日本において、ダイバーシティ、D&I(ダイバーシティ&インクルーション)という言葉は少しずつ浸透してきたようだが、その真の意味を理解し、実践できている企業はわずかである。また近年グローバルでは、多様性(Diversity=ダイバーシティ)、公平性(Equity=エクイティ)、包括性(Inclusion=インクルージョン)の頭文字からなる略称の“DEI”というワードに変わりつつある。
エフアンドエムが、9月13日にオンラインで開催するカンファレンス「DXとDEI1.0」に登壇する、「多様性って何ですか?」の著者である羽生祥子氏に、D&IやDEIを取り巻く状況について話を聞いた。
——まず、一番メジャーなダイバーシティ(多様性)について基本を教えて下さい。
日本の大企業は「多様性」を積極的に取り入れようとしてきました。「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」の代表的なものは、女性を組織の中に3割は入れようという施策です。これについてはほとんどの大企業は実行し、終えてきました。
しかし、実際のところは数合わせにしかなっておらず、単に女性の割合を増やしただけでは、企業価値の向上、そして新規事業の創出、いわゆるイノベーションは起こらないということに気づいてきたという背景があります。
——つまり、何かが抜けていたのですね?
はい、組織にとって大事なのが「Inclusion(インクルージョン、包括性)」であると気づき、多様性のある人たちをどうやって組織に包含していくか、ということが課題になってきました。Inclusionは、直訳すると包含、包摂、包み込んで含む、という意味で、さまざまな人たちがたくさんいるダイバーシティの状態をまとめていくことです。
——法令面の観点ではどうですか?
EUでは法律として整備されており、遵守しないと、上場市場から退場させられるほどの強制力のあるルールが敷かれています。海外で法律が整備されている以上、たとえ日本の会社であっても、取引先や工場が海外にあるようなグローバル企業だと、日本だけのルールではいられない状況になってきています。一蓮托生ですね。
とは言いつつ、日本でも4月から次々に行政のルールが施行されているので、日本の企業であっても上場、非上場企業を問わず、取り組んでいかなければ法律違反になります。
世界最大のファンドであるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、「上場企業は、女性活躍を導入しないと投資資金を入れませんよ」と言っているので、企業にとってきついハンデとなると思います。
まさにDEI元年で、日本にも「多様性の波」がきていると言えるでしょう。これまでは出来ていればいいな、という状況だったのが、日本においても、やらないといけないという段階にきています。
——日本企業は、DEIの取り組みは苦戦しそうですね。
はい、むやみやたらと形だけ取り入れてもうまくいかないでしょう。いきなり研修を受けた、ワーケーションを取り入れたなどをやっても、なかなか進まないのが実情です。DEI組織になるためのステップを踏んでいく必要があります。
——取り組みを進めるにおいて、よくあることはなんですか?
多様性って男女の話だけではないんだ、ということを俯瞰力を持って理解、認識していくことから始まると思います。
本来「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」とは、民族や年齢や宗教、性別など多岐にわたるものです。しかし、日本は島国なので、どうしても男女だけの話になってしまいがちです。その点、大陸にある韓国や中国は理解が進んでいると言えるでしょう。そのことを認識、理解することから始まるのではないかと思います。
ただし、ある企業では宗教やLGBTQには対応しているが、女性に関しては対応していないという企業もあります。言い訳として多いのは、「女性だけを特別視する必要があるのか?」「管理職に該当する女性がいない」「女性がみんなバリバリ働きたいとは限らない」などが挙げられます。
DEIは男女に関することだけではないと言いつつも、日本でインパクトが大きいのは男女の話であることは、人口割合から見ても合理的と言えるでしょう。また、導入はしていないけれどお祈り部屋は作った、という事例もありますが、これはとても感情的な経営判断になってしまっていると言えます。
9月13日のイベントでは、登壇される企業の実例も聞きながら、どのようなステップで導入していけばDEIが定着していくか、皆さんで考えていければと思っています。
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