大阪大学、島津製作所、伊藤ハム米久、凸版印刷、シグマクシスの5者は3月29日、培養肉の社会実装に向けて取り組む「培養肉未来創造コンソーシアム」を設立した。この5者は1月に「3Dプリントによる食用培養肉技術の社会実装」に向けた合意書を調印しており、今回のコンソーシアムでは培養肉の社会実装に向けてR&Dパートナーや社会実装パートナーを募集していく。
コンソーシアムを設立した経緯について、大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥氏は次のように語る。
「凸版印刷と共同で3次元培養の基礎研究をしており、2021年には島津製作所と3Dプリンターを活用して和牛の培養肉を作る方法を発表した。と畜したての肉から細胞を採取し、筋肉になる『サテライト細胞』や脂肪になる『脂肪由来幹細胞』をプリントをして繊維を作るというものだ。まだオープンにできる部分は少ないが、プロトタイプもできている。この技術開発をさら加速させるために『培養肉社会実装共同研究講座』を5者で設立した。大阪大学吹田キャンパス内のIoCプラザの4階を培養肉社会実装共同研究講座が使い、3階にある島津製作所との協働研究所(大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所)と連携しながら研究開発をしていくことになっている。しかし(培養肉の社会実装には)細胞の採取から小売まで多岐にわたっており、この5者だけですべてをカバーできるものではない。そこで他の皆様の力も借りてコンソーシアムを作り、エコシステムによって加速的に研究開発をしていくのが目的だ」(松崎氏)
ミッションとしては2025年に開催される大阪万博における「大阪ヘルスケアパビリオンでのミートメーカー(培養肉自動作製装置)の展示」と「ミートメーカーによる食料危機の解決・SDGsへの貢献」を挙げる。
「大阪万博でミートメーカー等を展示し、未来の食のあり方、食生活はどう変わるのかということを紹介したい。万博までに基礎技術を磨いて社会に実装できるような形にした後は、ビジネスを目指して世界に貢献していきたい」(松崎氏)
コンソーシアムでは細胞採取から加工、評価、パッケージ、物流、販売までサプライチェーン全般における社会実装を進めていくが、伊藤ハム米久HDはそのうち「細胞採取」「3Dプリント」のうちの「組織化・成熟化」「食味評価・品質評価」「物流」「販売」を担当する。
伊藤ハム米久HD 中央研究所 所長の中出浩二氏はその役割について次のように語る。
「当社および協力農場で生産した優良な和牛を当社の加工所で処理し、採材した食肉を迅速に大阪大学に届ける。今後大量培養のために処理方法の最適化を目指して取り組む予定だ。『組織化・成熟化』では食感を本物の食肉に近くする『物性の付与・改良』(筋繊維の肥大化・成熟化)、食肉のような色を付ける『肉食の付与』『最適な熟成効果の検証』を行っていく」(中出氏)
食味評価と品質評価については、研究者が官能評価しても健康被害がないかどうかを調べる「喫食安全性評価」を実施した後に形状、色、テクスチャー、味、香りの5つの項目で官能評価を行う。
「官能評価では熟練したパネラーによる評価を行い、その結果と機器分析による分析値との相関で数値的裏付けを行って、おいしい培養肉の作成に向けて取り組む。官能評価に関しては島津製作所と共同で進めていく」(中出氏)
さらに伊藤ハム米久HDは流通、販売方法の検討も行っていく。
「万博での培養肉展示から一般販売に向けた安全性表示に関する日本における法整備に向けた対応、取り組みに貢献していく。生活者に安全かつ安心して培養肉を食べていただくために正しい情報の提供と啓蒙活動を、食品メーカーとしてしっかりと行っていきたい」(中出氏)
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