2020年4月の緊急事態宣言からちょうど1年後の2021年4月、「地方×DXプロジェクト」を立ち上げた。
このプロジェクトの目的は、地方中小企業の本格的な改革支援だ。新型コロナウイルスの蔓延防止策の影響で、ただでさえ課題が山積みの地方は八方ふさがり。地域の中小企業は、倒産リスクを抱えながら日々苦難している。なんらかの改革を進めなければならないが手が回らない。できる人材もいない。そもそも、何をどうしていいかさっぱり検討がつかない。全国各地の中小企業の声を聞いて、見て見ぬふりをするわけにはいかず、ランサーズだからできるやり方で行動しようとしたのがきっかけだ。
DXの誤解やそれに対する不安も解きたかった。実際にこんな声を聞いたので紹介したい。
「DXがなんなのかよく分からないけど、言葉は聞くようになった。時代の変化についていけてないから、それをやらないとマズいのではと思っている。コンサルティング企業からデジタル化すべき、業務効率を改善しましょうと提案を受けたこともある。一方で、知り合いの経営者がそれで発注したけど何も変わらなかったという声も聞いていて、いまいち踏み込めない。もちろん効率が良くなるのは嬉しいけど、本音はそんなことより売上なんだよね。手間暇かかってもいいから売上が上げたいんだ」
DXはデジタル化でもなければ効率化でもない。たしかに辞書ではデジタルトランスフォーメーションの略だが、本質的な意味合いは違う。事業の構造改革とそれに伴う組織改革だ。しかも、従業員数の多い大手企業など、少しの効率化でレバレッジが効く企業を除けば、そんなことを誰も望んでいない。声を大にして言いたいのだが、効率化や生産性向上ではなく、求めているのは売上だ。
そんな地方の中小企業経営者と出会うたびに、筆者は「DXは、デジタルトランスフォーメーションではなく大胆(Daitan)トランスフォーメーションだと捉えていただきたい。時代の変化にあわせて経営スタイルを大きく転換する必要はある」と伝えていた。
根本的に変化を起こし、時代にあったカタチで成長する企業を日本中に増やしたい。だからこそ「地方×DXプロジェクト」を発足した。
とはいえ、全国400万社以上ある中小企業すべてに、筆者ひとりで一気に広げるのは不可能。しかもこの支援が本当に救いの手になるのかもまだ判明していない状況。まずは少数でもいいから、しっかりとした成果となるロールモデル企業を生み出すことに専念し、成功方法を発見してから展開を拡大することにした。
立ち上げ時の地方×DXプロジェクトの概要は以下の通り。
●募集要件
●ランサーズからの提供
●選ばれた企業が約束いただくこと
このプロジェクトには約50社の中小企業経営者からエントリーがあった。本来ならすべての企業を支援したかったが、書類選考と経営者面談を経て3社を選定した。
選定した企業は以下だ。
その後、3社合同での経営合宿を、福岡郊外の廃校で実施した。朝から晩まで議論と整理を繰り返し、以下を明確に具体化した。
この戦略設計が生命線。なんとなく今まで通りの延長戦で実行しても意味がない。ゼロベースで整理することに全員が全力で向き合った。
参加企業の経営者からは
……といった感想が生まれた。経営者自身が真剣に3日間向き合った成果だろう。その後は、アクションプランに基づき、オンラインでの定例会議をしながら、必要なら現地に行き、施策を進捗させていった。
結論から申し上げると、いずれも成功した。明確なアクションプランを作成し、経営者やキーパーソン自身が本気で取り組んだ結果だ。それぞれの結果は以下のとおり。
本稿では、このなかから、キャビア王国について詳細にお伝えしたい。
まず、キャビア王国の課題の根っこは「経営者依存」だった。経営者が手がけなければ事業が広がらないのは、従業員数の少ない地域企業によくあるパターンだ。もれなく同社もその状態で、営業、商品の品質管理、広報、顧客対応、事務作業を社長が担っていた。事業を更に成長させるには、社長の手を離れても既存事業が広がっていく組織をつくる必要があった。
念のためにお伝えしておくが、従業員はそれぞれの役割をしっかりとまっとうしている。だからこそ社長はそれ以外を自分でやらざるを得なかった。人材を雇用する案ももちろんあったが、雇用はリスクでもある。その人の人生にコミットできる保証がない以上、無責任に増員はできない。また、同社は地方企業のため周囲に求めているスキルや経験を持つ人材もいなかった。
そこで改革方針は「既存事業にかける経営者リソースを最小限にして、固定費をかけずに、既存事業の売上を伸ばす」とした。つまり、できる限り社長がノータッチになる状態を目指した。それを実現するためフリーランスチームを組成した。
宣伝広報は、ターゲット別に手法を選定した。ウェブでのリーチが可能な見込み客には、社長が営業電話をするのではなく、SNSやクラウドファンディングを活用。一方、ウェブでアプローチしづらいターゲットには、引き続きテレアポを行ったが、そのアクションはプロの営業フリーランスに託した。さらに受注後の対応は、アシスタントフリーランスに業務が引き継がれ、商品発送の手配、書類対応などが行われる体制へシフト。社長でなければならないインタビュー出演などの一部の宣伝活動以外は、手離れさせる体制を構築した。
その結果どうなったか。対策前後で、月間の売上は5倍以上となった。制作費や人件費の出費も増えたが、それ以上の売上向上により利益も増加した。
その上で、社長の事務作業時間は50%減少。組織運営方法を抜本的に変革することで、経営課題をクリアした。この体制変更により、雇用をせず、社長が自らの時間を労費せず、事業をさらに伸ばしていける仕組みとなった。
キャビア王国に限らず、3社とも成功した要因には……、
などの共通点がある。この要因については、次回詳細を書くのでここでは割愛するが、なかでも一番大切なのは、経営者が本気で大胆な改革を実行することだろう。
3社と少ない母数ではあるがすべて成功したことで、このプロジェクトを拡大していく決意をした。
具体的には、プロジェクトをリードできる選抜フリーランスを選定。全国100名以上のなかから選ばれた、経験とスキルと熱量を持つ人材だ。改革を指南できる人材が増えることで、改革を実行できる中小企業を増加させる。すでに、20社以上の相談を受けており、事業構造改革プロジェクトは進んでいる。それに伴い、さらに選抜メンバーをこれから増やす予定だ。
▼選抜フリーランスへの相談はこちら
https://hosting.lancers.jp/lp/dxdirector/
同時に、認知拡大も図っている。そのひとつが、福岡市実証実験フルサポート事業に採択された「離島DX」プロジェクトだ。
【福岡市のプレスリリース:能古島の魅力発信・来島者増加を目指して - 「福岡離島 DX」実証実験を開始!!】
離島DXプロジェクトは、2022年春から開始しており、一定の成果も出ている。これをパッケージモデルとして、全国の地方創生に活かしていくことで、より大きな粒度で、地方中小企業の発展に寄与するのが狙いだ。成果発表・相談会を2023年1月に実施予定なので、しばしお待ちいただきたい。
今から約1年半前に立ち上げた「地方×DXプロジェクト」を通して、筆者はその期間で国内約7万kmを移動した。地域に深く入り込み、地域の方々と話し込み、その上で、実際に改革を実行してきた。そのなかで気づいた、成功できる地域、失敗さえできない地域のポイントがみえてきた。また、地方創生や副業に興味のある個人が増えている状況だが、貢献できる人材の心構えやスタンスにも特徴がある。
次回以降は、全国的に地方改革を広めるため、そのポイントについて紹介したい。
根岸やすゆき
ランサーズCEvO(チーフエバンジェリストオフィサー)
1978年 東京都生まれ。フリーライターとしてキャリアをスタート。2003年、人材総合サービスを展開するエン・ジャパン株式会社に入社。制作部門長、プロ-モーション本部長を歴任。2013年、ランサーズに参画し、取締役CMOを経て、現職。「地方×DXプロジェクト」などのプロジェクト責任者を務め、新しい働き方、新しい組織の育て方、新しい事業の作り方を全国に普及させる活動をしている。働き方系・マーケティング系セミナー登壇実績多数。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」