この記事をスマートフォン(またはタブレットやノートPC)で読んでいるなら、その手の中には、世界中の鉱山から掘り出された貴重な地殻のかけらが握られていることになる。
例えば、「iPhone」には数十の化学元素が使われているとされ、その中にはアルミニウムや銅、リチウム、銀、さらには金など、よく知られた金属が含まれる。だが、それだけではない。ほかにもレアアース(希土類元素)と呼ばれる多くの金属が、iPhoneの内部に収まっている。これらは一般になじみは薄いが、幅広い技術や再生可能エネルギーに利用され珍重されている素材だ。
世界中の多くの人が日々、レアアースを利用しているが、一般的な家電製品の中にひっそりと使われているため、その事実を知ることさえない。iPhoneユーザーであれば、ランタンと呼ばれるレアアースが、画面の色を鮮やかにし、ネオジムやジスプロシウムがデバイスの振動に役立っている。また、電気自動車の動力を生み出す磁石にも、ネオジムのようなレアアースが多く用いられている。
しかし専門家は、世界がより環境に優しい経済へと移行するのに伴い、スマートフォンをはじめとする電子製品の製造に必要なこれらの希少金属が不足する恐れがあると警告する。これらの替えのきかない金属は、グリーンシフトを加速するための重要なピースだ。不足すると、2100年までに世界の平均気温が産業革命前の水準から1.5度上昇するのを防ぐ気候目標を達成する妨げになりかない。1.5度の上昇は、温暖化が地球に深刻な影響を及ぼすかどうかの重要な転換点だ。
研究者たちは、レアアースがあらゆる種類の電子製品に使われているにもかかわらず、特にスマートフォンがその枯渇を助長しているとして警鐘を鳴らしている。
「スマートフォンに注目するのは、ほとんど誰もが所有しており、無駄使いと元素の枯渇につながる大きな問題をもたらしているからだ」と、欧州化学会(EuChemS)のバイスプレジデントで、セント・アンドリューズ大学の化学名誉教授のDavid Cole-Hamilton氏は話す。
EuChemSは11月3日付けのプレスリリースで、7種の元素(炭素、イットリウム、ガリウム、ヒ素、銀、インジウム、タンタル)がスマートフォンに持続不可能なかたちで使われることにより、今後100年で深刻なリスクがもたらされると述べた。
「世界のすべてのものが、たった90の構成要素、90種類の天然の化学元素でできているのは驚くべきことだ」とCole-Hamilton氏は過去に述べていた。
原材料の供給が持続不可能であるにもかかわらず、毎日多くのiPhoneが販売されており、Appleを象徴するこの製品の魅力が衰える気配はまったくない。Appleの2022年第4四半期決算(9月24日締め)によれば、iPhoneは426億ドルの売り上げをもたらし、Apple全体の売上高901億ドルの半分近くを占めるなど、過去最高の成功を収めている。
しかし、環境保護主義者は、スマートフォンを毎年アップグレードする必要性に疑問を呈している。希少な原材料の採掘に伴って汚染物質が流出したり、炭素が大気中に放出されたりするといった環境コストがかかるからだ。
一般的なスマートフォンから排出される炭素の量は、その大半がライフサイクルの初期段階、つまり製造過程で発生する。「iPhone 14 Pro」を例に取ってみよう、Appleによれば、iPhoneのライフサイクル全体で65~116kgの二酸化炭素(CO2)が排出されるが、その81%に当たる53~94kgが製造過程で発生する。この過程には、すべての部品の製造、輸送、組み立て、および製品のパッケージングだけでなく、原材料の採掘、生産、輸送も含まれるという。
つまり、製造プロセスがiPhoneのライフサイクルで最も多く炭素を排出する段階と言える。そのせいで、製品の利用、輸送、廃棄といった残りの段階で排出される炭素の量が少なく思えてしまうが、それらが環境に与える影響はやはり大きい。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス