半導体の逼迫(ひっぱく)が世界的に叫ばれ、特に我が国の基幹産業の1つである自動車産業にもその影響が及んでいることから、社会的に大きな注目を集め始めている。
半導体の逼迫そのものは、これまでIT産業では何度も経験してきた「恒例行事」のようなもので、PCやスマートフォンなどの需要が高まると、それに利用されている半導体の需要が高まる。半導体メーカーがそれに併せて増産すると、今度は供給過多になり、供給価格の下落を招き、今度は半導体メーカーが減産。すると今度はまた需要が高まる……そうしたスパイラルを繰り返してきたのが過去数十年の半導体産業の歴史だ。
しかし、そうした影響はPCやスマートフォンといったIT機器への影響が中心で、自動車やヘルスケア機器といったこれまでITとは無縁だったような機器も半導体逼迫の影響を受けていると大きく報道されている。これはどういうことなのだろうか?
私事になるが、まもなく秋に16年乗ってきた自動車が車検を迎えることになり、いいタイミングだと思い、自動車を買い換えることにした。購入する車両にも目星をつけてディーラーに行き、見積もりなど条件を出してもらい、いざ契約という段階でディーラーの担当が「実は納期は今から発注して概ね3カ月になる」と意外なことを言われたのだ。
筆者が購入しようとしている自動車は、国産メーカーの一番売れ筋の車両で、実は現在乗っている3代後の後継車なのだが、16年前に買ったときには1カ月で納車だったので、3カ月と言われて正直驚いた。
そんな人気が出ているのかと思い、担当に「なぜ?」と問いかけてみると、返ってきた答えは「半導体の供給が追いついていないので、全体的に納期が延びている」というものだった。
もちろん、筆者の仕事は半導体関連やITを取材して記事を書く仕事なので、半導体需要の逼迫が自動車の生産に影響を与えていることは知っていたが、「こんなところにまで影響が」とびっくりしたというのが正直な感想だ。
だが、そうしたことが起きているのは自動車だけではない。実はいろいろなところでそうしたことは起きており、医療機器やネットワーク機器、そして半導体を使った製品の本家本元といえるPCでも数年前から部材の供給が綱渡りという状況が続いている。
なぜそうしたことが発生しているのかと言えば、今や半導体は、PCやスマートフォンのようなIT機器だけでなく、さまざまな民生機に採用されているからだ。
その代表例はIoT(Internet of Things)と呼ばれるインターネットへのアクセス機能を持つ民生機だろう。テレビやHDDレコーダーなどは中身がほとんどPCみたいなものだし、医療機器なども半導体が使われることが当たり前になっている。そうしたことにより、世界中で半導体を必要とする製品が増えていることが、今回の半導体需要が逼迫している背景にあるのだ。
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