大手企業で続々と取り組みが始まっている新規事業創出の動き。それは年間売上高30兆円超、世界第1位の自動車販売台数を誇るトヨタ自動車も例外ではない。2018年度からスタートした新規事業創出プログラム「B-project」には、自社やグループ会社の従業員から、毎年数百件の熱意ある事業アイデアが寄せられるという。
プログラムの特徴は、アイデアをもたない人でも支援する間口の広さと、定期的な審査で段階的にプロジェクトを絞り込む「ステージゲート方式」を採用していることだ。詳しい取り組みの中身について、B-projectの運営事務局を担当する同社の藤原隆史氏と永田昌里氏に話を聞いた。
トヨタが推進するB-projectは、「お客様の課題をトヨタならではのモノ、サービスを提供することで解決し、新たなビジネスの創造を目指す」ことをコンセプトに掲げる新規事業創出の取り組みの一部。新規事業創出のプロセスにおける初期段階、アイデアの発掘となる「タネ出し」部分を担うものだ。
トヨタ本体やグループ会社の正社員を対象にしており、スタートした2018年度は登録者数431人に対しアイデア提案数は205件、2021年度は同2700人中325件で、今期2022年度は登録者数3500人となっている。
B-projectの特徴は、段階ごとに「意思形成」「顧客課題の特定」「解決策実証」「事業計画」というように実施内容を固定し、各段階でそれらを審査して、採択するアイデア、チームを絞り込んでいく「ステージゲート方式」を採用していること。これにより、従業員にとってはB-projectに挑戦するハードルが下がり、一方で運営側としては有望なアイデアの事業化確度を高められる、というメリットがあるという。
登録者数は年々増えており、順調に社内浸透が進んでいるように見える。ただ、「B-projectのような新規事業開発は、もともと違う形で進めていた」と永田氏は明かす。特定の部署内で、自動車に関連する領域のみを対象にして事業創出を図ろうとしていたのだという。その後、同社社長の豊田章男氏が2018年、自動車業界は「100年に一度の大変革の時代」にあるとし、「車をつくる会社からモビリティカンパニーへ」と大号令をかけたことが仕組みを見直すきっかけになった。対象領域を広げ、社内公募制にして「全社を巻き込んで推進する」方向へと舵を切り、革新を意味する「Break through」の「B」をとったB-projectが誕生した。
それでも「当初は事業開発に取り組むためのアプローチが明確ではなく 、とにかく3カ月間で顧客や課題の発見と事業計画までやり切る、というかなり難易度の高いものだった」と永田氏。「事務局や有識者からそれぞれの観点でコメントやアドバイスをおこなっていたが、起案者が進め方において迷う原因にもなっていた」こともあり、プログラム自体の改善の必要性を実感。そこで数々の大手企業の新規事業創出を支援しているAlphaDriveに協力を求め、2020年から体制を再構築して現在に至る。
協力会社にAlphaDriveを選んだのは、B-projectの肝となっている「リーンスタートアップ」および「ステージゲート」の方式を同社が提案したことから。初めは最小限のコストと期間で製品、サービスを開発し、顧客の反応をもとにブラッシュアップしていく、近年のベンチャー・スタートアップ企業で採用されることの多いリーンスタートアップ。その手法は、藤原氏いわく「トヨタ生産方式と同じ考え方」であり、ステージゲート方式も「トヨタの文化、仕事の進め方にマッチすると感じた」という。
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