NECやトヨタら大手8社が結集--日の丸半導体企業「Rapidus」は日本の競争力を取り戻せるか - (page 2)

重要なのは、グローバルに顧客を獲得すること

 しかし、筆者の個人的な見解だが、それ自体はお金と時間をかければ解決可能な問題だと思う。特にLSTCには米国政府が協力するという形になっており、足りない技術は米国から買ってくることも可能だろう。技術的なすりあわせも、時間をかければ最終的には実現できると思う。

 そもそも、日本には依然として最先端半導体の基礎技術がある。特に素材に関しては、日本勢が多くの分野でトップシェアを得ている。前工程のウエハーに関しては信越化学とSUMCOの2社でシェアの過半を抑えているし、後工程では昭和電工と旧日立化成が合併して2023年1月から新社名「レゾナック(Resonac)」になる新会社が圧倒的なナンバーワンだ。それらの素材メーカーと協力できる地の利を考えると、時間をかければ決して不可能ではないだろう。

 問題は、その開発したプロセスノードや、それを渡されたRapidusが提供するファンダリサービスが、競合(TSMC、Samsung、Intel)に比べて競争力があるかどうかだ。ファンダリの工場を利用して半導体を生産するファブレス半導体メーカーにとってはファンダリのプロセスノードのパフォーマンス、そして製造コストの二つが何よりも重要だからだ。

 現代のファンダリのプロセスノードの性能面での王者はTSMCだとされている。AppleのAシリーズ(スマートフォン向け)、Mシリーズ(PC向け)のいずれの製品もTSMCの最先端プロセスノード(4nm)で製造されており、それが理由で他社を引き離す性能を実現されていると業界では理解されている。そうしたことを象徴するのが、スマートフォン市場でAppleと競合関係にあるQualcommの動向だ。

 Qualcommは先週開催したSnapdragon Summitにおいて、AppleのA16 Bionic(iPhone 14シリーズに採用されているSoC)に対抗するSnapdragon 8 Gen 2を発表したが、同時にプロセスノードをTSMCの4nmに変更したことを明らかにしている。

 Qualcommの一つ前の世代となるSnapdragon 8 Gen 1はSamsungの4nmで製造されており、同じ4nm世代で異例のファンダリ変更は、それだけTSMCの4nmノードに性能的なメリットがあると想像することは容易だ。それぐらい、最先端プロセスノードではちょっとの差であっても少しでも強力なものが欲しい、それがファブレスの半導体メーカーの偽らざる本音だ。

 そうした時にRapidusが、競争力のあるプロセスノードを開発し、かつそれを競合と少なくとも同時期に、できれば少しでも早く導入できるかどうか、そこが最大の問題だ。仮にRapidusの2nmのラインがそれらの競合から数年遅れで導入された場合、すでに競争力がなくなってしまっている可能性があり、ファブレスの半導体メーカーは他の三つの選択肢(TSMC、Samsung、Intel)の中から選び、Rapidusが選ばれることはなくなってしまうからだ。

 ある程度は日本国内の需要(出資者でもあるトヨタ自動車やデンソー、NTTなど)でラインを埋められるとしても、ファンダリ間の競争は熾烈だ。そこに割って入るにはそれなりの覚悟が必要になる。

半導体製造は限りなく「ギャンブル」--理解した上で成功するまで続けること

 もう一つ指摘しておかないといけないのは、最先端プロセスノード開発やファンダリ工場の建設には、それこそ巨額のコストがかかり、それを回収するには長い時間がかかるし、最悪の場合回収できないかもしれないという事実だ。

 プロセスノードの開発費に関しては具体的な例はないのだが、ファンダリ工場の建設という観点で言うと、Intelが2024年の生産開始を目指してアリゾナ州に建設しているFab 52とFab 62の建設費用は200億ドル(日本円で約2兆8千億円)が見込まれており、工場だけでもそれだけの巨額の投資が必要になる。

 経産省は本年度の予算として700億円を計上しており、それを利用してLSTCとRapidusが基礎開発を行なう。一民間企業でそれだけの巨額の予算を費やすことができるような半導体メーカーが見当たらない以上、政府が「鶏と卵」の鶏を作り出すために予算をつけたことは正しいと言える。それが起爆剤となって、卵が生まれ、卵がかえって鶏になるということを繰り返していくのが半導体ビジネスであることを考えれば、まずはその第一歩と言える。しかし、工場の建設までを考慮に入れれば、その予算では桁が二つ足りないということはでき、今後も継続して予算をつけていくことが必要なのは明らかだ。

 そうして巨額の投資を行なって工場を建設したとしても、前述の通りファブレス半導体メーカーに他の3社から乗り換えてもらわない限りは、ラインが埋まらないという事態が発生することになる。その結果は、半導体の生産でなく、赤字の生産になり、会社として成り立たなくなる、そんな最悪のストーリーも考えられるのが半導体製造のビジネスだ。

 実際、日本は過去にそうした形でエルピーダ・メモリを失っている。エルピーダ・メモリは新しい工場の建設などを行なったが、メモリ市場の競争が激しくなり、最後は補助金漬けになってしまい、補助金なくして成り立たないという状況に陥ってしまった。結局政府が補助金を打ち切ったことが引き金の一つとなり、倒産にいたってしまったのだ(その後Micron Technologyに買収され、今はMicronの一部として運営されている)。市場のニーズを適当なコストで満たせない限りは、最悪倒産に至るのが半導体製造ビジネスであり、そういう「ギャンブル」性が本質だとも言える。

 その意味で、経産省にも、そして出資者である日本の産業界にも、「ギャンブル」であることを理解した上で、今後も継続して多額の投資を行なうことが何よりも大事だと筆者は思う。その胆力を今後も経産省や日本の産業界が持ち続けられるかどうかが、Rapidusを成功に導く上で重要になるだろう。

 最初のプロセスノード(2nm)では競合よりも後に投入する可能性が高い状況では、あまり海外からの顧客は呼べないかもしれず、採算レベルに乗らない可能性すらあるが、それも勉強代と割り切って投資を続けて成功するまで前に進む、その意思を長期間維持することが何よりも重要になるだろう。

 その意味で、いばらの道であることをわかっていながら最初の一歩を踏み出そうとしている経産省やRapidusにはエールを送り、成功してほしいと心の底から願っている。

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