マレーシアで子どもの「発達検診」インフラ化に挑む--トイエイト松坂俊氏の挑戦 - (page 2)

政府からの補助金も得ながら、受診の義務化も視野に

——トイエイトではどういった方法で発達検診を行うのでしょうか。

 日本の発達検診をベースに欧米諸国の手法も参照し、ローカライズしたものになりますが、検診にはマレーシア、日本両国の専門医や元任天堂のゲームディレクターの方が設計に携わったスマートフォンアプリとおもちゃを使います。子どもの目の前にスマートフォンを立てかけ、画面表示とともに音声で読み上げられる質問に対して、画面内の選択肢をタッチして回答する、というのが1つ。また、特殊な積み木状のおもちゃなどを使って提示される課題をクリアする様子を、スマートフォンのカメラで撮影して映像分析します。

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トイエイトの発達検診

 ピボットを決めてから約半年、2022年3月に完成してリリースしました。通常、こういった診断は病院、クリニックや自治体の特別会場などに行って受けるのですが、子どもが知らない場所で知らない専門家と対面でやりとりすることになるので、子どもが怖がったり不安がったりしてしまうものです。それに対して私達のツールではゲームを楽しむだけで検診が終わってしまうので、より自然な子どもの能力を計測するための上位互換になります。

——リリースから半年がたちますが、手応えとしてはいかがですか。

 今のところチャネルとして大きく3つの領域で動きがあります。1つが私立幼稚園です。入学前検診や年度ごとの検診として使用してもらっています。大手チェーン校の2校に契約していただけました。

 2つ目は大企業です。福利厚生の1つとして子どもの発達検診を取り入れていただく、というものになります。日本で言うところの会社員の健康診断のような形で、パネルの病院で子どもの検診が受けられ会社側が費用負担するので、そこで働いている親からすれば実質無料で受診可能になりますね。大企業などで説明会などを行うと非常に反応がよく、福利厚生として導入前の会社においてもプレ予約の引き合いを予想以上にたくさんいただいています。発達診断がまだあまり認知されていないマレーシアで、その重要性を理解してもらうには説明に時間がかかるだろうと踏んでいたのですが、意外としっかり伝わって受け入れてもらえたようです。

 3つ目が政府との取り組みで、そのうちの1つは公立幼稚園です。マレーシアにはUSPIという教育大学内にある国立児童データ研究所という研究機関があります。この研究機関では公立保育園のカリキュラム作成のサポートや児童の発達のデータの研究などを行っているのですが、公立園での発達検診の受診義務化に向けたプロジェクトを進行しています。

 日本の発達検診をデジタル化してマレーシアに浸透させるという提案はマレーシア政府の反応もとても良く開発の際には第12次マレーシア計画という国家成長の5カ年計画における教育分野のプロジェクトとしてトイエイトを選定していただき、補助金もいただきました。また、国家復興委員会というコロナに関する復興の指針を決める閣僚の参加する委員会で、トイエイトの発達検診を公式ツールとしてコロナにおける子どもの発達への影響を理解するプロジェクトが予算とともに承認されました。その他、複数の州政府、官公庁にて検診ツールを使ったプロジェクトが進行しています。

 その意味ではいいスタートを切れたと思っていますし、国立マラヤ大学と私立サンウェイ大学というマレーシアのトップ校の方々と一緒に開発することもできました。

 マレーシアの教育大臣からは「小学校の入学前検診として実施できれば」とも言われています。今のマレーシアの状態、課題を把握するためには全国の子どもたちのデータを収集する必要がありますが、それには発達検診がちょうどいいのです。トイエイトはまだ小さなベンチャー企業で、本来なら政府に話を通すことは難しいはずですが、想像以上に「日本ブランド」の信頼が強く、そこは本当に上の世代の日本人の方々の積み上げてきてくださったことに感謝していますね。

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——ビジネス上、競合となるような存在はありそうですか。

 僕たちが調べているなかではないですね。少なくとも発達検診の用途でこういったアプリとおもちゃを組み合わせた仕組みを取り入れているところはありません。国と研究機関を巻き込んで子どもの発達データを収集し発達の標準値を作る活動をしているのも自分たちだけだと思います。先ほどお話ししたようにクリニックで発達検診をしてもらうこともできますが、高額な費用を支払うことになりますし、専門医ではあっても使うツールは欧米のものがベースです。

 ツールが欧米だと、データも欧米の人が基準になっているので、文化や人種としても大きく異るアジアの子どもにはフィットしません。マレーシア国内の子どもの標準値を元にした発達検診というのも私達のユニークネスです。まずはマレーシアで発達検診を普及させ、それから他の東南アジア諸国に横展開していくのが僕たちの戦略です。そのためにも今はとにかく実績を作っていくことが大事ですよね。

発達検診のその後をサポートできる体制も構築へ

——せっかく作ったプレイグラウンドが宙に浮いた状態かと思いますが、活用方法は何かイメージしていますか。

 お話したとおり、コロナ後のマレーシアでは子どもの発達の遅れが社会問題化しています。そこで現在は「遊びを通して発達にコミットする」というコンセプトでプレイグラウンドを運営しています。具体的には普通に遊んでもらえるプレイグラウンドの機能に加えて、発達の専門家が常駐しているマレーシアで唯一のプレイグラウンドになっています。

 たとえば発語が遅れている子どもがいたら、専門家が一緒に遊んでその根本原因を探って親にフィードバックしたりする。カジュアルなコンサルティングから、遊びの観察とフィードバック、そして発達の遅れがありサポートが必要な場合にはじっくりセラピーも受けらるようなワンストップステーションになっています。トイエイトでは日本の臨床発達心理士やマレーシアの専門家が在籍していますので、さまざまな個性をもつ子どもたちを広範にサポートできると思っています。

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同社が運営するプレイグラウンド

——最後に、松坂さんにとってイントレプレナーに必要なこと、大事なこととは何でしょうか。

 運ですかね。こんなことを言うと元も子もないですが、外資系広告会社の日本支社の若手がマレーシアに行って教育スタートアップを起業するという、前例のない提案の連続を潰すどころかバックアップしてくれる会社の社風、先輩、直属の上司、社長、一緒にミレニアルズを立ち上げて大きくしてくれた若手の同僚や、トイエイトの共同創業者との出会い、タイミング、すべて運が良かったとしか言いようがないです。

 特にマッキャンではアイデアを否定された記憶がなく、むしろやるならもっと大胆にやるべきだから応援できることはないか?というスタンスで日本のみならず世界中のオフィスでサポートをしてもらっています。だから運に恵まれているので見放されないように感謝をすること、成果で恩返しをすることに集中しています。

 唯一、運を掴むためにしていることと言えば、私は能力が決して高くない自覚があるので、挑戦の母数を増やすことで結果的に良い機会に恵まれる可能性を高める意識はしています。すぐ忘れるようにしていますが、無謀なことに飛び込んでいくことが多いので、ひどい失敗と恥は人一倍かいてきているのではないかなと思います。

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