西日本旅客鉄道(JR西日本)とソフトバンクは、自動運転バスを隊列走行させる技術を用いたバス高速輸送システム(Bus Rapid Transit:BRT)を開発するプロジェクトを1年前から開始している。
10月17日にはその実証実験となる日本初の車種が異なる3台の自動運転バスによる隊列走行の様子が、滋賀県野洲市にある野洲テストコースで報道向けに公開された。
本実証実験は、自動運転バスの開発というよりも、まちづくりと連携した持続可能なモビリティサービスの開発を目指している。BRTを路線バスと鉄道の間に位置付け、シンプルな設備でローコスト化し、既存の交通ネットワークともシームレスに連携させて地域全体の活性化につなげることを狙いとする。
小型、大型、連結と異なるタイプのバスを採用しているのもそのためだ。それらをフレキシブルに組み合わせて隊列走行させることで、少ないドライバーでニーズにあわせた移動が提供できるようになる。例えば、ラッシュ時やイベントなど、一時的に輸送量を増やしたい時に、ドライバーは通常と同じ1人だけで輸送量を増やせる。あるいは、利用者が多いエリアは複数台のバスをドライバーが運転し、そこから先の目的地は別のドライバーが個別に運転するといった利用も可能だ。
同プロジェクトは、自動運転および隊列走行のシステム開発などを東大ベンチャーの先進モビリティ(ASMobi)が担当し、ASMobiとソフトバンクの合弁でスマートモビリティサービス事業を行うBOLDLYが車内監視と統括制御を担当している。踏切や信号などのクロスポイント制御を日本信号、車両間通信やセキュリティをソフトバンク、地上設備の設計や整備をJR西がそれぞれ担当している。
テストコースは、JR西が鉄道車両基地にする予定だった総面積2万2800平方mのエリアに、最長約600mの直線がある1周約1.1kmのコースが設けられ、その中に駅や停留所、信号のある交差点などテストに必要なポイントが配置されている。
自動運転・隊列走行用の車両は、正面の上部に道路の状況を識別するLiDARセンサーとカメラに加え、下部にもLiDARセンサーとミリ波センサーが、車内にはルートなどを識別するステレオカメラが設置されている。車体にはそのほかにも周囲を監視するカメラや、昇降客を検知する磁気センサーとRFIDリーダー、さらに屋根の上にはみちびきなどの衛星測位を行うGNSSアンテナが搭載されている。
走行中の連結と隊列走行に使用される車車間通信は、ミリ波レーダー、3d LiDAR、カメラで行う。車間距離は10〜20mとそこそこ距離があるので隊列走行というイメージはない。今回の実証実験は後続車両もそれぞれドライバーが乗車していたが、将来的にはドライバーレスにすることを想定している。
今回のデモはタイプが異なる車両3台を使用したが、実証実験では最大で4台の車両を隊列走行させている。技術的にそれ以上の台数でも隊列走行はできるが、停車スペースを設けるのが難しいことや、需要としても1回あたり500人の輸送を想定しているため、最高4台に設定したという。
JR西日本 鉄道本部 イノベーション本部 次世代モビリティ開発 担当課長の不破邦博氏は「高速道路でトラックを隊列走行させる実証実験も行われているが、そこで検証されているのは同じ目的地に向かって牽引する技術であり、私たちは地域に応じた最適なクオリティでフレキシビリティな運用ができるBRTを開発している。法令については自律走行自動運転に関する整備が進められているが、今後は隊列走行についても必要になるだろう」と説明する。
ソフトバンク 鉄道事業本部 事業企画統括部 担当部長の渡辺健二氏は、「今回のシステムが全ての地域にフィットするとは考えていないが、需要に応じて通信も多重にするといった方向でも技術の検証を行っている」と話す。
デモは雨の中で行われたが運転は比較的スムーズで、狭いコースの中で加速したり、狭いコーナーの折り返しも問題なくできていた。運転以外にも、先頭のドライバーが全てのバスのドアを一斉に開閉したりアナウンスしたりするなど、サービスで必要な機能も並行して検証され、今後はさらに運転の精度を高め、信号や交差点を使用して実装に必要な技術の検証していくとしている。
自動走行の様子
自動走行の社内の様子
バスの運営コストは7〜8割が人件費であり、労働人口も減っているため、自動運転技術だけでも将来の移動需要に対して大きく貢献する可能性がある。BRTの運用は一般車両が侵入しない専用道路で行うことを想定しているが、その設置に関して海外では縁石を設けるだけで簡易化されている例もあり、どのような方法が適切かも検討していくとしている。
JR西日本 イノベーション本部長の久保田修司氏は「まずはJR西がカバーするエリアが導入先になると考えているが、それだけでも十分に広い。要望があれば海外への展開も視野に入れたい」とコメントしている。
ソフトバンク 執行役員 法人事業統括付(鉄道事業推進本部担当)の永田稔雄氏は「ソフトバンクは鉄道通信をルーツにしており、今回のプロジェクト参加に縁を感じている。今後の社会課題解決に向けて一緒に取り組んでいきたい」と述べた。
プロジェクトのスケジュールは2021年10月の開始から1年目となる今回の試験走行まで順調に進み、2023年の中ごろにテストコースでの実証実験を終え、その後は2020年代の半ばで社会実装を目指すとしている。
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