観光列車の中でワーケーションに挑戦--「WEST EXPRESS 銀河」で紀南から京都へ11時間

 近年の鉄道は、少子高齢化、代替交通機関の整備、そしてコロナ禍でのリモートワークの普及によって、利用者が減少傾向にある。特に地方ローカル線では乗客減が深刻で、毎年のように駅や路線が廃止されているのが現状だ。

 利用者の減少を食い止めるため、一部の鉄道事業者では、「観光列車」を運行している。ただ列車で移動するだけでなく、地域の魅力を伝え、時には沿線観光とも組み合わせることができる、いわば走る観光地だ。グレードはさまざまで、クルーズ客船の列車版と言うべき「クルーズトレイン」や、リーズナブルながら車内で地元名産の食品を提供する列車など、その種類も多彩。「SLやまぐち号」のようなSL列車もこの一つと言えよう。

 筆者は先日、この観光列車の一つである「WEST EXPRESS 銀河」に乗車する機会を得た。そこで考えたのが、「観光列車でワーケーションはできるのか」。

JR西日本の観光列車「WEST EXPRESS 銀河」
JR西日本の観光列車「WEST EXPRESS 銀河」

 移動する列車内でPCを開き仕事する姿はよく見られるが、移動と観光を組み合わせた観光列車と、休暇と仕事を両立させるワーケーションは、実は相性が良いのではないか。もちろん、数日に渡る休暇と、一日限りの列車の乗車は異なるのだが、乗車前後の日も組み合わせれば立派なバケーションになるだろう。

 このような考えから挑戦した、紀伊半島から京都へ向かう観光列車の中でのワーケーションの模様をご紹介しよう。

WEST EXPRESS 銀河とは

 まずは、今回の舞台となるWEST EXPRESS 銀河について説明しよう。

 WEST EXPRESS 銀河は、JR西日本が運行する観光列車だ。西日本エリアのさまざまな路線を走行することが可能で、2020年9月のデビュー以来、京阪神から山陽方面や山陰方面、そして紀南方面などへ、シーズンごとに行先を変えて運転している。他のリーズナブルな観光列車と大きく異なるのは、昼間だけでなく、夜行列車としての運転にも対応していること。そのため、往路は夜行、復路は昼行、というように、時間帯をわけて運転できるのだ。

 車両は6両編成で、グリーン車と普通車、フリースペース車両で構成されているのだが、座席の種類は5つも用意されている。旅の目的に応じて座席を選べるのが魅力だ。

 筆者が今回利用したのは、グリーン車扱いの「ファーストシート」。昼間は定員2人のボックスシートなのだが、背もたれを倒すことで、夜行列車ではベッドとして使用できる。わずか8ボックスのみの設定で、WEST EXPRESS 銀河の座席では一番人気だという。

筆者が利用した「ファーストシート」。こちらは昼間の運転時の状態
筆者が利用した「ファーストシート」。こちらは昼間の運転時の状態
夜行列車としての運転時にはベッドに変身する
夜行列車としての運転時にはベッドに変身する

 グリーン車にはもう一つ、「プレミアルーム」も設定されている。こちらは1人用または複数人用の個室。室内にはソファーが設置されており、ファーストシート同様、夜行列車では背もたれを倒せばベッドに変身する。

個室の「プレミアルーム」
個室の「プレミアルーム」
こちらもソファーがベッドに変身する
こちらもソファーがベッドに変身する

 普通車も、一般的なリクライニングシートのほか、特徴的な設備が用意されている。一つは「クシェット」。かつての「ブルートレイン」のように、二段ベッドが向かい合わせで設置されている。3~4人でのグループ利用に最適だろう。また、2室が設置されている「ファミリーキャビン」は、その名の通り家族向けの半個室。カーペットを広げればベッドとして使用できる。

ベッドのような「クシェット」
ベッドのような「クシェット」
半個室の「ファミリーキャビン」
半個室の「ファミリーキャビン」
オーソドックスなリクライニングシート。普通車だが、居住性はグリーン車並だ
オーソドックスなリクライニングシート。普通車だが、居住性はグリーン車並だ

 フリースペース車両は、1両全体が共用空間だ。ビュッフェスタイルの空間のほか、4人用のボックス席も4つ設置されている。面白いのは、ボックス席のテーブルに、将棋盤やチェス盤など、ボードゲーム用の盤面が埋め込まれていること。現時点では新型コロナウイルス感染拡大防止用の衝立が設置されているが、感染症の心配が無くなった際には、この座席で気分転換のゲームが楽しめそうだ。

フリースペース車両の「遊星」。ここでイベントも開催される
フリースペース車両の「遊星」。ここでイベントも開催される

 このほか、車内には至る所にフリースペースを設置。女性専用座席の設定となっている車両には、女性用更衣室も用意されている。

観光列車で「ワーク」はできるのか

 では、まずはワーケーションの「ワーク」についての実践結果だ。結論から言えば、事務作業などは問題ないものの、ウェブ会議などは困難という結果となった。

 作業環境については、基本はファーストシートを使用した。WEST EXPRESS 銀河では、フリースペースのボックス席を含め、全座席にコンセントが用意されている。そのため、車内で電源の心配は無用だ。加えて、ファーストシートのテーブルは、最大2人での利用を想定しているため大型。PCを広げ、さらにマウスを使用しても、テーブルがグラつくことはなかった。

ファーストシートでの作業は快適
ファーストシートでの作業は快適

 一方、テレワークで必要となることも多いウェブ会議は、車内からの参加は困難だった。今回乗車した紀南コースでは、特に南部において、トンネルの多い区間を走行する。都市部ではトンネル内でも携帯電話が通じるのが一般的だったが、ローカル線では通信環境の整備は進んでいない。そのため、たびたび電波が途絶し、ウェブ会議が都度中断してしまう結果となった。

ウェブ会議は、電波が途切れ途切れとなるため、度々退出することに
ウェブ会議は、電波が途切れ途切れとなるため、度々退出することに

 なお、今回の実験ではスマートフォンのテザリングでPCをネットに接続したが、WEST EXPRESS 銀河では車内Wi-Fiも整備されている。が、こちらも大元は外部との通信に依存している以上、トンネルで途絶するという結果は同じだっただろう。

 トンネルの無い区間ではどうか。電波の心配は無いのだが、今度は車内の騒音の問題が発生する。デビューこそ最近のWEST EXPRESS 銀河だが、車両自体は約40年前に製造されたものを改造している。そのため、モーターは旧型で、低い唸り声を発するのだ。鉄道ファンとしての筆者の心は心地よいと感じていたが、一方で、車内で仕事をしたい筆者としては、ウェブ会議の妨げとなってしまった。

 特別に、他の座席でも実験させてもらった。

 まずはプレミアルームだ。個室であるため、作業環境としては最高……かと思いきや、テーブルの形が三角形のため、PCを置くと不安定になってしまった。車内での仕事を想定しているわけではないので当然だが、やはりこの部屋は、完全な休暇で使用するのが良さそうだ。

「プレミアルーム」のテーブルは三角形。PCでの作業には不向きだ
「プレミアルーム」のテーブルは三角形。PCでの作業には不向きだ

 続いて、ベッドのようなクシェットだ。この部屋の下段は、バリアフリー対応のためか、往年のブルートレインよりも低い位置に設置されている。そのため、ベッドに腰掛けると、まるで体育座りのような体勢となる。グループ利用時なら良さそうだが、PCを広げるには体勢が厳しい。かといって、ベッドに寝転がるのも、作業を進める体勢ではないだろう。

 リクライニングシートはどうか。こちらは大きな問題はない。通常の新幹線や特急列車を想像してもらえば理解しやすいだろう。強いて違いを挙げれば、テーブルが大きめのサイズとなっているので、PC以外にも小物を置くことができそうだった。

 フリースペースも問題ない。先述したように、こちらのボックス席にもコンセントが用意されているので、作業もしやすいだろう。

フリースペース車両のボックス席。壁面にコンセントが設置されている
フリースペース車両のボックス席。壁面にコンセントが設置されている

観光列車で「バケーション」はできるのか

 続いては、観光列車でワーケーションの「バケーション」はできるのか。「観光」と銘打っている列車なので当たり前なのだが、もちろん休暇を満喫できる。

 乗車したWEST EXPRESS 銀河の「紀南コース」は、京都駅と紀伊半島の新宮駅の間を走る列車で、京都発は夜行、新宮発は昼行として運転されている。今回の舞台となったのは、新宮発の列車。10時頃に出発し、京都駅には21時頃に到着するという、約11時間の旅路だ。

 列車は途中の駅で、幾度も停車する。そして、ただ停まるだけでなく、さまざまなイベントも用意されているのだ。

 たとえば串本駅。この駅は本州最南端の駅で、潮岬の最寄り駅でもある。列車の到着にあわせて、駅舎内では販売イベントを開催しており、地元特産品や、本州最南端の訪問証明書、串本町内のロケット射場「スペースポート紀伊」にちなんだグッズが並べられていた。今回は体験できなかったのだが、京都発の夜行列車では、同駅到着時に貸切バスで潮岬へ移動し、日の出を見ることができるという。

本州最南端の駅、串本駅
本州最南端の駅、串本駅
串本駅構内での販売イベント
串本駅構内での販売イベント

 周参見駅では、1時間強の停車時間が設けられ、駅周辺を観光できた。リアス式海岸の山々に囲まれた小さな港町で、少し歩けば、青く美しい海が出迎えてくれる。ここまで来て、と思ってしまうが、駅近くの観光案内所には、電源が整備されたコワーキングスペースが設けられているので、ここでも仕事を進めることは可能だろう。

周参見駅付近の観光協会
周参見駅付近の観光協会
2階には電源環境つきのコワーキングスペースが
2階には電源環境つきのコワーキングスペースが

 車内での楽しみもある。WEST EXPRESS 銀河の乗車プランでは、地元特産品を使用した弁当が配布されるのだ。昼食では、世界初の完全養殖に成功した「近大マグロ」などを使用した「『海と大地と宇宙(そら)の町』串本の恵み」弁当、夕食では串本の梅真鯛や和歌山市の「紀の川漬け」などを使用した「紀州味づくし みくまの弁当」が提供され、車内にいながらして、地元の名物を味わうことができた。

「近大マグロ」などを使用した「『海と大地と宇宙(そら)の町』串本の恵み」弁当
「近大マグロ」などを使用した「『海と大地と宇宙(そら)の町』串本の恵み」弁当
夕食の「紀州味づくし みくまの弁当」
夕食の「紀州味づくし みくまの弁当」

 加えて、車内では地元物産品などの紹介イベントも開催される。今回の乗車で開催されたのは、有田川町のみかん販売会社「みかんの会」による、有田みかん関連商品のイベント。JR西日本によると、沿線地域それぞれをPRするため、運転日によって毎回内容を変えているという。

有田みかん関連商品の販売イベントが開催された
有田みかん関連商品の販売イベントが開催された

 オプショナルツアーの楽しみも紹介しよう。筆者は今回の乗車前に、勝浦漁港でのまぐろのセリ見学ツアーに参加した。セリ自体の見学や解説だけでなく、勝浦漁港が重視しているはえなわ漁法についての解説もあり、理解が深まった。

勝浦漁港でのまぐろのセリ(画像提供:和歌山県漁連勝浦市場)
勝浦漁港でのまぐろのセリ(画像提供:和歌山県漁連勝浦市場)

 はえなわ漁法は、長いロープから釣り糸を垂らし、魚を捉える漁法。2隻の漁船で大きな網を使い魚を獲る巻き網漁法よりは効率が悪いのだが、1匹ずつ吊り上げるため、巻き網漁法のように下部で捕まった魚が潰れる心配が無いのだという。加えて、一本釣りでは吊り上げる際にまぐろが暴れるため肉質が落ちるというが、はえなわ漁法ではその可能性も低いそうだ。潰れたり肉質が落ちた魚は、セリに出さずに捨てられてしまうこともあるといい、これを防ぐことができるはえなわ漁法は、SDGsの観点からも、近年注目されているという。

勝浦漁港の朝焼け
勝浦漁港の朝焼け

 加えて、セリの見学後には、新鮮なまぐろの試食体験も。銀座で注文すれば1貫3000円もするという高級魚だが、これを3貫1000円(ツアー料金への追加代金)で食べられるのであれば、味も値段も大満足だ。

セリ見学ツアーで試食した「まぐろのっけ寿司」
セリ見学ツアーで試食した「まぐろのっけ寿司」

WEST EXPRESS 銀河の乗車方法は

 ここまで紹介してきたWEST EXPRESS 銀河は、現時点では旅行商品としての取り扱いが中心となっている。

 プランは、宿泊つきがWEST EXPRESS 銀河の往復利用、同列車は片道のみで往路または復路は一般特急列車の利用の2つ。1~3月には、リクライニングシート限定で、WEST EXPRESS 銀河片道乗車のみのプランも設定されている。

 最安料金は、WEST EXPRESS 銀河の普通車と特急列車を片道ずつ乗車するプランで、シングルルーム1泊の場合は3万円前後。筆者が今回乗車したファーストシートは3700円の追加で、個室は6800円の追加で、それぞれ利用できる。片道乗車プランは、大人1万7800円、子ども1万3850円。いずれも弁当などは料金に含まれている。

 さらに2月と3月には、一部の列車に限り、ネット予約サービス「e5489」やみどりの窓口でも購入が可能となった。少しでも雰囲気を味わいたい、という場合は、こちらも選択肢に入るだろう。

 列車内でのワーケーションは、一般の列車の場合、よほどの鉄道好きでなければ難しいだろう。だが、このWEST EXPRESS 銀河のような観光列車では、普通なら退屈な移動間でも、くつろぎや楽しみが提供される。時には電波がなくなるという厳しい環境ではあるが、挑戦してみてはいかがだろうか。

(取材協力:JR西日本)

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