TERASSが提案する不動産個人エージェントという新たな選択肢

 TERASSは、不動産エージェントにおける個人フランチャイズという新たな選択肢を提供している不動産テック企業だ。不動産エージェントの仕事を、より自由かつ効率的に変えることで、顧客体験の向上につなげる。

 長く続く、店舗を構えることが当たり前という業界の慣習を変え、不動産エージェントに新たな仕事の仕方を提案するTERASSは、不動産業界にどんな変化をもたらしているのか、また個人フランチャイズのサポートが顧客体験の向上にどうつながるのか。TERASS 代表取締役の江口亮介氏に聞いた。

TERASS 代表取締役の江口亮介氏
TERASS 代表取締役の江口亮介氏

不動産の仕事は魅力的、でも取引は「イケてない」

――TERASSを立ち上げた経緯を教えて下さい。

 新卒でリクルートに入社し「SUUMO」の営業を担当しました。実際に働いてみると、仕事のツールはファクスと電話が中心で、アナログの働き方が残っていることに驚きを覚えました。それと同時に、よい物件をご紹介できれば、お客様の人生が幸せになる、人の人生に影響を与えられる良い仕事だなと感じました。

 SUUMOの仕事を通して自分自身も不動産が好きになり、26歳の時に最初の家を買って、不動産が人生に与えるインパクトの大きさを身をもって感じたんですね。その一方で、不動産取引の「イケてなさ」みたいなものも体験しました。

 リクルートを退職し、コンサルタント会社に勤めた後、自分の身をもって社会を一歩前進させたいという思いから起業しました。不動産業界を選んだのは、自分自身が好きで得意な業界であること、そしてマーケットが大きいことが理由です。

――不動産業界の中でも、当時あまり日本に浸透していなかった個人フランチャイズに注目した理由は。

 米国の不動産テック企業を研究する中で、急成長を遂げていたのが、テクノロジーを使って不動産エージェントの業務を支援するクラウドブローカレッジのeXp Reality、CompassやRedfinといった企業でした。いずれも数万人のエージェントを抱えながらオフィスを持たず、業界内で存在感を増していた。これはかならず日本でも個人化が進むだろうと。この仕事環境を日本でもできないかと考えたのがきっかけです。自分が社会に新たな選択肢を増やすという意義も感じました。

――起業を最初に決めて、その後市場環境を見ながらビジネスモデルを考えたということですか。

 そうですね。起業している方は、あとからビジネスモデルを考える方が多いように感じます。

 今まで不動産エージェントとして働くには、会社員になるか独立するかの二択でした。TERASSが提供しているのは、いつでも仲介業務が始められるフリーランス型の不動産エージェントができる環境です。不動産仲介で大事なのは人の力量で、モバイル端末が普及した今、店舗の重要性はそれほど高くない。ただ、仲介業としてやるべき仕事は本当に多くて、1人ですべてを担うのは難しい。そうしたバックヤードの仕事をサポートし、エージェントにはお客様と接する時間を増やし、いい接客ができる環境を提供する。それがTERASSのビジネス領域になります。感覚としては、ランサーズやクラウドワークスの不動産版です。

――日本にはありそうでなかったビジネスですね。

 ランサーズやクラウドワークスようなサービスが登場して、デザイナーやエンジニアの方の個人化はぐっと進みました。私は、仕事における個人化はもっと進むべきだと思っています。日本は中小企業が多いですが、ここで働く人々の個人化が進めば、仕事の効率はもっと上がるはずです。仕事の無駄を省ける要因の1つを個人化が担っていると考えています。

――個人エージェントの仕事をサポートするサービスについて教えて下さい。

 不動産仲介業務の前工程となる集客をサポートする「Terass Offer(テラスオファー)」、不動産仲介業務をスマホひとつで完結させる「Terass Cloud(テラスクラウド)」、後工程となる売り主とのコミュニケーションツールである「Terass Portal(テラスポータル)を中心に展開しています。

 なかでも仕事効率化に直結するTerass Cloudは、顧客、物件管理から書類作成と多岐に渡る不動産仲介業の仕事の工程を、個人エージェント向けにしていることが特徴です。この部分の仕事をデジタルサービスとして提供している企業はほかにもありますが、いずれも企業向けで、個人エージェントでは使いづらい。そのため、競合はいないと考えています。

――サービスを提供する上で、参考にしている企業などはありますか。

 日本企業では特にありません。今、日本の不動産業界に必要なのは、良い売買体験を作ること。ここは米国の先行事例を学んで対応できると思っています。これを個人エージェントに特化した形で提供することがTERASSの役目です。

コロナ前から「ウルトラリモート」、自由な働き方で効率を上げる

――日本における不動産売買の形は、顧客ドリブンで変化してきていると感じますか。

 日本の不動産売買の平均回数は1.4回という数字が出ていて、多くの人が住み替えをしていない。そうした中でもTERASSのエージェントはお客様から新たなお客様を紹介いただけるケースが増えています。これは、エージェントの仕事のうち、お客様と接する時間が増えたことで満足度が上がっている証拠だと思います。エージェントは会社という縛りをなくすことで、自分が取り組みたい営業をしっかりやれる。集客はしていないけれど、仕事が次々と増える。これが不動産エージェントのあるべき姿だと思っています。

 正直、不動産仲介のサービスは構造上差別化が非常に難しい。商品を提供しているサービス業かつ、業法で定められた取引の仕方があります。ここでどう差別化するかといったら接客力なんですね。サービスの幅を広げると圧倒的な差別化につながる。接客力を上げることで、お客様からお客様の紹介が増える。これは不動産情報プラットフォームよりも高いネットワーク効果が得られていると考えています。

 日本における不動産売買の仲介手数料は3%+6万円と決まっていますが、私たちのエージェントはお客様からなぜこの利率なのか、もっと高くてもいいとおっしゃっていただける。それだけ素晴らしい接客ができているということです。だから紹介先が増える。仕事の効率化による接客力の強化が現れている事実だと思っています。

――新たな不動産サービスを提供されていますが、社内の環境なども先進的なのでしょうか。

 コロナ前、創業当時から「ウルトラリモート」を掲げていて、仕事において社員全員が集まったことは一度もありません。東京にいないメンバーも多いですし、だからこそ、自由な働き方の中でクリエイティビティを発揮してくれていると思います。リモートだと採用力も上がりますから、優秀なメンバーも採用しやすいですしね。

 ただ、オフィスは設けていて、オフィスで仕事ができる環境も整えています。私自身はほぼ毎日出社していますし、個人個人が一番パフォーマンスを発揮できる仕事の仕方をしてほしいなと。会社に来たほうがパフォーマンスが上がる人もいますし、リモートのほうがいい人もいる。自分の働き方からデザインしてほしいですね。

 仕事で集まったことはありませんが、遊びでは顔を会わせています。半年に一度程度イベントを設けていて、対面で会うことの重要性はやはり高いですね。

――既存の不動産仲介から考えると店舗がないこともかなり画期的です。

 最初は作業場所がないため不安だったという話も聞きますが、慣れてしまえば問題ありません。商談はオンラインでできますし、契約時は先方に出向くなど、やり方はいろいろとありますから、常時店舗があることにあまり意味を感じていません。元々優秀な営業担当者ほど店舗内にはいませんよね。店舗があるからこそ発生してしまう無駄はあると私は思っています。

――大変勢いを感じる御社の取り組みですが、今後の展開は。

 2025年の3月末までにエージェント2000人の獲得を掲げています。今、日本で一番大きい不動産仲介会社のエージェント数がおよそ1500人ですので、これを超えることで、不動産エージェントの一番の集積地になりたいと考えています。

 規模が大きくなれば、サービスの開発も広がりますし、不動産売買にかかわる利便性の高いツールをエージェントにもユーザーにも提供していきたい。TERASSにかかわることで、利便性が上がり幸福度が高まる、プラットフォームとしてそんな好循環を生み出していきたいと思います。

 もう一つ、変えていきたいのが住宅ローンなど不動産の金融です。ここを不動産仲介主導で変えていきたい。この取り組みを実現するには規模がないと話にならないので、エージェントの数を伸ばすこと。これが目下の目標です。

インタビュアー

川戸温志

NTTデータ経営研究所 シニアマネージャー

大手システムインテグレーターを経て、2008年より現職。経営学修士(専門職)。IT業界の経験に裏打ちされた視点と、経営の視点の両面から、ITやテクロノジーを軸とした中長期の成長戦略立案・事業戦略立案や新規ビジネス開発、アライアンス支援を得意とする。金融・通信・不動産・物流・エネルギー・ホテルなどの幅広い業界を守備範囲とし、近年は特に不動産テック等のTech系ビジネスやビッグデータ、AI、ロボットなど最新テクノロジー分野に関わるテーマを中心に手掛ける。2018年より一般社団法人不動産テック協会の顧問も務める。

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