大企業のなかで新規事業の創出やイノベーションに挑む「社内起業家(イントレプレナー)」たち。彼らの多くに共通しているのは、社内だけでなく社外でもアクティブに活動し、横のつながりや幅広い人脈、あるいは課題を見つける観察眼やその解決につなげられる柔軟な発想力を持っていることだ。
この連載では、そんな大企業内で活躍するイントレプレナーにインタビューするとともに、その人が尊敬する他社のイントレプレナーを紹介してもらい、リレー形式で話を聞いていく。
今回は、結婚式場の運営などをしているノバレーゼの新規事業提案制度から生まれた、アンドユー代表取締役社長の松田愛里氏。結婚式の参列者向けのドレスに着目し、長年トレンドの変化がないその領域に欧米の新しい風を吹き込もうと、ドレスのレンタル事業を立ち上げた。それまでの広報から全く異なる分野への、しかも20代という若さでの1人きりの転身。そこにはどのような苦労があったのだろうか。
——まずは松田さんのご経歴と、新規事業を手がけることになった経緯を教えていただけますか。
新卒でノバレーゼに入社し、広報として約5年間勤めました。新規事業を始めることになったきっかけは、ノバレーゼが毎年行っている新規事業提案制度です。社員なら誰でも応募できるので、毎年200件くらいの事業アイデアが集まるんですが、そこに私も新卒1年目から毎回2、3件ずつ応募していました。
毎年提案し続けて、おかげさまで入社5年目のタイミングで大賞を受賞することができ、2019年1月に会社を設立して「ANDYOU DRESSING ROOM」という結婚式に参列されるゲスト向けの衣装のレンタル事業を立ち上げました。ECサイトでレンタルしたい衣装をお選びいただき、ご利用日の前々日に自宅やホテルなどご指定の場所にお届けして、ご利用後にご返却いただく、といったサービスになっています。
——毎年応募されていたとのことですが、最初の頃はどんなアイデアだったのでしょう。
正直なところ、当初はお祭り感覚で提案した企画が多かったですね。社食がないので、お昼ご飯を食べたりお昼寝したりできるナップカフェとか、シャンパンだけ出すシャンパンバーとか、自分がただ好きなものを提案していました。もちろん、それが採用されることはありませんでした。
ただ、入社4年目のときには、ANDYOU DRESSING ROOMの元となるアイデアを出していたんです。結婚式の参列者の視点から、結婚式をもっと価値の高いものにしていきたいという思いで提案したものでしたが、役員審査で落選してしまいました。それでも絶対に実現したいという思いで、次の年にブラッシュアップした形で再度提案し、受賞できたという経緯があります。
——それほどまでに実現したいという強い思いを持っていたのは、なぜでしょうか。
ノバレーゼの広報という仕事を通じて、ブライダル業界の情勢や全体的なトレンドを幅広く見ていましたが、新郎新婦様に向けたサービスはかなりハイセンスになってきていると感じていました。トレンドの移り変わりもしっかりあって、それに合ったサービスも提供できています。でも、結婚式に関わる人は主役となる新郎新婦様だけかというと、そうではありません。新郎新婦様は2人だけですし、むしろ参列者の方が当然ながら分母としては多いんですよね。
それにも関わらず、参列者様に向けたサービスが発展してきていません。参列したゲストの方たちが「結婚式って本当に素敵だな」と感じるような体験にならなければ、その方々がいずれ結婚しようと思ったときに結婚式をしたいと思うだろうか、と疑問に感じたんです。
たとえば、私が最初にこの事業の元となる提案をしたときが25歳で、その頃から自分自身も友人の結婚式に参列する機会が増えてきました。ただ、特に女性の場合、結婚式に参列するとなるとすごくお金がかかります。平均的に約5万5000円の出費があると言われていて、これにはご祝儀の3万円と交通費、髪を整えるための美容室、それに衣装代が含まれます。
めでたいお祝いの場ではあるけれど、呼ばれた側としてはお金の計算をしてしまう。結婚式がある月は「ピンチだな」みたいに感じることもありますし、実際周りにもそういう友人がたくさんいました。でも、ゲストに向けたサービスを充実させることができれば、未来の結婚式の価値創造につながっていくのではないか、と強く感じていたんですよね。
——男性ならいつものスーツを着ていけばいいですが、女性だと毎回同じ服装だと友人の目が気になるという話は聞きますよね。そもそも友人と一緒に参加したときに、服装が被ることを避けたいという気持ちもあるのではないかと思います。
まさにそうなんです。以前だとシンプルなものを一着購入して、それを着回す人も多かったんですが、最近はSNSがあるのですぐに着回していることがバレてしまいます。自身が写真をSNSに投稿しなくても、周りの友人が投稿しますし。同じものを着回すのは悪いことではないのですが、次の結婚式も同じ衣装で参列しているのを友人に見られると、申し訳なさみたいなものがあるというか……。
女性心は難しいなあと私自身も思うんですが(笑)、手を抜いているわけではないのに、そういう感覚で捉える方もいます。毎回新しく購入するにしても、パーティードレスはだいたい一着で2~3万円はかかってしまいます。最近は不要品の売買ができるアプリもあるので、そこで中古衣装を安価に購入できたりもしますが、とはいえ買ったところでパーティドレスってなかなか着る機会は多くないんですよね。
——衣装のレンタルという意味では競合もあるかと思いますが、アンドユーとしての特徴やこだわりはどんなところにありますか。
こだわっていることの1つは価格面です。いい衣装を手頃な価格で借りられるお得感を大事にしています。ほとんどのドレスのレンタル料金が税込4950円〜6050円で、一番高いものでも税込1万890円としています。
この金額に往復の送料とクリーニング代が含まれていますので、最低4950円をお支払いいただければ、ドレスが1着届いて自由に着ていただけて、コンビニやホテルなどから簡単に返送できる、そんな風に手軽にご利用いただける仕組みにしています。EC専門ですので、その分人員も抑えられて無駄も出ませんから、価格を低めに設定できているところもありますね。
——取り扱っている衣装に特徴はありますか。
当社では海外のインポートブランドのみを取り扱っています。ただ、いわゆるハイブランドは入れていません。結婚式をたくさん見てきて、結婚式の会場ごとの雰囲気、あるいは今の結婚式のトレンドに合うドレスがどんなものかを私自身熟知していると思っていますので、その感覚で選んでいます。
また、最近仕入れたドレスについては自分の感覚だけでなく、データも見ながら決めています。たとえばサイズとしてはMを選ばれることが多いのですが、データを見ていくとLサイズを好む方もかなりの割合でいらっしゃいます。通常はMだけれど、結婚式では食事もしますし、長時間座っていることもありますから、窮屈に感じないようにあえてワンサイズ上げる人も多いようです。
そんな風にデータ分析で新たに見えてきているところもあるので、最近ではそういったお客様のご希望に沿えるような商品も買い付けるようにしています。
——インポートブランドに特化しているのはなぜでしょう。
日本の結婚式で参列者が着るパーティードレスは、トレンドの変遷がないと言い切ってしまっていいほどなんです。20年くらい前からAラインのワンピースにボレロを羽織るスタイルが続いています。
ところが、結婚式自体や新郎新婦様の衣装のトレンドは日本でもかなり変遷しています。たとえば会場だけとっても、ホテルの大きなバンケットルームが当たり前だったところから、今では結婚式専門の会場、専門式場と呼ばれる場所を利用されることが多くなっています。
広々としたオーシャンビューやガーデンなどの景観を生かした専門式場が増えてきている中で、新郎新婦様もそれに合わせて少しカジュアルダウンしたようなスタイルになってきています。対して、昔ながらの格式高い雰囲気のままの参列者様の衣装とはバランスが合いにくくなってきているのが実情です。
そこで、もう少し華やかで写真映えする、欧米の風を取り入れたカジュアルダウンの洋服を提案するべく、すべてインポートドレスで取り揃える、というのを当社の特徴としています。
国内ブランドが好きじゃない、というわけではないんですが、国内ブランドは比較的簡単に手に入りますし、なかなか手に入らない海外のドレスを手軽にレンタルできる、というところにも価値があるのではないかと考えています。
——海外と国内とで、パーティドレスに対する考え方の違いは具体的にどんなところにありますか。
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