前回(第3回「データで見る、24年卒コロナネイティブ学生に特徴的な『就活3つの新常識』(前編)」)に引き続き、コロナネイティブと呼ばれる2024年卒に特徴的な「就活における3つの新常識」の、2つ目「参加型コンテンツの新常識」、3つ目「志向性の新常識」について解説します。
2024年卒はちょうど今の時期、サマーインターンの時期を迎え、企業が開催するインターンやイベントにどんどん参加しているタイミングだと思いますが、このような参加型コンテンツの選択基準にも新しい傾向が見られます。
前回も解説したように、従来は、3年生の夏の時点では企業や業界のえり好みをせず、たくさんのイベントに参加し、そこから業界を絞って行く学生が多数派でした。しかし、2024年卒の早期層は、すでにこの時点で業界を絞ってイベントに参加する傾向が強くなっています。
それは、以下〈インターン/イベント選択基準〉のデータに顕著に表れていますが、2024年早期層のイベント選択基準は、「志望企業である」が半数以上、「志望業界である」に至っては、約80%です。
一方、コロナ以前との比較として2021年卒のデータを並べて掲載していますが、そちらに関しては「コンテンツが面白い」がトップで、業界にこだわらず、コンテンツの中身が面白ければ参加する、という学生が多かったのです。
つまり、コロナ以前は、企業はコンテンツをフックに学生を集めることができましたが、2024年卒に対しては通用しません。
また、コロナ禍で就活のオンライン化は進みましたが、オンラインで実施できるイベントの種類は限られているため、企業間のコンテンツの差別化ができていません。結果、学生たちは、同じようなコンテンツなら、名前を知っている企業、商品に馴染みのある企業を受けよう、とブランド認知の強い方へと流入する傾向にあります。
もう一つ、選択基準として「本選考に直結する」が2021卒は10%程度でしたが、2024年卒では、インターンやイベントを選ぶ時点で、半数以上が本選考を意識していることが分かります。
次に2023年卒と2024年卒早期層を比較した〈インターン/イベントコンテンツへの興味〉を見ると、両者ともに8割以上が「業務体験ワーク」を選び、2024年卒は9割近くに上っています。
この世代は就活定番の質問「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に対する回答を用意できずに悩んでいます。特に2024年卒は入学時から大学のオンライン化が当たり前で、授業を担当する教授とすら対面では会ったこともなく、サークル活動やバイトもできず、ガクチカにつながる経験そのものが乏しい学生が多いのです。それを補填するため、より実務的な「業務体験ワーク」のようなコンテンツを求める傾向があるようです。
一方、2023年卒と2024年卒で大きな差が見られるのが「野外フィールドワーク」です。これは、昨年に比べてワクチン接種も広がり、政府による行動制限も緩和されたことから、「屋外で体を動かしたい」「対面コミュニケーションを図りたい」という欲求の表れと考えられます。
秋以降には前回も触れた2024年卒の後発層が動きだし、同様に「ガクチカ」を補填できるイベントが人気を集めると予想されるので、企業はそれを前提にイベントの準備を進めるべきでしょう。
「就活における3つの新常識」の最後は、「志向性の新常識」です。
以前は、企業が「働きやすい環境」や「風通しの良さ」をアピールし、それに惹かれる学生が多かったのですが、最近では、「安定志向」「大手志向」への固執が見てとれます。
〈志望する企業規模〉についてのデータは、今年の4月時点で2024年卒を対象に調査したものですが、実に95%が「大手」を志望しています。この傾向は過去3年間でも強く、同様の調査において2022卒は88.4%、2023年卒は90%の学生が「大手志望」と回答しています。
以下のデータ〈キャリア選択で重視すること〉からも分かるように、2023年卒のトップにある「風通しの良さ」や「成長環境」よりも、2024年卒では、「安定性」や「年収の高さ」など、23年卒では挙がらなかった回答が上位に来るなど、明らかに安定を求める傾向が強くなっています。
まず要因として考えられるのは、「構造上の理由」です。つまりコロナ禍で情報の共有ができず、知識としてブランド認知のある大手企業しか知らないため、その中で志望先を絞る学生が増えているわけです。ソーシャルグラフと呼ばれる人間関係の繋がり、幅、数が極端に狭いので、価値観の異なる人と触れ合う中で「そんな観点があったのか」「そういう生き方もあるのか」という刺激を受けるチャンスもなく、視野が広がらない。就活において自分の軸を安定させていく上で大切な出会いや発見がなくて、就活が予定調和化しているのです。
そして、もう一つの要因が、第1回(「コロナ禍の2年間で就活はどう変化したか?--22卒、23卒、24卒学生の動向総まとめ」)で取り上げた就活サイクルの変化です。
以前は就活市場においてはおおよそ外資、ベンチャー、日系大手の順にイベントや応募受付などが開始されていました。その順番に就職活動をしていれば、志望意欲に関わらず様々な企業に出会うチャンスがあったのです。それが今では3年生の夏の時期にあらゆる企業が同時に動きだします。結果、最初の取捨選択のタイミングで日系大手のイベントにしか参加していなければ、結局最後まで日系大手以外に接触する機会がないというケースがままあるのです。
ここで、面白いデータをご紹介します。
「転職についての考え」を尋ねたところ、「1社目でなるべく長く働きたい」と答えたのは4分の1程度でした。「大手志向」「安定志向」は進んでいるのに、長く勤めるビジョンは持っていないという、面白い傾向が発生しています。
そして私は、この事実から、「大手志向」が進む逆風の中でも、ベンチャー、中小企業には大いにチャンスがあると考えています。つまり、何らかのきっかけで学生と接触し、将来の転職までも視野に入れた上での「大手にはない魅力」をアピールすれば、振り向かせられる可能性が十分にあるということです。
大手志向の学生に対し、「数年内に大企業規模まで成長します」と約束することは無茶ですが、例えば、「小さい会社ならではの柔軟な働き方で、様々なスキルや経験を短期間で伸ばせるし、早くから責任者としてのポストに就くチャンスもある。それを武器にゆくゆく大手に転職するというキャリアだって面白そうじゃないか」といったような口説き方が、特に響く世代なのかもしれません。
例えば実際に「3年でスキルを身につけて有名企業に転職した社員がいた」というような事例があれば、さらに説得力があります。ベンチャーや中小企業ではよく使われる口説き文句とも言えますが、きちんと情報収集をして多くのイベントに足を運び、納得した上での大手志望ではなく、大手以外を知らずに就活している学生には、この王道のセリフが例年以上に刺さるだろう、というのが私なりの判断です。
最後に、秋以降に心がけていただきたいのは、夏に学生の母集団を形成できていれば、それを継続的にケアすることです。
「接触済み学生へのフォロー」についての回答結果を見ると、「志望度が上がったフォローコンテンツ」として「社員/リクルーターとの面談」や「社員座談会」が上位に挙がっています。継続ケアをしないと翻意の可能性もあるので、対面で社員と触れ合えたり、社内の空気を味わえたりするようなフォローコンテンツを心がけてください。
さらに、秋以降は後発層も積極的に動き出しています。新しい母集団を作るために、イベントを継続し、募集を続けていることをアピールしましょう。
2021年6月に2023年卒を対象にしたアンケートで「現時点での第一志望、入社を決めた企業と最初の接点があった時期は?」の設問に対して最も多かった回答が「3年生の10月?12月」でした。特に2024年卒の後発層はこれから就活が始まるので、秋冬時期にしっかり学生と接触できるかが新しい母集団の形成には重要になってきます。
夏に形成した母集団をしっかりフォローし、秋冬で新しい母集団を作る。夏に十分な母集団ができなかった企業も、秋以降に魅力あるコンテンツを展開することで、第一志望の学生を獲得できる可能性が十分にあるでしょう。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。
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