周分国内を移動してきた筆者は、埋もれた魅力を持つ地域は本当に多いことを知った。だからこそ、可能性(伸びしろ)だらけだと感じる。
いま、地方創生に関心がある個人が増えている。好きな地域に貢献したい。そんな想いがある個人たちがみんなでノウハウをシェアしながら実行することで、もっと広く活性化させていけたらと考え、筆者が関わった地方創生プロジェクトで結果に繋がった要素について、寄稿させていただいた。このTIPSが参考になれば幸いだが、もっと効果的なノウハウは世の中のどこかにあるかもしれない。もしほかのTIPSをお持ちの方がいたらぜひアドバイス・共有いただきたい。
最後に、ちょっとおまけ。地域に足を運んで、地域の方と接点を持ち、溶け込むことは重要なポイント。そのためには知り合い伝手に行くのがよいが、必ずしも知り合いがいるとは限らない。そんなときは、地元のスナックか、比較的遅い時間まで営業している飲食店に行こう。そこで足を運んできた理由を伝えると「だったら紹介してあげるよ、今電話してみるから」と繋いでもらえることも多々あった。スナックのママからの紹介は、みんな断れないことも実感している(笑)。
根岸やすゆき
ランサーズCEvO(チーフエバンジェリストオフィサー)
1978年 東京都生まれ。フリーライターとしてキャリアをスタート。2003年、人材総合サービスを展開するエン・ジャパン株式会社に入社。制作部門長、プロ-モーション本部長を歴任。2013年、ランサーズに参画し、取締役CMOを経て、現職。「地方×DXプロジェクト」などのプロジェクト責任者を務め、新しい働き方、新しい組織の育て方、新しい事業の作り方を全国に普及させる活動をしている。働き方系・マーケティング系セミナー登壇実績多数。
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