第1回(「コロナ禍の2年間で就活はどう変化したか?--22卒、23卒、24卒学生の動向総まとめ」)、第2回(「『従来の就活』を知らない、コロナネイティブ学生(24卒)たちの就活動向最新レポート」)では、コロナ禍による新卒就活の変化と、コロナネイティブと呼ばれる2024年卒に特徴的な動向を説明しました。今回から2回に渡り、その詳細について、学生運営団体「キャリア教育支援NPO エンカレッジ」のアンケートデータをもとに、引き続き、草深生馬氏(くさぶか・いくま/RECCOO CHRO)が解説します。
今回から、コロナネイティブと称される2024年卒の就活動向について、私がCHRO(最高人事責任者)を務める株式会社RECCOOが独自に入手したアンケートデータをもとに、詳しく解説していきます。
このデータは、弊社が包括的提携を結ぶキャリア教育支援NPO エンカレッジの2021年卒から2024年卒の会員にヒアリングを行い、作成したものです。キャリア教育支援NPO エンカレッジは、47都道府県の大学に支部を持ち、2022年卒約8万人、2023年卒約10万人が登録、大学生の約4人に1人が利用する団体です。「全ての就活生が、キャリアを通して人生を最大化することを目指す」というビジョンのもと、様々な就活期のキャリア支援サービスを提供していますが、偏差値上位校の学生比率が高いことでも知られています。
「3つの新常識」のひとつめは、第2回(「『従来の就活』を知らない、コロナネイティブ学生(24卒)たちの就活動向最新レポート」)でも軽く触れた通り、就活スケジュールに従来とは異なる大きな変化が見られること。特徴は、「二極化」で、早期に動く層と秋以降に動く層に分かれ、その開きが今まで以上に大きくなっています。
今までは、3年生の夏がキックオフの時期で、その頃に企業がインターンシップを開催し始め、ゆるやかに就活がスタート。秋にも様々なイベントが行われ、学生たちもだんだんアクティブになっていく、それがスタンダードな動きでした。
もちろん、昨年(23卒)までも2年生からインターンシップに参加するなど、早くからアンテナを張って就活する学生も少なからず存在し、「就活の早期化」がここ数年、キーワードの一つになっていたことは確かです。ただ、2024年卒にはスタートが非常に早い層がいる一方で、かなり遅れてスタートする層もボリュームが大きくなる、極端な二極化が見られるのが注目したいポイントです。
弊社が「キャリア教育支援NPO エンカレッジ」の学生へのヒアリングを元に作成した、以下の〈コロナ前前後の就活スケジュール比較〉を見ると、コロナ以前の学生は、3年生の6月頃から自己分析やサマーインターンに取り組むことで就活をスタートしています。一方でコロナ禍を経て、2024年卒の中でも、特に早期層は、実際のところ2年生の11月にはすでに就活を始め、夏よりも前にインターンなどにも参加しているのです。
<コロナ以前>
<コロナ以降(2024卒)>
こういった背景から、2024年卒は、3年生の秋冬を待たず、夏インターンで内定を受諾して、そのまま就活を終えるようなケースも増えるかもしれません。
こちらのデータは【23/24卒比較】就活の情報収拾開始時期について、2023年卒全体と2024年卒の早期層を比較したものですが、2024年卒の就活の早期化が一目瞭然です。
次に以下のデータ〈志望業界/企業を絞る時期〉を見て下さい。就活生が、自分はどういう業界や企業に関心があるのかについて選択肢を絞り始める時期は、2023年卒では「3年8月以降」の回答が圧倒的に多い。ところが、2024年卒では「3年4〜5月」以前。これは3年生の新学期に当たります。つまり2年生の時に過半数の学生が業界を、約4分の1が企業を絞っているわけです。
この「業界、企業を絞る時期の早期化」もコロナネイティブの特徴です。
また、別のデータでは、3年生4月の時点で「志望業界がまだ決まっていない」と答えた2023年卒は54%であったのに対して、2024年卒は20%程度でした。今後、就活が進むにつれて、志望先が変わる可能性はありますが、それでも4月にひとまず志望業界を決めている学生が増加しているのは確かです。
従来、学生たちは夏に多くのインターンやイベントに参加します。そこでは、「関心がなかったイベントにも顔を出してみると、予想以上に面白くて興味が湧いた」というような体験が珍しくありません。そうやって視野を広げ志望先を取捨選択していくのが就活の健全なスタイルです。ところが24年卒の早期層は、夏前に志望先を絞り、限られた数の企業イベントにしか参加せず、セレンディピティ的な出会いを減らしてしまっている傾向があります
二極化のもう一方、後発層については、この原稿が掲載される頃からどんどん動き出す時期ですので、まだ明確なデータは取れていませんが、先にご紹介した〈【23/24卒比較】就活の情報収集開始時期〉から、ある程度予測できます。
データを見ていただくと、23卒においては「3年の8月以降」の回答が2023年卒の20%を占めていますが、2024年卒はこれ以上に8月以降に動き出すボリュームが増えると予測されます。背景として、オンライン化の整備が進み、自宅にいながら就活できる仕組みがほぼ完成しているため、大学の友人や先輩らとの情報共有や、対面でのふれあい、ランダムに情報が飛び交う場に出かける機会がほとんどありません。その結果、夏期の就活市場に大きなチャンスがあることに気づかず、就職活動の優先順位を落としている可能性が高いのです。
また、「就活習熟度」の観点から考えても、早期層がそれほど習熟度の高い状態で、企業を絞っているようには見えません。
「就活習熟度」とは、様々な企業イベントへの参加や、人事担当者やその他社員との関わりを通して情報を吸収し、それらを咀嚼し取捨選択することで、自分自身で就活の軸を定め、その上で意思決定ができる度合いのことです。コロナネイティブの学生はそれを身につけないうちに頭でっかちの状態で業界や企業を絞っているように見えます。
弊社のイベントに参加した企業の人事担当者に話を伺うと、2024年卒は「消極的な学生が多い」、「選考に受かることばかりにこだわる」、「採用対策に役立つイベントへの反応が高い」という声が聞かれます。
企業側は、「なぜその企業に興味を持ったのか?」、「将来どんなことをやりたいか?」というような抽象度の高い質問をぶつけて、学生の熱意や情熱の度合いを測り、入社のモチベーションを探ります。ところが、学生側は「企業を知りたい」「自身の情熱をぶつけたい」という姿勢よりも、タスク処理のように就活をして、企業を攻略するゲームをしているというきらいさえあります。
2024年卒の早期層は早く動き出したにも関わらず、限られた情報に基づき頭でっかちの状態で意思決定してしまうことで、まだ就活の軸が固まりきっていない、いわば未熟な状態で秋を迎えます。一方、後発層は夏まで何もアクションを起こしていないので、当然、ここからがスタートという状態です。
結果として、企業側は秋以降に接触する学生が、例年に比べて「しっかりしていない」という印象を持つかもしれません。ただ、自分の就活の軸が定まっていない学生が多いので、逆に新しい発見や体験によって気持ちや考え方が変わることも十分にあります。企業は秋以降も積極的に学生と接点を持ち、自社の魅力をアピールし続けていくべきでしょう。
次回は、コロナネイティブ学生の「就活における3つの新常識」の2つ目、3つ目について、解説します。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。
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