スポーツ分野に参入するテック企業が増えるなかで、老舗スポーツメーカーのミズノは2022年11月、イノベーション施設「MIZUNO ENGINE(ミズノエンジン)」を大阪・住之江区の本社内に開設。テック系スタートアップとのオープンイノベーションや、共創による製品開発に取り組んでいる。
4月18日にはMIZUNO ENGINEとオンラインで、パートナーであるスクラムベンチャーズと共同イベント「ミズノが考える事業共創・スポーツ×テックの現在地とポテンシャル」をハイブリッド開催。これまでのミズノのスポーツテックに対する取り組みを振り返るとともに、ミズノのパートナーのスタートアップを含めたスポーツテック市場の最新動向を紹介した。
ミズノは1906年に創業し、100年以上にわたってスポーツの価値を活用した商品やサービスを開発してきた。昨今ではそのほかにも、運動プログラムの開発やスポーツをする場づくりにも力を入れている。
そして2022年、新研究開発拠点となるミズノエンジンを開設。スポーツの定義を競技だけでなく日常生活における身体活動に拡大し、スポーツの力で社会課題を解決する社会イノベーションの創出を目指している。
ミズノエンジンは、研究開発の基本となる「はかる」「つくる」「ためす」ための特殊設備を1カ所に集結させた施設となっている。材料や靴・服・用具を試作するためのすべての専門設備を集め、作ったものをすぐに試すことができる。試すための空間は、体育館やハードコート、人工芝、走路、陸上のトラック、土や砂のグラウンドもあり、ほとんどのシーンを想定したテストがすぐに実施できる。
各フィールドにはセンサーやカメラも設置。イベントに登壇したミズノ 取締役社長の水野明人氏は、「試作品をテストする際にはデータの測定もできる。取得したデータを基に再度アイデアを膨らませ、次なる試作品を作り、試してデータを取って…というプロセスを高速で回せる。リードタイムを短縮してより良い商品を提供できる」と説明する。
ミズノエンジンは、今後もさまざまな設備を追加していくとのこと。ただし水野氏は同施設について、単に開発のための拠点ではないと強調する。建設に当たり、「開発部門だけでなく、生産、営業、流通、マーケティングなど全部門の社員から幅広く意見を聞いた上で作った」という。場所も本社の真横に設置され、施設内のワークスペースは、研究開発部門だけでなく、全グループ社員が組織の垣根を超えて自由に意見交換や情報共有ができる空間という位置付けだ。
さらに、ミズノエンジンは内部のつながりだけでなく、外部とのオープンイノベーションも強く意識している。イノベーション施設をオープンにすることで、人やモノが可視化されて混ざり合い、化学反応によって新しいものを生み出していくという思想を掲げ、拠点整備に並行する形でスタートアップとの協業も進めている。
具体的な取り組みとしては、2022年1月にスポーツテック領域に注力するベンチャーキャピタル(VC)のスクラムベンチャーズとパートナーシップを結び、スタートアップとの共創プログラムを開始。同社からの紹介を含め、複数のスタートアップと共創を進めている。
今回のイベントで水野氏と対談したスクラムベンチャーズ 創業者兼ジェネラルパートナーの宮田拓弥氏は、スポーツテックの市場に関して「スポーツ市場全体が100兆円のなか、現在は5兆円市場で毎年2倍の伸びを続けている。非常に可能性がある分野」と語る。
また、スポーツテックの現在地を、データ化の段階である「スポーツテック1.0」の状態と表現する。例えば、センサーを活用したサッカーのVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定や、野球やゴルフで使われている弾道計測器の「トラックマン」など、さまざまなスポーツでデータが活用され、映像表現やデータ解析ができるようになっている。
さらに今後は、「データ×バーチャル×双方向」をキーワードとする「スポーツテック2.0」の時代に突入しており、スクラムベンチャーズでも関連スタートアップに投資をしているという。
同領域では、協議中に血糖値を測れるセンサーやデータ活用の先にあるメタバース展開、未来型のバーチャルゴルフ、リアルタイムのスポーツベッティングなどの技術やサービスを開発するスタートアップが登場しているとのこと。「スポーツテックではデータ化が進む流れの中に、バーチャルや双方向の動きが出てきている。スポーツは完全に進化している」と、宮田氏はスポーツシーンの現状について解説する。
そのような流れの中で、ミズノはスポーツテック1.0の企業を中心に、現在協業を進めているという。具体的には、3月に実施されたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で優勝した侍ジャパンも利用していたという、バットのグリップエンドにIoTセンサーを付けて、振るさまざまなデータが即時に取れるBLASTや、NPB(日本プロ野球)で11球団、MLB(メジャーリーグベースボール)で9球団が採用している分析アプリケーションを提供するRUN.EDGE、筋肉の負荷を示す乳酸を汗から計測するセンサーを開発するグレースイメージング、NFTサービスを提供するGinco、オンラインフィットネスサービスを提供するSOELUなどと協業。それぞれとサービスの共同開発を実施しているとのこと。
また、南信州ビールとノンアルコールのビアテイストスポーツドリンク「PUHAAH」を開発するなど、スポーツを楽しむことを目的にテック系スタートアップ以外との協業も進める。
なお、今回のイベント会場では、バーチャルリアリティ(VR)で心の病気を治す取り組みを行うBiPSEE、自然の素材で靴や時計のバンドなどを作るNatural Fiber Welding、スポーツやコンサートの映像を高精細な3DCG画像に変換するボリュメトリックビデオ提供を提供するArcturusが来場し、展示も行った。
スタートアップをはじめとする社外のパートナー企業は、ミズノとの協業によって同社が保有する営業力からミズノエンジンなどのリアルの場、さらにECネットワークや140万人にのぼるネット会員などのアセットやリソースを活用するできる。同社ではスタートアップとの協業を推進するにあたり、社内にスタートアップの情報を正しく伝達するための共創ページも用意しており、今後さらに共創や出資を強化していく構えだ。
宮田氏は、「私たちは投資でさまざまなスタートアップをサポートしているが、一番難しいのが営業、つまり売り上げを作ること。ミズノのブランドと営業力をスタートアップが使えれば非常に大きな力になる」と、さらなる共創の活性化に期待を寄せる。
また水野氏は、「世の中では現在、スタートアップやベンチャーが話題になっている。今まで自分たちがやってきたビジネスだけでは、置いていかれる時代になっている。デジタルやアプリがどんどん進化しているので、それらを取り入れることで企業も事業も進化していく。そのためには幅広くアンテナを張り、情報をたくさん取ってその中から取捨選択し、それがうまくいけば飛躍的な成長が望める。私たちもそこを模索していくことが大事だと思って共創に取り組んでいる」と語った。
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