筆者を含めて、世界中の人を悩ませているものがある。それは、夜更かしをして翌朝も調子が悪く、そのまま一日をだらだらと過ごし、また夜更かしする、という無限ループだ。ほとんどの人は7〜9時間の睡眠が理想的だと知っている。しかし、実践できている人がどれくらいいるだろう。もちろん筆者はできていない。
そこで睡眠トラッカーを使ってみることにした。筆者はデータが好きだ。物事は白黒はっきりつけたい。睡眠不足がストレスの根本原因かもしれないと気付いたとき、頭に浮かんだのは睡眠トラッカーの存在だった。調べてみると、Fitbitは睡眠トラッキングのアルゴリズムが優れているらしい。そこで、ぼろぼろの睡眠サイクルを立て直す最初の一歩として、「Fitbit Inspire 2」を買った。
「Journal of Clinical Sleep Medicine」によると、米国では成人の10%が睡眠トラッカーを定期的に使用していると推定されるという。
Fitbitを着けてみて、自分は思っていた以上に睡眠を取れていないことが分かった。1歳の子どもがいるので、覚醒時間が長めに表示されるとは予想していた。しかし実態はさらに悪かった。平均睡眠時間は約4.5時間で、かろうじて3時間を超える程度の日もあった。
筆者の中の完全主義者が目を覚ました。もう睡眠データに夢中だった。朝、目が覚めたらすぐに睡眠データをチェックする。睡眠時間を増やすだけでなく、睡眠の質を高めることを意識するようになった。すべては睡眠スコアを上げるためだ。
実はこの頃、「Apple Watch Series 7」も手に入れたのだが、もうFitbitを手放せなくなっていた。筆者のスリープアニマルはキリンだと教えてくれた日以来、Fitbit Inspire 2は筆者の相棒だった。しかも、Appleの「watchOS 9」はまだリリースされていなかったので、Apple Watchには筆者の大事なFitbitのように、睡眠サイクルや睡眠ステージを教えてくれるネイティブトラッカーがなかった。
その後、9月にwatchOS 9がリリースされると、対応するApple Watchで睡眠ステージや睡眠サイクルを追跡できるようになった。
結論はまだ出ていない。watchOS 9のリリースから2カ月ほどしかたっていないので、睡眠ステージや睡眠サイクルのトラッキング精度を断定的に評価することはまだできない。他の実証済みの方法と比較した査読付き論文が発表されるまでは、個別の事例に基づくデータに頼るほかない。
Apple WatchとFitbitのどちらが正確かは置いておいて、ここでは個人的に両者が大きく違うと感じた点を3つ紹介したい。注意してほしいのは、筆者は複数月にわたって両方のデバイスを着けて寝ているが、以下に掲げたデータは両方のデバイスを着けて同じ夜に睡眠サイクルを追跡した7日分のデータを基に、1日当たりの平均を出したものだ。
睡眠ステージや睡眠サイクルを記録したいなら、最も正確な方法は「終夜睡眠ポリグラフ検査」だ。睡眠ステージや睡眠サイクルのモニタリングは、睡眠中の心拍数の計測よりも複雑なプロセスだ。終夜睡眠ポリグラフ検査では、睡眠中の脳波、呼吸や心拍数、血中酸素濃度、眼球や身体の動きなどを一晩中記録し、睡眠を分析する。脳波図を使って睡眠中の脳波を測定し、各睡眠ステージにおける脳の電気的活動を調べる。
簡単に言えば、このテクノロジーの時代にあっても、自宅にある機器で睡眠サイクルを100%の精度で記録することはできないということだ。しかし複数のデータソースと優れたアルゴリズムを組み合わせれば、おおよその見当をつけることはできる。これがウェアラブルの役割だ。
上の表から分かるとおり、筆者のApple WatchはFitbitよりも平均約25分長く睡眠時間を記録する傾向があった。覚醒時間も若干長い。しかし最大の違いは、浅い(コア)睡眠とレム睡眠に見られた。具体的に言うと、Apple Watch Series 7の方が浅い(コア)睡眠は1時間以上長く、レム睡眠は約40分長く表示された。
Apple WatchとFitbitを装着して本格的な睡眠調査を実施し、睡眠ステージの判定精度を分析したいところだが、今はこのデータで我慢するほかない。
睡眠時間は、平均するとFitbitの方がApple Watchよりも25分ほど短く表示されたが、過去2カ月分のデータを見ると、長く記録される日もあれば短く記録される日もあった。日によって、Fitbitが記録した入眠時間がApple Watchの記録より数分から1時間早いことがあったが、実はベッドで横になり、「Kindle」で読書をしたり、「TikTok」を見たりしていただけだったこともあった。
もちろん、Apple Watchの方がFitbitよりも入眠時間を早く記録していた日もあるので、最終的には上記の表のような結果になった。トラッカーのバンドをしっかり締めているか、余裕をもたせているか、どちらの手首に装着しているか、どれくらい寝返りを打ったかなど、データの精度に影響を及ぼす要因は多い。
watchOSのアップデートにより、心拍数や身体の動きを分析して睡眠ステージを記録できるようになった。このデータはある程度の精度はあるものの、Apple Watchの睡眠トラッキングに関する査読付き論文が出るまでは明確な結論は出せない。しかし筆者の経験では、今のところはApple Watchの方がFitbitよりも正確に筆者の睡眠を記録できているようだ。
筆者のFitbitは、これまでも睡眠時間を実際より長く見積もることがあった。例えば、ただ横になって本を読んでいるだけなのに、誤って「睡眠中」と認識されたりする。筆者以外の事例、例えば科学者のRob ter Horst氏が実施した睡眠テストでも、watchOS 9の登場以降はApple Watchが最も正確に睡眠サイクルを記録できるデバイスだという結果が出ている。
しかし一点引っかかるのは、Apple Watchが表示する睡眠時間は筆者が実際にベッドにいた時間、つまり全就寝時間より長くなる傾向があることだ。他のユーザーの声を聞く限り、これは新しい問題ではないが、筆者がApple Watchの睡眠データを手放しで信用できない一因となっている。
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