フィットネスインフルエンサーのLiver Kingとして有名なBrian Johnson氏は、野獣のような男性だ。隆々とした上腕二頭筋と波打つように割れた腹筋を持ち、濃いあごひげを生やした同氏は、2022年を通して、ソーシャルメディアで爆発的な人気を博した。同氏は自身の肉体について、「祖先の」食事法によって作られたものだと主張している。これは、動物の内臓を生で食すというもので、睾丸なども食べるそうだが、中でも特に肝臓(Liver)を主とした食事法だ。Liver Kingという名前は、このことが由来となっている。
膨大な数の人々が「TikTok」や「Instagram」「YouTube」でLiver Kingの動画を視聴していたわけだが、Johnson氏のみごとな肉体は、自身が提唱する食事法で作られたものではなかった。同氏はステロイドを摂取していたのだ。それも、かなりの量をだ。
ボディービルの選手で、スポーツ生理学の博士号を持つMike Israetel氏は、フィットネスに関するJohnson氏のデマに反論した人の1人である。「Primal is Bullsh*t!(原始的な食事法なんて大うそ!)」と題された動画の中で、同氏は、Johnson氏が提唱する祖先の食事法について同氏の主張がうそであることを暴いてみせた。
同氏はその動画で、「現代的なものは良いものである」と述べた。「『プライマルコーチ(訳注:原始的な食事法を提唱する人々)』が皆、病院に行ったり、ソーシャルメディアを利用したり、スーパーで買い物をしたりするのは、そのためだ」
Israetel氏の動画が公開されてから数カ月後、Johnson氏はステロイドの使用を認めた。報道によると、同氏はヒト成長ホルモンに月間1万1000ドル(約147万円)以上を費やしていたこともあるという。
現在では、一般的な人がフィットネスの向上に関して、これまでにないほど大量の情報源にアクセスできるようになっている、とIsraetel氏は話す。しかし、多くの人は依然として、どのアプローチに科学的な裏付けがあり、どのアプローチが「全くのでたらめ」なのかを見分ける判断力を備えていない。
Israetel氏は2月のインタビューで、「あの動画で何人の視聴者の考えを変えることができたのかは分からないが、常に大勢の人がフィットネスを新たに始めている」と語った。「そうした人たちがもし早い段階でわれわれの動画を見つけることができたら、間違った情報を妄信してしまうのを避けられるかもしれない」
新型コロナウイルス感染症の世界的流行で大きな打撃を受けたフィットネス業界だが、2023年には308億ドル(約4兆円)規模に成長すると予想されている。Johnson氏のようなインフルエンサーは何百万人ものフォロワーを集めることができ、それは多くの場合、スポンサーからの多額の報酬や、トレーニングプランやサプリメント、商品の販売から得られる収益につながる。
488人のフィットネスインフルエンサーを対象としたある調査によると、関連する資格を持っている人の割合は20%にも満たなかったという。TikTokやInstagramなどのプラットフォームでは、人気の高さは必ずしもきちんとした科学に基づいて決まるわけではない。アルゴリズムによって、デマを流すインフルエンサーが注目を集め、間違ったフィットネス情報であふれた環境が作り出されることもある。そうした情報は、誰かのお金と時間を無駄にするだけでなく、最悪の場合、深刻なけがを引き起こすおそれもある。
そうした誤った情報に反論しているのが、専門的な経験と科学的知識を駆使して、複数のプラットフォームで拡散されている間違ったアドバイスのうそを暴くソーシャルメディアインフルエンサーたちだ。
これらの専門家は、筋肉をつけるために重いウエイトを持ち上げるだけでなく、知識を増やすために大量の書籍や情報にも目を通している。
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