免許とヘルメット不要、歩道も走行可--夏から施行の電動キックボード新ルール、メリットや注意点は?

 この夏から、道路の景色が変わりそうです。

 今までの電動キックボードは、モーターのパワーによって原付一種または原付二種の車両区分に割り当てられていました。例えば第一種原動機付自転車扱いとなる、出力0.6kW以下の電動キックボードは、普通の小型スクーターと同じく免許証の所持やヘルメットの装着が必要かつ、車道のみ走ることが可能でした。

 しかし7月1日から電動キックボードに関するルールが緩和され、新たに特定小型原動機付自転車という車両区分が作られます。この新ルールに関してSNSでは喧々諤々(けんけんごうごう)とさまざまな意見が湧き上がっています。具体的な内容を見ていきましょう。

筆者所有の電動キックボード。これは第一種原動機付自転車の車両区分となるもの
筆者所有の電動キックボード。これは第一種原動機付自転車の車両区分となるもの

16歳以上はノーヘル無免許、歩道でも走行可能に

  • 車両サイズ:長さ190cm×幅60cmの内に収まるもの
  • モーター出力:定格0.6kW以下
  • 最高速度:時速20km(最高速度表示灯が点灯)
  • 保安基準:ヘッドライト、テールライト、ウインカー、前後ブレーキ
  • ナンバープレート:必須
  • 自賠責保険:必須

 長さ190cm×幅60cmというのは普通の自転車で定められた専有面積と同じ。バックミラーに関する記述はなく、これも自転車のルールに寄せたものだと考えられます。ここまでは違和感ありません。

 注目するべきは運転する側、人間側のルールです。

  • 運転免許証:不要
  • ヘルメット着用:任意(努力義務)
  • 走行場所:車道、自転車レーン、路側帯
  • 年齢制限:16歳以上

 端的にまとめると、時速20kmでスピードリミッターが効く車両であれば、16歳以上の人はノーヘル無免許運転が可能となるもの。

 さらに以下のルールを満たすものであれば、歩道での走行が可能となります。

  • 最高速度:時速6km(最高速度表示灯が点滅)
  • 走行場所:自転車通行可能な歩道、自転車レーン、路側帯

 いくつかの要素を考察していきましょう。まず車道における時速20kmの最高速度から。

 筆者はアクセル全開で時速40km近くのスピードとなる第一種原動機付自転車扱いの電動キックボードを所持していますが、道交法の制限速度にあわせて時速30kmで走行しているときでもアスファルトのヒビの上を通過するとハンドルがとられる、轍を乗り越えると前輪が軽くウイリーする、雨の日のマンホールは滑る、トラックが真横を通り過ぎたときに吹き付けられる風で姿勢が崩れる…幾度となく身の危険を感じました。

 キックボードは、折りたたんで自動車のラゲッジスペースに載せて運べる、駅の大型コインロッカーに入れられるというサイズ感とすべく、小径ホイールかつショートホイールベースな作りとなっています。路面の状況や風といった外乱の影響を極めて受けやく、バンク角が深くなるとタイヤが路面から離れ、グリップが失われて転倒するモビリティであり、走行安定性はモーターサイクルや自転車ほど追求されていません。そもそも足で蹴って進む人力のキックボードのディメンジョンを活かした乗り物で、基本的にはハイスピード域で走るためのものではないのです。

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 かといって、電動キックボードの実証実験中の制限速度だった時速15kmでの車道の走行には、遅いという印象をいだきました。シティサイクル(ママチャリ)の平均速度といえる速度域ですが、自動車だけではなく、ロードバイクや電動アシスト自転車にも次々と追い抜かされ、しかも舌打ちが聞こえてくることがあるほど邪魔扱いされることが多かったんですね。

 そういった体験のもとで考えると、車道における時速20kmの最高速度は適切なものだと感じます。

 歩道走行に関しても個人的には歓迎です。速度を上げると不安定さが目立つ電動キックボードは、道行く自動車の走行速度が速い幹線道路との相性が極めて悪い乗り物です。一方通行の道から幹線道路に出てしまいUターンできないときは、かなりの覚悟が必要。特に道幅が狭い環七(東京都道318号)に出てしまうと、車両を降りて歩道を押して歩きたくなります。

 こういった局面に出くわしたとき、最高速度がウォーキングと同じくらいの時速6kmであれば歩道が走れるというルールがあることは、安心感を増やしてくれるというもの。なお停車状態でしか走行モードを切り替えられないというルールも英断でしょう。時速20kmで勢いよく歩道に走り込むというのを防げますから。

 保安基準は新規車両の認定を行う際に必須ですし、ナンバープレートおよび自賠責保険が必要という点も異論ないでしょう。運転免許がなくても乗れるモビリティですが、交通違反は取り締まっていくとのことですので。

 懸念となるのが運転免許とヘルメットです。

 運転免許不要で乗れる仕組みのメリットを考えてみました。まず免許を返納した高齢者でも乗れるモビリティとなります。道交法上は歩行者となるシニアカーと同じように扱えるわけですね。

 国際免許証を持たない訪日外国人旅行者も、観光地でレンタルやシェアリングの電動キックボードを使って移動できるため、観光先進国を目指す日本におけるインバウンド対策としても期待できます。

 反面、道交法を学ばずに車道が走れるモビリティを広く解禁していいのかという点は難しいところ。免許制にするとなると運転免許試験所や教習所の整備を行わなくてはならず、多くの時間を必要とするため、できるだけ早い規制緩和を期待する業界団体からの反発もあったのではないだろうかと推察します。

 ヘルメットに関しては、車輪の径が小さく普通の自転車より転倒しやすい乗り物ゆえ個人的には必須だと考えます。24インチのホイールが使われたシティサイクルでは難なく乗り越えられる段差も、電動キックボードでは無理。足首くらいの高さの歩道の段差を乗り越えようとしたら、背負い投げのように勢いよく前転するシーン。SNSでシェアされているのを見たことがある方も多いのではないでしょうか。

 自転車のヘルメット装着が義務化されていないのに、電動キックボードだけ義務化するのはおかしいといった提言がされたのか、それは利用者の安全を守ることにはならないのではないか、という疑問が残ります。ただヘルメット義務化を広く告知するには、これもまた運転免許試験所や教習所の整備と深く関わってくるお話。

 世界中で電動キックボードが注目されている。乗るしかない、このビッグウェーブに――といったトーンで物事が進んだとは考えたくありませんが、そう勘ぐってしまいますね。

 ともあれ前述したように、7月1日から日本の車道で、そして歩道でもノーヘル無免許の電動キックボードが解禁されます。合わせて警察庁が2月18日まで、「『道路交通法施行令の一部を改正する政令案』等に対する意見の募集について」とパブリックコメントを募集しています。電動キックボードを取り巻くルールに疑問を抱いている方は、ぜひ意見を送ってみましょう。

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