Appleの新チップ「M2 Pro」と「M2 Max」は、過去に「M1」シリーズを成功に導いたチップ開発戦略を踏襲している。高効率の基板にさらに多くの回路を集積することで、Appleはまったく新しいチップを開発することなく、M2搭載ラップトップ「MacBook Pro」の大幅な性能向上を実現した。
2020年、AppleはM1搭載ラップトップ「MacBook Air」を発売した。M1は「iPhone」用チップ「A」シリーズの設計をベースに開発された、初のMac用自社製プロセッサーだ。翌2021年の後半には、M1コアを増強した「M1 Pro」と「M1 Max」を搭載したMacBook Proが登場した。そして2022年には、2個のM1 Maxを接続した最上位のM1シリーズチップ「M1 Ultra」がデビューした。
そして今回、Appleは2022年に登場した「M2」シリーズに、MacBook Pro向けの新チップ「M2 Pro」と「M2 Max」を追加した。もし歴史が繰り返すなら、数カ月後にはとてつもなくパワフルな「M2 Ultra」プロセッサーを搭載した、新しいMacBook Proが登場するかもしれない。
M2シリーズのチップは、15カ月前に登場したM1シリーズよりも大幅に高速化している(Geekbenchの測定では20%以上)。約1年前に発売されたM1世代のMacBook Proはともかく、Appleの自社製チップに取って代わられたIntel製のチップを搭載した旧モデルのMacを使っている場合、この処理速度とバッテリー寿命の向上は非常に魅力的だ。
Creative Strategiesのプリンシパルアナリスト、Bem Bajarin氏は米国時間1月17日、「新型Macの登場により、2023年はIntelチップからMシリーズチップへの移行が進むだろう」とツイートした。Creative Strategiesによると、米国ではMac所有者の42%が今もIntel搭載モデルを使っており、世界全体で見れば、その割合はさらに高いとみられるという。
この件についてAppleにコメントを求めたが回答は得られなかった。Intelはコメントを控えた。
M2 ProとM2 Maxは、汎用的な計算処理を行うCPUコアと、画像等の処理を担うGPUコアの設計を改善することで高速化を実現している。新チップはCPUとGPUのコア数が増えたほか、Appleが「Neural Engine」と呼ぶ、人工知能(AI)関連タスクを高速処理するためのコアが、前世代よりも最大40パーセント高速になっている。
CPUのコア数は、M1 Proが構成によって8コアか10コア、M1 Maxが10コアだったの対し、M2 Proは10コアか12コア、M2 Maxは12コアだ。Appleの公表によれば、M2世代では処理速度が20%向上している。
CPUの性能はデバイス全体の動作に関わる。MシリーズのProモデルとMaxモデルはすべて4つの高効率CPUコアを採用し、バッテリー駆動時間を向上させた。残りのCPUコアは負荷の高い作業を処理できる高性能コアだ。Intelも、スマートフォン用に開発されたこの方式を採用している。
ゲームや写真・動画編集などに使用されるGPUのコア数は、M1 Proが14コアか16コア、M1 Maxが24コアか32コアだったのに対し、M2 Proは16コアか19コア、M2 Maxは30コアか38コアだ。Appleの説明によれば、GPUのL2キャッシュも大きくなったことから、M2のGPU性能は30%高速化しているという。
Neural EngineはM1世代でもM2世代でも16コアだが、M2ではAI性能が40%高速化している。AIソフトウェアはまだ登場したばかりだが、AIはAdobeの画像編集アプリケーション「Photoshop」の画像処理をはじめ、重要な作業にも活用されるようになっている。今後活用の場がさらに広がれば、AI性能の重要性は高まっていくだろう。
過去のIntelチップ搭載Macと比べると、M2チップを搭載したことによる高速化は顕著だ。Appleによれば、Intelの「Core i9」プロセッサーを搭載した16インチの旧型MacBook Proと比較すると、M2 Pro搭載MacBook Proはソフトウェアのコンパイルが2.5倍、Photoshopの画像編集が80%高速化している。さらにM2 Max搭載MacBook Proは、M2 Proと比較して最大2倍の速度でビデオをエンコードできる。
M2 Maxの高速化は、毎秒400GBに倍増したユニファイドメモリ帯域幅などによるもので、動画編集や3Dモデリングのようなデータ量の多い作業で威力を発揮する。また、M2 Max搭載の新型MacBook Proは最大96GBのユニファイドメモリを積むことが可能だ(M1 Maxでは64GB)。
この数年間にAppleが開発したすべてのプロセッサーと同じく、M2 ProとM2 Maxは台湾積体電路製造(TSMC)が製造する。
M2 ProとM2 Maxは、M2と同じ第2世代の5nm製造プロセスで作られている(1nmは10億分の1mで、この数字が小さいほど高精度の製造技術が求められる。しかし近年、この数字は便宜上の表現にすぎず、実際に小型化されていることを示すわけではない)。
製造プロセスの改良に伴って、チップの基礎をなす電子部品であるトランジスターの小型化も進んだ(ただ、最近は小型化も難しくなっている)。トランジスターが小さくなったことで、1つのチップに大量のトランジスターを集積し、多くの回路を形成できるようになった。チップに搭載されたトランジスターの数は、M1 Proの337億個からM2 Proでは400億個に、M1 Maxの570億個からM2 Maxでは670億個に増加している。
一方、TSMCは新しい3nm製造プロセスでの量産を開始した。今後、iPhoneや「iPad」、Macに採用されるチップが3nm技術で製造されるようになれば、各チップに集積されるトランジスターの数はさらに増えると期待されている。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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