「今から行ってくるニャー!」――厨房内で調理したばかりの料理や冷えたドリンクを載せたネコ型配膳ロボット「BellaBot(ベラボット)」は元気に客が待つホールへと向かう。高低差のあるスロープを判別すると手前からゆっくりと速度を落とし、味噌汁などの汁物やビールもこぼさず客席へ。
配膳ロボットは大手の飲食店を中心に導入が進んできているが、国内最多といわれる10台のベラボットがフル活動する店が千葉県富津市にある。
配送配膳ロボットの導入をサポートするDFA Roboticsは3月14日、「漁師料理 かなや」のメディアツアーを開催した。
漁師料理 かなやは、豊富な海鮮料理と内房の海が見渡せるロケーションで人気のスポットだ。晴れた日は、富士山・大島・三浦半島が一望できるという。席数は450席と広いが、取材で訪れた平日の昼間もかなりの混雑ぶりで、ひっきりなしに料理を運んでいた。
10台のロボットは、それぞれがお互いの位置情報を把握するなど自動連携している。混雑する店内は、ロボットどうしや人間とのすれ違いも頻繁に起きるが、人のみならずベラボットどうしでも「お先にどうぞニャー」とゆずりあい、人とロボットが自然に融合している様子が見られた。
ベラボットは、中国のPudu Roboticsが開発したロボットだ。レーダーで空間認識を行い、走行中の障害物を避けるなど飛び出しにも瞬時に反応するなど走行性能が高い。また、見た目がかわいらしく、ディスプレイにはネコの表情が表示され、耳や額にふれると、「気持ちいいニャー」など反応してくれる。あまりに触りすぎると「やめてニャー、嫌いになっちゃうニャ」と怒った表情も見せるなど、コミュニケーション力の高さも特長のひとつ。従業員はロボットを「ベラちゃん」と呼んでおり、そうしたところからも人とロボットがなじんでいる印象を受けた。
かなやは、客数は好調な一方で、立地の影響もあって求人を出しても応募が来ず、従業員の労働負荷の高い状況が続いていたという。かなやを運営するウイング興産は、2022年3月に8台のベラボットの導入を決めた。新しいシステムを活用して、店舗運営を改善したかったという。
ベラボットを導入してどうなったか。平均配膳数は316食/日、繁忙期には最大900回/日以上の配膳をロボットが担当し、人による配膳数は導入前と比較して、約5~7割削減。いまでは少ない人数で店舗運営が可能になったという。
そこで、2022年12月にベラボットをより活用できるよう、バックヤードと客席を隔てる壁を改修。以前よりも90cm客席側に移動させ、配膳ロボットが通る空間を生み出した。
そうした改善を経てさらに2台を追加し、2023年3月からついに10台の配膳ロボットが連携した。
漁師料理かなや 店長代理の小坂歩氏は、「ロボットがない時代、ホールに20人ぐらいスタッフがいたが、どんどん減っていってしまった。当時は人力で接客も配膳もしてという状況だったので、サービスが低下した時期があった。ロボットが来たことで、サービスの改善もでき、スタッフの体力の問題も軽減された」と導入前後の状況について振り返った。
現在は、アルバイトとあわせても10人いないという。「10人はいないと回らなくはなるが、5人分ぐらいはロボットが役に立っている」(小坂氏)
今でこそうまくいっているが、導入当初は大変だったとも明かしてくれた。「機械になれているスタッフがいないので、ロボットが来てすぐはうまく使いこなせなくて、ストレスしかなかった。DFA Roboticsと話し合いながらベラについて理解していった。調整を重ねていまの状態にもっていった。今はもうほとんどストレスはない」(小坂氏)
また、店舗の改善を経てさらに効果が上がっているという。「厨房との距離が縮まったので、料理がすぐ出せる。ビールも泡が減らずに運べるので、料理の状態がよいまま運べるようになった」と語った。
こうした改修やベラボットの調整を担当するDFA Roboticsは、「ロボットは人の仕事を奪うのではなく、人とビジネスの可能性を伸ばすことを目指したもの」と説明する。
DFA Robotics COOの松林大悟氏によると、かなやの事例なども踏まえて成功している理由は契約後のアフターサポートにあるという。同社はシャープマーケティングジャパンと連携。48都道府県、全国140カ所以上の保守拠点をもとに全国のトラブルシューティングに対応。また、メンテナンスにも対応している。
「ただロボットをお店において終わりだと、難しい部分がある。まずはロボットを活用して運営に役立てていただき、その次に(かなやのように)ロボット活用前提でのオペレーションで効率化をしていく。さらには、店舗カメラやタブレット、エレベーターとも連携できるロボットも調達していきたい」と今後の展望について語った。
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