凸版印刷 常務執行役員 技術戦略室長の遠藤仁氏は、同社の役割について「細胞加工プロセスにおいて、独自のバイオマテリアルと細胞を混合したバイオインクによる培養肉の作成条件を確立することと、出荷工程における新たなパッケージの開発にある」と語る。
課題として遠藤氏は「各種材料の可食化」「和牛の組織構成の再現性向上」「培養肉に特化した新規パッケージの開発」の3つを挙げた。
「1点目としては、培養肉を近い将来に世の中に提供していくために極力、現行の食品や食品添加物として認められている材料への切り替えがポイントとなってくる。和牛の組織構成の再現性については、単純に細胞の数を増やすだけではない。独自のバイオマテリアルを駆使して肉本来の組織構造をより正確に再現することによって、食感や味を本物の肉に近づけることがお客様の購買意欲に大きく影響する。また、培養肉ならではの流通形態やおいしさに特化した新たなパッケージ開発が必要になる」(遠藤氏)
島津製作所 専務執行役員 分析計測事業部長の馬瀬嘉昭氏は「(同社は)味に影響する食品の成分を分析する液体クロマトグラフィー装置などを製造しており、ヘルスケア分野でも細胞培養に関する装置や技術を用いて協力していきたい」と語る。
コンソーシアムにおいて島津製作所は細胞培養を含めた培養肉製造装置の開発、食味・品質評価などを担当する。
その役割は3つある。
「1つ目はバイオプリント技術による自動生産装置の開発で、大阪万博では5cm角の培養肉を作ることを目標に作業を進めている。2つ目は細胞培養の最適化だ。グループ会社の日水製薬の技術を活用して、培養肉用の培養モニタリングが実現できる培地を提供していきたい。3つ目の食味評価では、培養肉の構造成分や食感、香りの解析や健康増進に役立つ成分の分析や評価をしていきたい」(馬瀬氏)
自動生産装置(ミートメーカー)は5つのユニットに分かれており、1つ目の「プリントセル準備ユニット」で細胞を増殖してバイオインクを作成し、プリントの準備をする。2つ目の「プリントユニット」でバイオインクを注入し、3つ目の「培養ユニット」で培養する。4つ目の「組織繊維回収ユニット」では培養した組織繊維を回収し、5つ目の「成型ユニット」で回収した組織繊維をステーキのような形に成型するという流れだ。
「ステーキの形を成型するときに脂肪の量・分布を調整すれば、高級な霜降り風味のステーキが作れるのではないかと考えている」(馬瀬氏)
細胞培養の最適化と培養肉用のカスタム培地の開発においては、「細胞が分化増殖する状況ごとに培養液中の成分を一斉分析してモニタリングし、どのようなバランスが細胞にとって心地よい環境なのかを調べていきたい」と馬瀬氏は語る。
培養肉の食味評価については「培養肉の成分、構造、機能成分などを分析し、目標とする和牛と同じ成分、おいしさをデータから確認していく」(馬瀬氏)という。
「たとえば香りの評価では、クロマトグラフのピークから牛肉と植物肉で異なる香気成分を観察できる。また、小型卓上試験機を使えば、咀嚼する動きを模倣する試験ができる。これに関しては、分析データを伊藤ハム米久の人による官能試験と合わせてテストすることで、食感を定量的に評価し、目標とする和牛ステーキにどのような特性をチューニングすればいいかが見えるようになる」(馬瀬氏)
シグマクシス ディレクターの桐原慎也氏は、同社の役割について「さまざまな企業や団体、省庁も含めた連携や、プロジェクトのマネジメントを担う」と語る。
「コンソーシアムは5者が運営パートナーとして共同研究所の運営や技術開発、対外情報発信、省庁との連携などを担うが、それだけでは足りないので、どんどん仲間を増やしていきたい」(桐原氏)今後、コンソーシアムで募集していくのが技術開発を担う「R&Dパートナー」と、社会実装に向けた「社会実装パートナー」だ。
「R&Dパートナーは、運営パートナーとの共同研究を通じて、培養肉の社会実装に向けた要素技術の開発を行うプレーヤーを募りたい。社会実装パートナーは、情報発信を通じて培養肉の技術や製品の社会への普及に貢献する起点となるパートナーだ。運営パートナーは基本的にはわれわれ5社が務めるが、R&Dパートナーと社会実装パートナーはオープンに募集していきたい」(桐原氏)
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