あらゆる産業でDXやデジタル化が叫ばれるなか、食という領域においてもそうした動きは近年ますます活発になってきている。朝日インタラクティブが主催したイベント「CNET Japan FoodTech Festival 2022 日本の食産業に新風をおこすフードテックの先駆者たち」に愛媛県が登壇した。新たに立ち上がったフードテックの取り組みに関するセッションの内容を紹介する。
四国最大の人口と、日本有数の観光名所を抱える愛媛県。同県では今、フードテックやそれにつながる新たな動きが続々と見え始めている。そのきっかけの1つは、2021年12月に発足した愛媛県独自の取り組みとなる「Ehime Food Innovation(EFI)コンソーシアム」だ。愛媛県 経営支援課 地域産業係長の田窪直文氏は、愛媛県の優れた産業をバックグラウンドに他地域とのさらなる差別化、地域経済の活性化を図るべく、国の補助金も活用しながら3年間約1億5000万円の予算で食のイノベーション事業として同コンソーシアムを立ち上げた、と語る。その目的は「フードテックを活用したイノベーション創出とそれに必要な人材育成・マッチングを行う」というものだ。
昨今は世界人口の増加による海外での需要の高まりや紛争によって食糧の供給不足が懸念されており、一方で日本においては人口の減少による国内マーケットの縮小が見込まれ、今後食糧問題がますます深刻化する可能性が高まっている。しかしながら、バイオサイエンスやロボットなどの技術によって新食材の開発、人材不足対策が可能になり、AI/IoTといったテクノロジーの活用で生産の効率化も可能になってきているところ。
製紙、造船、タオル等の製織をはじめとする工業に加え、みかんの栽培、魚介の養殖など、農業・水産業が盛んな愛媛県は、EFIコンソーシアムを通じてそれら新しいテクノロジーと既存の技術・資源を掛け合わせることで、日本の食における課題の解決につなげようとしているわけだ。
EFIコンソーシアムの具体的な活動内容は、フードテックに関連する情報の発信、専門家を招いた勉強会、会員同士の交流イベントの開催のほか、スマート養殖・農業、機能性食品、食品機械といったような将来性の高い分野に対する支援、県内企業と大企業が技術面でコラボレーションして新規事業創出を目指す取り組みなど、幅広い。
すでにソフトバンクとは、県内の養殖事業者とともに、養殖用飼料の削減、天然資源に依存しない代替飼料の開発を目的としたスマート養殖プロジェクトがスタートしている。飼料に従来の魚粉ではなく植物性原料を使用したり、AIによって餌やりのタイミング・方法などを最適化したり、といった生産管理の新たな手法にトライしているという。他にも、小麦の代替となる県内産の「はだか麦」を活用した代替食の開発、ドローンを使った生産の効率化なども計画しているところだ。
こうしたEFIコンソーシアムの活動を通じてテクノロジー活用を広げている1社が、みかん・柑橘類の生産・加工・販売事業を行うミヤモトオレンジガーデン。全国有数のみかん産地として知られる愛媛県だが、そのなかでも屈指の栽培好適地である西宇和川上地区にある同社は、4.8ヘクタールのみかん畑で愛媛県オリジナル品種の「媛小春」(ひめこはる)をはじめとする28品種を栽培している。加えて、みかんを使用した調味料「塩みかん」などのユニークな加工商品の製造・販売も行っているほか、地元高校生のアイデアで、地元漁協でとれた真鯛と塩みかんを組み合わせたパスタソースを開発するといった産学協同の成果も挙げている。
栽培・生産の側面では、農業機械の電動化、ドローンを活用した農薬散布など、技術活用にも積極的。しかし同社の最も特徴的で先進的な取り組みの1つと言えるのが、農業の国際認証「GLOBALG.A.P.」の取得だ。安全性を担保することで農業経営の強化を図り、持続可能な農業につなげることを可能にするGLOBALG.A.P.だが、同社はそれをみかん・柑橘類の栽培において日本で初めて取得した。農業生産法人 ミヤモトオレンジガーデン 代表取締役社長の宮本泰邦氏によると、国内での取得率はいまだ1%程度に過ぎないとのことで、その取得率の低さを解決するため、GAP取得を支援する「MOG-GAPシステム」を独自に開発するに至った。
同システムでは、栽培作業、農薬使用、収穫・出荷などの情報を記録することによる生産管理や、農器具等の管理がスマートフォンやパソコン上で行え、現場作業の効率化だけでなくペーパーレス化や業務・経営分析にも役立てられる。GLOBALG.A.P.の審査に対応したこのシステムを活用することで、低コストかつ短期間で、別途コンサルティングを受ける必要なしに、GLOBALG.A.P.の取得を目指せるとしている。
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