商工組合中央金庫(商工中金)は3月20日、同社が2022年度に実施した社内ビジネスコンテスト(ビジコン)の最終成果発表会となる「商工中金ビジネスコンテスト2022 Demoday」を開催した。
一次審査を通過した9チームが、全国から東京・虎ノ門のARCH虎ノ門ヒルズインキュベーションセンターに集結。約1年間にわたってブラッシュアップさせてきた新規事業アイデアを経営陣にアピールし、その中から4つの事業アイデアが採択された。
商工中金は2018年から社内ビジコンを開始し、すでにそこから新しいサービスも生まれている。今回は、コロナ禍で3年間の中断を経て3回目の開催である。募集テーマは「商工中金のパーパスを体現する事業」で、5年後の主力事業化を目指した事業アイデアを募った。Demodayは最終選考会という位置付けであり、ここで優秀賞に選出されると、新年度から本格的な事業化に向けた取り組みへと移行する流れになっている。
今回のビジコンには、従来にはなかった2つのポイントが存在している。1つめは、同社がパーパスを策定して初の開催であるということ。2つめは、企業の新規事業創出を支援するフィラメントがサポートを担当し、商工中金の未来デザイン室との連携でビジコンをより体系的に進められるようになったことである。その結果、今年は入社2年目職員を含む20代から40代まで、過去2回を上回る約100人が応募するという盛り上がりを見せている。
Demodayに至る流れを振り返ると、まずアイデアと参加者を社内公募し、応募者に対して10月までに勉強会やセミナー、他社との交流会などを実施。そこから10月に第一次審査を行い、3〜4人からなる9チームが通過。その後フィラメントのメンター伴走のもとで、オンラインのメンタリングやリアルのワークショップを通じて新規事業創りのマインドセットやメソッドを学び、それらを実践しつつ、各々の事業アイデアの精度とピッチに向けて社内に対するアピール力を高めていった。
実は、商工中金の事業モデルは新規事業開発との親和性が高い。まず、商工中金のビジコンおよび新規事業アイデアの特徴として挙げられるのが、課題抽出の精度の高さである。昨今の企業における新規事業創りでは社会課題の解決を起点とするのがセオリーとなっているが、同社が金融機関として普段接している全国の中小企業のなかに、リアルな課題がさまざまに埋まっている。そのため、多くの企業が新規事業のテーマを考える際に苦労する課題の発掘、設定に時間がかからない。
加えて、全国47都道府県に拠点を持つリソースとタッチポイントの幅広さという強みもある。日々の活動の中で同様な思いを持つ全国の社員と連携してチームを組むことができ、課題の深掘りを行うために欠かせないユーザーインタビューを実施する際にも、全国の社員から普段接している顧客の中から該当者を紹介してもらいやすく、新規事業開発の初心者でもスピード感を持って取り組みを進めることができる。
さらにそこへ、政府系金融機関として活動してきた商工中金に求められる役割の変化という市場的な要因も介在してくる。商工中金では、いくつかの問題を経て新たに昨年パーパスも策定し、変革に向けて積極的に動いている最中ではあるが、加えてこの3月に民営化法案が閣議決定され、国会承認の後に正式に民営化される見通しで、まさに今大きな変革の時を迎えている。
それに伴って今後は自らで事業を広げていく必要があり、またその際に民業圧迫を懸念する声も少なくない。商工中金としてはリスタートに当たって中小企業向けの金融機関として単に民間との競争で事業を拡大していくのではなく、商工中金だからこそできる画期的な新規事業が必要との思いがある。当然職員側にも、若手を中心に新たな事業展開や評価軸の中で活躍し、自らの存在感をアピールしたいという思いも生まれている。
2022年度のビジコンは、そのような状況下での開催となった。当然一般的な大企業のビジコンと同様、社内の人材育成という側面も有してはいるが、特別な背景のもとで開催された今回の商工中金のビジコンには、さまざまなリアルと本気の要素が詰め込まれているのである。
Demodayは、各チーム8分+10分の質疑応答という形で進められた。審査員には、商工中金から代表取締役社長 兼 社長執行役員 関根正裕氏と取締役副社長執行役員 中谷肇氏、常務執行役員 経営企画部長 牧野秀行氏の同社役員3人が参加。そのほかに当該領域で知見を持つ外部審査員として、武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 アントレプレナーシップ学科 学部長 教授の伊藤羊一氏とSUNDRED CEO Partner 留目真伸氏、さらに今回のビジコンを支援したフィラメント 代表取締役 CEO 角勝氏が参加し、6人で審査を実施した。
Damodayでは9組のプレゼンと質疑応答が行われ、審査の結果当初の予定を上回る4件の事業アイデアが採択された。優秀賞を受賞した事業アイデアおよびチームは、企業間の人材共有サービスで産業の人手不足解消を目指す「北の国から’23〜絆〜」、廃棄農作物を減らすための6次産業化支援プロジェクトを提案した「かけはしもと」、女性活躍を推進するラボの設立を目指す「Going LR」、2024年問題で困難になることが見込まれる長距離輸送を中継輸送で解消する「3KL」。
そのほかに、事前の職員投票による職員特別賞として、製造業の生産性向上支援のためのデータ活用サービスを提唱した「Boy meets Boys」、伴走したフィラメントによるフィラメント賞として、同族経営の中小企業の承継予定者である“アトツギ”を支援するサービスを考案した「m!kke」がそれぞれ選出された。
最後に総評として、伊藤氏、留目氏、関根氏の3人が参加者と、配信を通じて視聴している商工中金の職員に対してメッセージを送った。
伊藤氏は、それぞれのプレゼンの内容を高く評価し、「私は旧日本興業銀行の出身なので、熱い思いで時間を過ごすことができた。皆様はとてもチャンスに満ちている。他者がうらやむ顧客基盤と日経新聞にも載っていない生の顧客データを持っているので、それを活かしてこれから新しい商工中金の確立に取り組んでいって欲しい。そのために必要なことは3つ。まずはパーパスに徹底的に集中することだが、ここはできていると感じた。2つめは、コンセプチュアルスキルを備えること。本質を一言で表現できる力は事業を創る上でとても大事。ここを落としたら事業になるというセンターピンを探し続けてほしい。3つめは、断固たる決意。決意があればたとえ無理だと感じたとしても、不可能が可能になる」とコメントした。
留目氏は、「素晴らしい発表だった。ビジコンに時々招かれるが、今回は本当にレベルが高かった。課題の設定が良く、ハイレベル過ぎず小さ過ぎず現実的で、取り組むべき課題にしっかり取り組めていたと感じた。皆さんが今取り組んでいることに1つ加えたい。デザイン思考で現場の目の前の課題を見つけ、その解決を目指すことは大事だが、それに加えて課題そのものの本質を探る作業を付け加えて欲しい。例えばフードロスの先にある1次産業の根本的な課題は何かといった具合に、あるべき姿を探り、そこからバックキャスティングして、目の前の課題とすり合わせながらどうなれば誰もがハッピーになる社会を作れるのか、その部分を埋められるような事業計画作りを意識するといい」とアドバイスを送った。
関根氏は、「どれが選ばれても不思議ではないくらいの内容で、私としては全部今すぐ事業化できると思った。このような新しいことに挑戦する取り組みは、人づくりという意味でも組織のためにも、非常に大切だと思っている。現在社内でビジコンや社内兼業制度を実施しているが、自分たちが今日常の仕事のほかにどれくらいのことにチャレンジできるか、経験を積めるかが大きいという意味で、参加者はこの1年大変だった分得たものは多かったはず。皆さんのような素晴らしい職員がたくさんいて、商工中金は安泰だと思えた」と総括した。
今回審査を通過した4チームのメンバーは、2023年度の上期は引き続き通常業務との兼務で事業実現のための活動を行っていく。そして7月に事業化の最終判断が下され、そこを通過すると下期からは実際に事業化できるようにメンバーも正式に異動となり、PoCの形で事業をスモールスタートしていく計画となっている。
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