ブロックチェーンゲームで生み出される外側の面白さ--グリーのWeb3事業参入の狙いを聞く - (page 2)

ゲームの外側で生まれるブロックチェーンゲームの面白さ

――Web3事業参入の経緯や狙いを伺いましたが、Web3の今後の可能性として「エンタメの楽しさ」という点で変化が起きる可能性はありますか。

 これは「あります」とハッキリ言えます。REALITYでも、ここ数年VTuberの事業を展開していまして、ブロックチェーンは使っていませんけど、コンセプトとして似ているところはあります。昨今VTuberが人気を獲得していることについていろいろな要素がありますが、大きな要因として、リアルタイムで関与できるエンターテインメントだからだと感じています。

 ライブ配信にリアルタイムで参加して、VTuberとコメントなどで相互にコミュニケーションをとることができます。そして、無名のVTuberが徐々に人気を獲得していって、グッズを販売したり、テレビやライブに出るようになるというような、活躍の場が広がって有名になっていくストーリーを一緒に、リアルタイムに伴走しながら楽しめるというところです。

 この「参加できる」ということが、エンタメとして新しいことだと捉えています。

 Web3も似ているところがあって、エンタメとして作り出されているキャラクターやイラスト、アニメやゲームなどといった、アウトプットされる成果物に対して、その制作過程や、ゼロから生み出される制作過程に自分も参加できます。なんらかの役割を担えたり、純粋に投資するという行為によって応援するなど、関わり方はいろいろですが、エンタメを作る過程、人気になっていく過程に関わることができるというのが、最大のイノベーションになるのかなと思います。

――ブロックチェーン技術とゲームの掛け合わせによって生み出される面白さは、どこにありますか。

 逆説的になるのですけど、ゲームプレイの中身そのものが、ブロックチェーンによって何かが変わるというということではなくて、ゲームの外側に生まれます。

 ゲームといってもさまざまなジャンルがありますが、本質的なものは変わりません。何が変わるかというと、ゲームが人気になっていく過程で、役割を担えるということですね。あとはギルドと呼ばれるような、そのゲームで遊ぶ人たち同士で集まって、協力しながら大会を主催したりするとかですね。

 あとはシンプルにアイテムの売り買いが楽しいというのもあるでしょう。自分の育てたキャラクターや集めたアイテムを、二次流通マーケットで売ったり買ったりすることで、ゲームをプレイする楽しみや意欲が沸く方もいれば、単にコレクションしたいだけの人もいるかもしれないし、ちゃんと価値をあげて売ることで、利益を生み出すことにゲーム性を感じる方もいるかと。

 ゲームの外側に楽しめる要素が増えたこと、そのうえで経済的なメリットにも直結したものなので、より真剣にやる方が増えているというのが、ブロックチェーンゲームの新しいところと考えています。

――ゲームの外側での楽しさや盛り上がりを含めて、エンタメとしての面白さが生まれるということですね。

 イメージでいうと、eスポーツに似ているところがあると思います。例えば、人気となっている対戦格闘ゲームシリーズはいくつかありますが、続編が出るごとにキャラや技が増えてシステムも新しいものも取り入れられますが、本質的なゲームの中身はそのシリーズで大きく変わってないです。でもこの10年で何が大きく変わったかというと、eスポーツという産業が出現したことが違いのひとつになります。

 これによってゲームの上手い方がプロを目指すというビジョンを持てるようになりましたし、プレーヤーが大会で勝ち上がっていくような成長過程も楽しめるようになりました。そういったプレーヤーがストリーマーとして配信を行っていて、ファンが視聴したりコミュニケーションを楽しんだり、大会は現地なり配信で観戦します。

 これらは、全部ゲームの外で起きていることですし、それを含めてエンタメの面白さと言えるでしょう。ブロックチェーンゲームも、ゲームそのものに対して何かが大きく変わるというよりも、それを取り巻く周辺で、今までになかった楽しさが出てくると思います。

育てたキャラやアイテムを売って、次のゲームの軍資金に当てられるメリット

――現状のオンラインゲームは、サービス終了となると全てのデータは消滅しますが、ブロックチェーンゲームはユーザーの資産として残ることがメリットとも言われています。

 これはきちんと理解しておかないといけないところなのですけど、現状において、その言葉通りに受け取るのは誤解を招くと感じてます。極端な言い方をすると、7割ぐらいは嘘だろう、と私は捉えています。

 ゲーム内アイテムがブロックチェーン技術によってトークンとして発行されたとして、そのゲームがサービス終了しても、自分のデータとして残るかもしれない、というのは条件付きでイエスではあります。ですが、今のブロックチェーンゲームのほとんどについて、NFTはあくまで所有権の情報しか持っていません。グラフィックやパラメーター、アイテムを持っていることによって得られるメリットは、全てゲームのなかにあるんです。

 結局、ゲームがサービス終了したら、このキャラやアイテムはあなたが持っていたという記録自体はブロックチェーン上に残るかもしれないですけど、それに何の価値があるかというと、ほとんどないと言っていいでしょう。実際ゲームアイテムの価値はゲームが与えているものですから、ゲームが終了したら資産としての価値は無くなるものと考えるのが適切と、私は思います。

――あくまでゲームがアクティブに運営されているからこそ、価値があるということですね。

 そう考えています。だからこそ別の考え方をすることができます。それは、ゲーム運営が終了していなくても、もう十分プレイしたと感じたときに、それまで課金したり、時間をかけて育ててきたキャラクターなり集めたアイテムを売って、次のゲームを楽しむためのお金にあてることができる、という考え方です。これはすごく大きな価値だと思っています。自分が費やした時間やお金が戻ってくるかもしれないという可能性があることは、新しいゲームを楽しむための障壁が下がる一面もありますから。

 特にモバイルゲームは、いくつかの大手タイトル以外は新規参入しにくい状況があります。大手ゲームがたくさんユーザーを抱えて課金も多いと、ユーザーも新しいゲームを遊ぶ障壁というのが上がり続けます。それゆえ、新しいゲームの芽も出にくい状況があります。ブロックチェーンゲームであれば、自分が育てたキャラや集めたアイテムを売って引退して、次のゲームの軍資金に当てられますから。これはユーザーにとってもデベロッパーにとってもいいことになります。

――そもそものところになりますけど、国内のモバイルゲームは、現状ほとんどにおいてリアルマネートレード(RMT)を規約で禁止していますが、ブロックチェーン技術を活用するとやりやすくなると。

 ブロックチェーン技術の活用で、KYC(本人確認)や資金の流れについてトラッキングできれば諸問題をクリアしやすくなりますし、実際に今あるブロックチェーンゲームは、すでにRMTができる状態にありますので。

――他にもメリットとなるものはありますか。

 今後出てくるであろうと思われるのは、ある育成ゲームで育てたキャラクターを、別のゲーム内資産として扱うことができるというものです。あるゲームをとてもやりこんでいる方は、別のゲームでスタートダッシュを決められるとかですね。それを、同じ会社ではなく違う会社が開発したゲームでもやりやすくなります。

 NFTアートの「クリプトパンクス」のようなコレクションNFTもありますけど、これを持っている方は、ゲームをスタートするときに、ゲーム内キャラクターを最初から持っている状態にできるというのも可能になります。これはブロックチェーンゲームじゃないとできなかったことで、ほかのゲームからまたがるデータの活用であったり、すでに存在しているユーザーの資産を活用して、新しいゲームを立ち上げることができるようになる、というのが大きいと思います。

――クリエーターエコノミーの観点でのメリットは、どういうところにあると考えていますか。

 クリエーターに対するメリットも大きいです。すでに知られているところもありますが、NFTアートのコレクションについて、二次流通された時にオリジナルのクリエーターに何パーセントかが支払われるというのが、プログラム上でハードコーディングできるようになっています。二次流通が盛り上がれば盛り上がるほど、オリジナルのクリエーターに収益還元されるというのは、今まではできなかった大きなメリットだと思います。

 また、技術というよりは商習慣の話になりますが、個人のゲームクリエーターに対して、報酬をレベニューシェアで支払われるケースはあまりなかったと思います。ブロックチェーンゲームについて、ゲームが発行するトークンを株、ゲームタイトルを株式会社とイメージしてほしいのですけど、タイトルごとに開発者やクリエーターに対してトークンを割り当てて、ゲームが盛り上がることによって、そのトークンが値上がりすれば、大きなリターンとなって返ってくるという、利害が一致するものができます。

 個人に対して売り上げをパーセンテージにして支払うのは、これまでもやろうと思えばできるものですが、会計上での手間が膨大になるというのと、商習慣としてもなかったことです。ブロックチェーンだと技術的にもできるようになるし、クリエーターファーストなカルチャーとして、一般的になっていくということは大きなメリットになるかと思います。

――ブロックチェーンゲームのユーザーが増えている一方で、暗号資産に関わるところがあるなど、まだ身近なものとは感じにくいところがあります。これが広がっていくには、どのようなキーポイントがありますか。

 シンプルにゲームとして面白いものが出てきて、流行っていく状態を作ることですね。半年ごとに大きなタイトルが出てきている状態ですし、「STEPN」(※歩いたり走ったりすることで仮想通貨を得ることができる「Move to Earn」というジャンルのNFTゲーム)は日本でもユーザー層を広げました。さらに支持を受けるブロックチェーンゲームもこれからきっと出てくるでしょう。徐々に増えていって、気が付いたら最近利用している人が多くなって一般化していくと思います。

――ブロックチェーンゲーム、ひいてはWeb3事業としての展望や未来像はありますか。

 まずは面白いゲームを作ること。コミュニティを巻き込みながら、コミュニティとともに育っていくゲームを作ること。さらに経済運営がきちんとできること。ハイパーインフレにもならないサステナブルな経済圏を作ること。このあたりはグリーとしてのノウハウが生きるところですし、そこを真面目にやっていきます。面白いゲームで経済もまわっていて、生活に根付くようなゲームを作ることができれば、新しいブロックチェーンゲームも広がっていくものだと思います。

 Web3事業の求人も行っていますが、必ずしもブロックチェーン技術が得意でなくても、ゲームを作るのが得意な方や、新しい技術を扱うことに意欲がある方を求めてますし、いいゲームが作れる人材と、新しい技術が得意な人材のカルチャーを上手く混ぜながら、新しい時代のゲーム開発組織を作っていきたいと思います。

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