仮想通貨やメタバースでの関心の高まりにあわせて、ブロックチェーン技術を活用したゲーム「ブロックチェーンゲーム」にも注目が集まっている。
ブロックチェーン技術を応用しゲーム内アイテムや通貨をデジタル資産として流通させられるようになることで、他のユーザーとゲーム内資産をトレードしたり、現金化したり、複数のゲームで共用できるようになるなど、新たな遊び方の可能性があるとされている。近年では、国内の大手ゲームメーカーによる参入や開発の表明も相次いでいる。
ゲームやメタバースなどの事業を行っているグリーも、9月27日付けでWeb3事業に参入を表明。子会社のREALITYを通じて、ブロックチェーンゲームの開発およびパブリッシングを行うという。その背景や狙い、Web3にまつわることも含めて、Web3事業の責任者であるREALITY代表のDJ RIO氏(※グリー取締役 上級執行役員兼REALITY 代表取締役社長の荒木英士氏)に聞いた。
――まずWeb3全般に関することとして、RIOさんから見て、Web3が浸透することによる有用性は、どういったところにあると思いますか。
今の状況はインターネット登場初期や黎明期に、世の中がどう良くなるか、ということに似ており、まず新しいアセットクラスの活用によって、金融の民主化が促進されると考えられます。
ほかにも、インターネットにはたくさんのプロダクトやサービスがありますけど、ほどんどにおいて、その商品を作って売る人と、それを買う消費者に分かれてしまいます。でも、Web3の根本にあるブロックチェーンのトークンの仕組みというのは、自分の好きなサービスや商品に対して、自分も直接トークンを購入することで投資できるようになるということです。
さらに、ただお金を出すだけではなく、コミュニティ活動に対してコミュニティマネージャーとして管理をボランティアで手伝うとか、アンバサダーみたいな感じで、より深く入り込むことができるようになる。自分が好きな商品やサービスについて、誰でも運営の一員になれるということもひとつの価値だと考えています。
何か便利になるとか、できなかったことができるようになるというよりも、自分が応援したいと思っているものの価値が上がるように、自らの手で直接貢献できるチャンスがより開かれるようになるということですね。社会活動に対してより積極的に関与するやり方が増える。デジタルで開かれたことに大きな価値が出てくると考えています。
――こうしたWeb3の有用性を実感できるのは、どのぐらい先だと考えますか。
すでにその価値を見出している方、恩恵を受けている方もいらっしゃいますし、熱狂している方も増えています。でも、インターネットがそうだったように、本当の意味での社会変化は、こうしたインフラがある程度浸透して、そのうえでサービスが作られて、そのサービスを使う人によって新たな仕事が生まれて、その仕事がベースになって新たなサービスが生まれる……というサイクルが何回転かしないと出てこないです。それゆえに、まだ見つかってないものもたくさんあると思いますし、可能性が広がっていると言えます。
今でもインターネットを通じて、何かを便利にするとか、コンテンツが早く手に入るという利便性は提供できていますが、サービス提供者の一員になれるとか、ユーザーと運営側で利害が一致できるとか、あるいはベンチャーキャピタルや銀行に頼らず、同人サークルぐらいの規模で、コミュニティから直接資金調達をしてプロダクトを作り始めることができるといった、経済活動やお金が絡む部分でのイノベーションはあまり起きなかったと思います。このようなことができるようになることが、Web3やブロックチェーンの浸透によって可能になると思います。
――では改めて、グリーがWeb3事業に参入を発表した経緯や狙いを教えてください。
2021年のインタビューから1年ほど経過していますので、まずWeb3事業に絡むメタバース事業の進捗からお話します。
REALITYでは、スマートフォン向けメタバース「REALITY」を展開しており、着々とユーザー数が伸びて、アクティブユーザーも高い水準を維持しています。10月20日には、全世界でダウンロード数が1000万を突破したことも発表しました。前のインタビューでも海外からのユーザーが多いというお話をしましたけど、今ですと、北米やアジアを中心にユーザーが多く存在する国が広がってきているという印象があります。
プロダクトとしても「ワールド機能」と呼んでいる、3D空間のなかでユーザー同士で触れ合ったり、一緒にゲームなどで遊んだりできる機能を強化してきました。ほかにもアバターを通じてのビデオ通話やテキストチャットといったリアルタイムコミュニケーションなど、ライブ配信以外のコミュニケーションも楽しめるような機能拡充が進んでいます。
さらにアプリ「REALITY」のダウンロード数が伸びてきていますので、人がいるメタバースというポジションを活かして、「REALITY XR cloud」というブランドで法人向けソリューションの提供も行っています。2022年に入ってからは採用事例も増えています。こうしたところが、ここ1年での進捗になります。
そんなメタバース事業を展開しているなかでWeb3事業を始めるわけですが、まずメタバースというのは、オンラインでのデジタル空間上でさまざまな社会生活を営めるようになるという、もうひとつの現実という考えでいます。REALITYについても、もうひとつの現実を作るというコンセプトですし、このようなものを作っていくというビジョンは変わってません。
REALITYをメタバース事業として再定義するとき、主な要素のひとつとしてクリエーターエコノミーを挙げました。もうひとつの現実と言っている以上は、そこでの活動を通じてお金を稼ぐこともできたり、なんらかの経済活動を行うことで、本当の意味で生きていくことができるのが、非常に大事な要素です。この考えも変わってません。
これを前提に考えたとき、暗号資産やNFT、それをとりまくエコシステムは、デジタルネイティブな通貨であり、金融でもあります。基軸通貨である円やドルがからむ、さまざまな手間や手数料、使いにくさといったものをスキップできる新しいアプローチだと感じています。
このデジタルネイティブな通貨であり、経済システムでもあるクリプトの世界を、自分たちでも使いこなせるようになる必要があります。そして将来的には、メタバースの一部として取り込んでいくことは非常に重要なことと捉えています。そのためには、早い段階から立ち上げていくのが大事、というのがWeb3事業参入の背景です。
――Web3事業は、アプリ「REALITY」を通して展開しているメタバース事業の延長にあるものなのでしょうか。
将来的には、組み込まれて一体化していくことを期待しています。ただスタート段階では、アプリ「REALITY」と分けたものとして展開します。Web3の世界は日進月歩で進んでいますが、現時点においてアプリ「REALITY」のユーザー属性と、NFTやブロックチェーンゲームを楽しんでいるユーザー属性は、結構違うものと捉えています。
最初からブロックチェーンゲームネイティブとして、コミュニティやプラットフォームを作り上げることはできますが、現状のアプリ「REALITY」ユーザー全員が使うわけではないというところで、そこに混ぜて展開していくのは、技術であったり、ユーザーの慣れというところでも難しいと考えています。なので、今のアプリ「REALITY」のプロダクトとして組み込むことは、現時点で予定していません。
――Web3事業の参入発表では、具体的にブロックチェーンゲームの開発とパブリッシングを行うとあります。
発表の通り、直近ではブロックチェーンゲームの開発とともに、ブロックチェーンのバリデータの運営にも取り組みます。
ブロックチェーンゲームについては、これまでグリーが培ってきたゲーム制作力とともに、ゲームユーザーのコミュニティを作り、そのユーザーと対話をしながら盛り上げていくことが大事だと考えています。
グリーとしては、フリー・トゥ・プレイ(F2P)のゲームを長年制作しています。F2Pのゲームは、ゲーム内における通貨を発行して、その通貨の供給と需要のバランスをコントロールしながら、ゲームのなかで上手く循環させていくものです。このあたりのノウハウは、ブロックチェーンの運用で求められるものに近いと捉えていて、これを活かして新しい世代のゲーム体験を作ることができると考えてます。
加えて、ブロックチェーンにおけるキラーアプリとなるのはゲームだと考えていますので、ブロックチェーンゲームに取り組むということですね。
バリデータの運営についてですけども、そもそもブロックチェーンのバリデータというのは、イーサリアムなどさまざまなブロックチェーンがあるなかで、そのネットワークを構成するノードのことで、分散運営されているものです。一般的な運営主体がサーバーを持っていて、そこが全部を運営しているものではなく、さまざまな企業や団体がノードを持って、それぞれ分散的に運営するものです。
ブロックチェーンのような新しい技術を競争力として転換していくには、ある程度低いレイヤーからテクノロジーをわかっていたほうがいいです。そして、それにはブロックチェーンそのものの運営を担うことが、技術的な習得も速く良いと考えています。
ブロックチェーンの世界でいろんなサービスがリリースされていますが、1社提供ではなくみんなで連携しながら進めていくのがコンセプトです。例えば、グリーはゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」の初期バリデーターに参画しています。「Oasys」内のゲームコミュニティでは、弊社以外のバリデーターとして参画した20社とも連携しながら、Oasysチェーン上でのゲーム開発に取り組んでいます。既存のブロックチェーンにおけるエコシステムに、どうやって自分たちが貢献していくかが、すごく大事になります。
時代の潮流に乗って、自分たちのところで売り上げを稼ごうとする一方的な立ち位置ではなく、既存のプロジェクトや、エコシステムに貢献しながら自分たちの事業価値を高めていくこと。相互扶助のようにお互いが貢献しあうことが、Web3の価値だと考えています。
グリーグループとして大規模インフラの運用実績がありますので、Web3参入により新しいインフラであるブロックチェーンの運営そのものを行いながら、ネットワークパフォーマンスの向上や冗長性などに対して貢献していくことは価値がありますし、長期的には貢献したことが何らかの形で返ってくることもあると期待しています。
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