時速5kmの自動走行モビリティ「iino(イイノ)」の開発運用を進めるゲキダンイイノは11月17〜20日、神戸ウォーターフロント開発機構(KWD)と共同で実証実験を実施する。
神戸のウォーターフロントエリアにおいてモビリティ導入による回遊性と滞在性の向上、事業性を検証するという。
歩く速度でゆっくり移動する低速モビリティは、主に観光地や商用エリア内での移動手段としてさまざまなタイプが開発され、全国各地で実証実験が行われている。その目的はこれまで車両の性能や安全性の検証が中心だったが、走行システムを含む関連技術の性能が向上し、実装に向けて運用やサービスの内容を検証する方向へと進んでいる。
特に事業性は大きな課題で、本実証実験も運営を継続させるために運賃以外の方法でどのような収益可能性があるのかを検証することを狙いとしている。対象となるエリアは神戸の海沿いにある商業施設モザイクから隣接するメリケンパークの入口にかけて神戸湾を臨むルートで、約600mにして徒歩で10分ほどかかる距離に2台のiinoを自動運行させる。さらにもう1台は無人販売車両としてメリケンパーク内を回遊させ、夜は有料のナイトクルーズも行う。
神戸港の再開発を目的に2021年5月、神戸市の元副市長が社長となって設立されたKWDでは、現在改修中のポートタワーを臨むエリアでの回遊性を高める方法を探していたと言う。KWD 経営企画部 事業推進課長の風嵐陽太氏は「走行ルートは歩行者専用でスペースもかなり広く、海を眺めながら歩くにはとてもいい場所だが、統計によると徒歩10分以上の距離になると歩く以外の手段を探すことが多く、実際に飲食店やショッピングなどの施設が集まるモザイクに人が滞留することが課題になっていた」と話す。
そんな時に別の地域で走行していたiinoに着目し、共同で実証実験を行う話へとつながった。「乗り降り自由で移動中にゆっくり景色も眺められるモビリティは、ウォーターフロントに新しい人の流れを作り出し、場所の付加価値を上げる可能性を感じた。株式会社として継続した事業を確立させることを目指しており、実証実験は収益性を重視した内容になった」と風嵐氏は話す。
今回はポップコーンの無人販売をはじめ、ルート上の主なポイントに休息スポットと屋台を設けたり、ナイトクルーズを実施したりするなど、複数のコンテンツでニーズや収益可能性を検証する。
自動走行モビリティ「iino」を活用したポップコーンの無人販売車両
ゲキダンイイノ 代表の嶋田悠介氏は「多くの自治体で行われているモビリティの実証実験はルートが固定されているが、今回は天候が良ければ速度やルートを変えるなど、体験価値を高められるような運用を行う」としている。iinoに搭載したセンサーを用いて実証実験前の人流との比較や、時速3.5~4kmに設定した速度や、1台あたり5〜8人の乗車員数が適切かといったデータも分析する。
走行ルート設定における地図の作成は、数回往復させるだけでデータを収集でき、そこから時間をかけて細かく修正していく。運用システムは改良を重ねてカスタマイズされており、以前と比べて早く設定ができるようになっているという。
実証実験の前日に行われた取材では、iinoの走る姿に多くの観光客や地元の人たちが注目しており、関心は高そうだった。手づくり感のあるベンチやテーブルは神戸港の景色と違和感なく風景に溶け込んでいて、海外にいるような気分も感じられた。
今後の方向性だが、劇場型アクアリウム「アトア」があり、兵庫県最大のアリーナ整備などの再開発を進める新港突堤西地区方向へとルートを延ばすことを計画している。途中に一部公道での走行を含むため現在は走行が難しいが、2023年4月には特定条件下での自動運転を許可するレベル4の解禁が予定されており、規制が緩和され次第、運用の検証を進める。ルートが延長されれば、別のコンテンツや収益方法を検討する可能性も拡がる。
神戸では同じく神戸市らが道路交通法の改正を見越して2022年2月、iinoを含む複数のモビリティにより人の回遊性を高めるウォーカブルシティの実証実験を、三宮中央通りで10日間かけて実施。反響は良かったようだ。低速モビリティも少しずつ周知が進んでおり、収益が伴う方法で運用を定着させられるのか、これからの動きにも注目したい。
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