太陽光のみの完全オフグリッド「スマートトレーラー」で生活--実体験でみえた宿泊や福利厚生の可能性

 CNET Japanが主催するオンラインセミナー「不動産テックオンラインカンファレンス2022」が、8月30日から9月9日までの2週間に渡って開催された。「スマートな住まいや街がもたらす暮らしのイノベーション」と題された今回のイベントは、AI/VR、地域創生、持続可能な社会といった昨今のトレンドを幅広くカバーした8つのセッションで構成している。

 ここでは、9月1日に行われた、YKK APとスペックホルダーによるセッション「完全オフグリッド・スマートトレーラー実証実験から見えた働き方改革のヒント 〜休眠資産をどう活かす?〜」の内容をレポートする。

キャプション
YKK AP 事業開発統括部 統括部長/ワールドハウジングクラブ 取締役の東 克紀氏(右下)、スペックホルダー代表取締役社長の大野泰敬氏(左下)

企業の福利厚生施設にもなるトレーラーハウス「CUBE BASE」

 YKK APが現在開発・実証実験を進めているのは、スマートなトレーラーハウス「CUBE BASE」。住宅用の窓・サッシをはじめとするインテリア・エクステリアのメーカーとして知られる同社だが、移動可能なトレーラーハウスを開発する理由は、設計、基礎、大工、左官、内装など、住宅建設のあらゆる工程で人材不足、高齢化が進んでいることが理由だという。

YKK APのトレーラーハウス「CUBE BASE」
YKK APのトレーラーハウス「CUBE BASE」

 限られた人材でも高品質な住宅を提供していくには、あらかじめ工場内で住宅躯体の各部のパネル化やユニット化を行い、半完成状態で建設現場に輸送して設置する、といったような効率的な工法が有効と考えられている。そうした輸送に耐え、現地での吊るし搬入も可能な構造であることなど、さまざまな要件を満たすための基礎的な技術・知識を得る分野として、トレーラーハウスが向いていると同社 事業開発統括部 統括部長の東氏は語る。

トレーラーハウスは人材不足の建設業界において、持続可能性を追求していくうえでの基礎となる技術が得られる分野だという
トレーラーハウスは人材不足の建設業界において、持続可能性を追求していくうえでの基礎となる技術が得られる分野だという

 CUBE BASEは複数のパネルからなるユニット式のシンプルな構造ながら、壁内部には高性能断熱材が用いられ、さらに断熱性能の高いトリプルガラスが採用されている。また、輸送時や設置する際の吊り上げ時、あるいは阪神淡路大震災の3~5倍程度の力が加わる大地震などにも耐えられる強度をもち、素材には国産の間伐材を利用することで環境面にも配慮した作りになっている。

工場で製造した複数のパネルが組み合わされた構造。断熱性能も高めている
工場で製造した複数のパネルが組み合わされた構造。断熱性能も高めている
大地震でも耐えられる強度を誇る
大地震でも耐えられる強度を誇る

 最初の1台を二子玉川の蔦屋家電に設置して以降、企業のワーケーション施設、福利厚生用の施設として活用できることもアピールしており、たとえば郊外でチームで仕事するような「合宿型集中ワーケーション環境」のような使い方を提案している。

 「在宅勤務が広がっているが、自分は娘の部屋を利用している」と東氏が明かすように、突然会社から在宅勤務を命じられても、社員の自宅に仕事用の部屋があるとは限らない。そのため「テレワークを推奨するなら企業は場所を提供することも必要」だとする。「福利厚生も考えると、郊外に環境を作って、チームでワーケーションできるような選択肢もあった方がいいのではないか」という考えもCUBE BASEの取り組みにつながっている。

ワーケーション施設としても活用できる
ワーケーション施設としても活用できる

インフラのない場所へオフィス移転--自給自足のメリットと課題

 このCUBE BASEを実際にオフィスや居住空間として日常的に活用しているのが、企業の新規事業創出を支援しているスペックホルダーの代表取締役社長である大野氏だ。もともとは都心の丸ノ内などに月額計200万円以上の家賃を支払っていた同氏の会社だが、千葉県内の市街化調整区域、つまりは電気・水道・ガスが通っておらず、住宅などの建物の建築もできない地域にあえてオフィスを移転することを決断した。

 そこにコンテナ、キャンピングトレーラー、トレーラーハウスという3種類の移動型オフィスを設置し、自らそこで仕事をすることで、身をもって循環型の低エネルギーな新しい働き方・暮らし方の可能性を実証しようとしている。

最初は荒れ放題だった場所を整地
最初は荒れ放題だった場所を整地
 
 
 
 
コンテナ、キャンピングトレーラー、トレーラーハウスの3種類の移動型オフィスを設置した
コンテナ、キャンピングトレーラー、トレーラーハウスの3種類の移動型オフィスを設置した

 きっかけは、大野氏が訪れたある地域において、観光客や労働者が利用できる宿泊施設がほとんど存在せず、地域の賑わいや発展の障害になっているという問題を知ったこと。大きな原因の1つは、ニーズを測りきれないためにリスクが高いと判断され、宿泊施設の建設に必要な融資が銀行から得られないことがある。

 しかし、さらに深掘りしていくと、そうした地域には昨今の電力不足に代表されるようなエネルギーの問題、テレワークのような働き方の変化、輸送コスト増による無駄、といったいくつもの根深い課題が存在することに気づき、それらの課題を解決する方策を具体的に模索するべく、自らインフラのないオフグリッドな環境に身を置いて実証してくことに決めたという。

 ただし、東京都心からオフィスを移転するにあたっては「生活水準を落とすのではなく、むしろ上げる」ことを目指して、自ら設備を選定し内外装のDIYもしてきたという大野氏。電力はすべて太陽光でまかない、Amazon.co.jpで購入した100W出力のソーラーパネル14枚と、大容量・高出力の蓄電池「BLUETTI EP500」2台を利用。飲用水はペットボトルだが、それ以外の生活用水は敷地内に井戸を掘って汲み上げている。ガスはLPガスで、通信回線は複数キャリアのモバイルネットワークを使い分けているのだそう。

電力は100Wのソーラーパネルと2台の大容量蓄電池でカバー
電力は100Wのソーラーパネルと2台の大容量蓄電池でカバー
生活用水は専門業者に依頼して掘った井戸から汲み上げている
生活用水は専門業者に依頼して掘った井戸から汲み上げている

 コンテナ、キャンピングトレーラー、トレーラーハウスの3種類に分かれた居住空間となるオフィスのうち、トレーラーハウスにYKK APの「CUBE BASE」を利用している。いずれも移動型の設備で、付属物も含め移動可能なようにモジュール化されたものになっているという。これにより、移転が必要になったときにも対処しやすいなどリスク低減を図ることができ、市街化調整区域のように建築不可の土地でも居住可能で、住宅を建設するよりもコストを下げられる、としている。

3つある移動型オフィスのうち1つが「CUBE BASE」
3つある移動型オフィスのうち1つが「CUBE BASE」

 かかった費用は現在までで約3000万円。この金額は大きく見えるが、郊外の土地であれば数百坪でも数十万円~100万円程度と安価で、トレーラーハウスやコンテナなど1つ1つの居住空間は500~600万円ほどで好きな仕様に仕上げられるとのこと。スマートウォッチで計測したストレス係数は、あくまでも参考値であるとしながらも、東京で仕事をしているときは60%と高いのに対し、現在の移動型オフィスだと15%と低くなっていて、心身への負担の少なさの面でも利点があると大野氏は見ている。

 
 
移動型オフィスの内部はほとんど大野氏自身でDIYしたとのこと
移動型オフィスの内部はほとんど大野氏自身でDIYしたとのこと
郊外で仕事するときはストレスも少ないようだ
郊外で仕事するときはストレスも少ないようだ

 しかしながら課題もある。太陽光発電に頼ることになるため、雨や曇りの日は発電できず、真夏は「想像以上に暑い」。断熱材のないキャンピングトレーラーはエアコンフル稼働時でも室温は33度に上昇し、断熱材のあるコンテナの方も天井をさらに断熱対策することでなんとか27度に抑えられている状態。消費電力は最も低い時間帯でキャンピングトレーラーが250W、コンテナが150Wとなっており、ソーラーパネルと蓄電池のみという環境においてはインパクトは大きい。

 一方、トレーラーハウスのCUBE BASEは、高性能断熱材やトリプルガラスによる遮熱の効果が大きく、同条件で室温は24度、消費電力は80Wと、かなり高効率な運用が可能になっているようだ。「人が暮らすなら圧倒的にCUBE BASE。他は外部の気温に影響を受けやすく、室温の上下変動が激しいが、CUBE BASEは安定している」という。建物は窓を出入りする熱が特に大きいことから「サッシの重要性を実感している」とも話す。

 
 
「CUBE BASE」が最も断熱性能が高く、冷暖房効率が高い
「CUBE BASE」が最も断熱性能が高く、冷暖房効率が高い

目指すは「循環型地産地消モデル」の都市開発--CUBE BASEを使ったアイデアも募集

 ただ、いずれにしろ天候によって電力が不足する恐れがあるところは対策が難しい部分。発電なしで蓄電池2台をフルに使って過ごせるのは4日間程度であることから、大野氏は、電力消費を常に把握できるよう可視化したうえで、天候と電池残量を見ながら3日目あたりから節電したり、他のバッテリーや蓄電池を活用したりして電気の使い方を工夫しているという。そのなかで、最も大きな電力を消費するのが、井戸から水を汲み上げるとき、という意外な事実にも気付いたとのこと。

常に電力消費を監視し、電力不足に陥りそうなときは運用を工夫
常に電力消費を監視し、電力不足に陥りそうなときは運用を工夫

 大野氏はこうした自らの経験を活かして、今後、トレーラーハウスなどを組み合わせた宿泊施設向けのパッケージを作り、もともとの課題だった自治体などでの宿泊施設不足の解消を目指す計画。いずれは太陽光で蓄電し、オフィスへ電力供給するとともに、飼料コンテナにも電力供給して日常生活から出るゴミを処理しつつ、動物や昆虫の養殖、植物工場の稼働までまかなえるような、循環型地産地消モデルの都市開発にもつなげていきたいとしている。

オフグリッドなオフィスの構築経験も活かして、循環型地産地消モデルの都市開発を目指す
オフグリッドなオフィスの構築経験も活かして、循環型地産地消モデルの都市開発を目指す

 そしてYKK APの東氏も、CUBE BASEを活用した実証実験をさらに進めていく考え。甲府市において4台のCUBE BASEをつなげて作る新たな空間を提案しているところだ。地域創生や農地活性、店舗、イベント、企業のワーケーションや福利厚生、もしくは災害時活用など、さまざまな用途に活用できるポテンシャルがあるとして、活用アイデアを含めた形で参画企業を募集している。

「CUBE BASE」は企業のワーケーション施設、福利厚生用施設としての需要も見込む
「CUBE BASE」は企業のワーケーション施設、福利厚生用施設としての需要も見込む
4台の「CUBE BASE」をそれぞれブースに見立て、各ブースで実施する企画を企業などから募集している
4台の「CUBE BASE」をそれぞれブースに見立て、各ブースで実施する企画を企業などから募集している

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