大企業のなかで新規事業の創出やイノベーションに挑む「社内起業家(イントレプレナー)」たち。彼らの多くに共通しているのは、社内だけでなく社外でもアクティブに活動し、横のつながりや幅広い人脈、あるいは課題を見つける観察眼やその解決につなげられる柔軟な発想力を持っていることだ。
この連載では、そんな大企業内で活躍するイントレプレナーにインタビューするとともに、その人が尊敬する他社のイントレプレナーを紹介してもらい、リレー形式で話を聞いていく。
今回は、更年期など他人に相談しにくい女性の悩みを解決するサービス「TRULY(トゥルーリー)」を運営するTRULYの代表である二宮未摩子氏。世間的におおっぴらにしにくい性に関する悩みごとーー。なぜ、この分野にフォーカスしようと考えたのか、同氏に話を聞いた。
——はじめに、二宮さんのこれまでの経歴について教えてください。
2007年に広告代理店に入社して、最初の1~2年は営業職として仕事に就いたのですが、2010年頃に妊娠しました。当時は働きながら子育てをすることが今ほど当たり前ではなく、ロールモデルとなるような女性もいなくて、会社としても珍しいケースで扱いに困っていたようなところもありました。しかも営業職の場合、徹夜で仕事することもざらにあります。妊娠した時に重いつわりを経験したこともあって、その状態で働くことが難しくなり、しばらく休みを取って仕事から離れることになりました。
いきなりそういう状態になったので心の準備ができず、知識もなく、突然水さえ飲めなくなるような状態になったので自分自身びっくりしてしまいました。夫から心配はしてもらっても、私もなぜ自分がこうなっているのか知識がないからうまく言語化もできず、職場や上司に対してもただ「つらい」としか言えないので伝わらなくて、休むことになってしまったわけです。
自分も含めて、女性でも女性の身体に関する知識が低い理由は、日本の性教育が遅れていることが1つ挙げられます。更年期やつわり、妊娠のことはさらっと教わるぐらいで、体内ホルモン量の変化が影響しているなど、詳しいことは誰も教えてくれません。大人になっても知らないことが山ほどあって、実体験で学んでいくしかない。じゃあどうやってそういう知識を得ていけばいいのか調べると、そういう分野の情報ってそもそも少ないんですね。
——たしかに、私自身もそういう教育を受けた記憶はないです。
そうですよね。でも、妊娠と出産を経験した自分が次に迎えるホルモンの大きな変化は、おそらく更年期です。そのときにどういったソリューションがあるだろうと調べると、古めかしい教科書的なコンテンツしかありませんでした。更年期というもの自体がすごくネガティブで、女性としては受け入れがたい存在なんだな、ということにそこで改めて気付かされたんです。
TRULYを立ち上げることになったきっかけは、まさにそういった自分の原体験があったことと、人口分布から考えても今後更年期の世代が世の中に増えてくるだろうときに、更年期に関するソリューション、サービスが全然ないことに課題感をもったことです。女性がもっとポジティブに更年期を過ごしていけるような社会にしていきたいし、そのためのサービスが必要ではないかと思いました。
——一度お休みされた仕事に復帰された後は、どのような経緯でTRULYの立ち上げに至ったのでしょう。
会社に復帰した後は、クライアントに提案するために社内で開発したソリューションや抱えているナレッジを、各部門と連携しながら整備していく、つまり社内のナレッジマネジメントの仕事を4年ほどやりました。これにより、組織全体を俯瞰して見られるようになりましたし、各部門のトップと接する仕事でもあるので、そういった意味ではすごく楽しい仕事でしたね。
ただ、3~4年もするとひと通り社内の全貌がわかってきて、ルーチン的な仕事にもなってきます。ずっとここにいても自分が成長し続けられるかが疑問に感じてきましたし、次に自分がやりたいことが何かをなんとなく意識するようになってきました。
自分はもともとクリエイティブなことに携わる仕事がすごく好きでしたから、クリエイティブ部門の方からお誘いいただいたのがきっかけで、次に新規事業創出部門に異動することになりました。そこで企業の新規事業やサービス・商品開発、ベンチャーの立ち上げ支援などを経験し、商品やサービス、事業をゼロイチで創ることの面白さや、やりがいを感じました。
それがTRULYを立ち上げることになった第一歩です。本当は社内ベンチャーとしてスタートする予定だったのですが、会社の方針もあって、独立する形で2019年11月にTRULYを創業した、ということになります。
——TRULYが手がけているサービスについて簡単にご紹介いただけますでしょうか。
私たちはTRULYという更年期の方に寄り添うメディアとオンライン相談の場を運営しています。「閉ざされた悩みに向き合い、男女が理解しあえる社会へ」というミッションを掲げて、更年期の先まで寄り添っていくのが特徴です。
なぜ、更年期に着目しているかというと、先ほどお話ししたような原体験があったこと、フェムテックのカオスマップを見たときに更年期領域を手がける企業やサービスが極端に少ないことに課題感を持ったのが大きな理由です。そしてもう1つは、女性の管理職などへの昇進にも更年期が影響を与えていることがわかったからです。実際に約7割の方が更年期に関わる健康課題で昇進を辞退したことがある、あるいは辞退を考えたことがあるという調査結果もあります。
——更年期には一体どのような症状が出るのか教えていただけますか。
女性ホルモン量の急激な低下が始まる40代半ばから、体にはいろいろな症状が発生します。個人差があるので症状が軽い人もいれば重い人もいますが、重い人の症状がいわゆる更年期障害と言われます。全体の約1割程度の方が更年期の症状を経験して、約10年間悩まされる。閉経が平均50.5歳と言われているので、その前後5年間ほどの間にさまざまな症状を経験するんです。症状としては200種類以上あるとも言われていますし、1つの症状が終わったらそれで終わりとはならず、10年間ずっと症状が出続ける人もいれば、時々起こるような方もいたりと、幅も波もあります。
そういった更年期に対して、日本では情報やサービスがすごく少ない。私たちには知識もないので、学校などでの性教育で学んできていない領域でもあります。婦人科病院にかかれば何とかなる、というのは事実そうなんですが、実際に婦人科にかかっている方は調査によると18%程度しかいません。女性にとって婦人科はハードルが高い存在で、歯医者の次に行きたくないところ、と言う人もいるくらいです。心理的負担もありますし、忙しくていけない方もいらっしゃいます。
それともう1つ、タブー視されているような部分もあって、更年期に対して悩みや不安があっても人に相談できない、恥ずかしくて言えないという問題もあります。結局どうしているかというと、対策がわからなくて我慢してしまっているというのが実情です。
——更年期に関する情報が少ないという話がありましたが、なぜ今も少ないのか、その理由として考えられることは何かあるでしょうか。
いくつかあると思いますが、1つは、これまで長い間、更年期の女性の悩みが表に出てこなかったことですね。たとえば戦時中は、更年期の世代の方の多くは専業主婦で社会で働く女性は少なかったし、さらに54歳には寿命を迎えていた時代です。そもそも悩みを話す場所がなかったし、我慢するものだというふうになんとなく教え込まれているような文化でもあったと思います。解決しようとせず、ひたすら我慢して顕在化しなかったために、ソリューションもなかったのだと思います。
しかし、昨今は女性が普通に働く時代になったので、悩みと仕事を両立していくこととパフォーマンスを上げていくことをセットで考えていかなければなりません。そのときに課題として表れてきた、というのがポイントの1つかなと思っています。
また、ソリューションとして作りづらい部分もあります。先ほど200種類と言いましたが、症状が多岐に渡るので、妊活のときの不妊治療のように、決定打的なソリューションがないんです。最終的にはホルモン補充療法という形でクリニックで注射を打ち、ホルモンを補充するのが一番の解決になるんですけど、そこまでする手前のセルフケアみたいなところは知識がないので誰もしない。解決のための多くの選択肢があることが世の中にまだ知られていないところもあって、そこに取り組もうという企業はどうしても少なくなってしまうのかなと。
——そうした課題を解決するためのサービスをTRULYが提供されているわけですね。
当社では「知る」「調べる」「相談する」という3つの視点からサービスを提供しています。1つ目の「知る」については、女性医師や専門家が監修した記事で情報発信しています。次の「調べる」は無料でセルフチェックできるサービスで、自分の状態をレーダーチャートのような形で正しく知ることができるものです。更年期のことだけでなく、デリケートゾーンや性やセックスの悩みなど、なかなか人に聞けないことも自分でまずはチェックできるようになっています。
3つ目の「相談する」が有料のチャット相談サービスです。更年期、生理、妊娠出産、パートナーシップなど、幅広いテーマの女性特有の悩みについて、医師や専門家に直接1対1で相談できるものです。相談方法は、LINEでTRULYのアカウントを友だち登録して、テキストで悩みを打ち込むと医師や専門家からの答えが得られる、というものになっています。
今のところチャット相談サービスは主に法人向けに提供しています。企業と契約し、その社員の方に福利厚生のようにして使っていただく形です。また、それとは別に、法人向けに社員のヘルスリテラシーを高めていくためのセミナーや研修、動画コンテンツ、記事コンテンツなどの提供も行っています。
単なるサービス提供だけでなく、いろいろな協業も進めています。企業の中でフェムテックや更年期に関連する新規事業に課題があったり、共創を考えていたりするところも増えていますので、そこに我々のサービスを提供することもありますし、会員の統計データを活用したマーケティング調査みたいな協業の仕方もあります。法人向けサービスを展開してからおよそ1年たちましたが、企業や自治体など20以上の組織で導入もしくは実証実験などの協業が進んでいて、おかげさまで高い評価をいただいているところです。
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