英国議会委員会は5月、キッズインフルエンサーに関する報告書を発表し、法整備が「緊急に必要」であり、すべての親が子どもの最善の利益のために行動しているとは限らないと主張した。
同報告書のサマリーには、「委員会は調査を進める過程で、インフルエンサーエコノミーに参加している子どもの一部は、この収益性の高い市場から利益を得ようとしている親や親族に利用されている、という懸念を耳にした」「子どもに関するコンテンツを投稿することは、子どものプライバシーに影響を与え、セキュリティ上のリスクをもたらす可能性もある」と書かれている。
しかし、委員会で証言した英National Network for Children in Employment and Entertainment(NNCEE:エンターテインメント業界で働く子どものための全国ネットワーク)の会長Ed Magee氏は、政府が近い将来に何らかの規則を導入するという話は聞こえてこないと言う。
英デジタル・文化・メディア・スポーツ省の報道官は、委員会が提出した報告書への対応について、具体的なスケジュールを一切明らかにしていない。報道官は委員会の活動に感謝した上で、「調査結果は検討中であり、適時に対応していく」と述べるにとどまった。
キッズインフルエンサー産業が確立されている米国でも、対応は遅れている。今のところ、目立った立法化の動きはワシントン州議会に提出されている、ソーシャルメディアで働く子どもを保護する法案だけだ。
この法案の序文には、「こうした子どもたちは、コンテンツへの関心と収益を生み出しているが、自身の参加に対する金銭的対価は受け取っていない」「子役と異なり、この子どもたちは演技の仕事をしているわけではないため、法的な保護が適用されない」と書かれている。
同法案は1月に提出されたが、まだ議論は初期段階にある。さらに、可決されたとしても、保護されるのはワシントン州の子どもだけだ。
「現時点では、実効性のある包括的な規制は存在しない。それどころか、営利目的のシェアレンティングの対象となっている子どもたちは、『児童のパフォーマンス』という児童労働に従事している、ということさえ定義されていない」とPlunkett氏は述べる。「米国は無法状態だ」
この分野に規制を導入している国は、世界の中でもフランスだけだ。フランスでは現在、子どもがキッズインフルエンサーとして活動する場合はライセンス登録をしなければならず、演技やモデルの仕事に従事している子どもと同じように、報酬は子ども自身の銀行口座に振り込むことが義務付けられている。子どもがこの口座にアクセスできるのは16歳になってからだ。
法案を作成したBruno Studer議員は、支持を得るのは難しくなかったとインタビューで語っている。同法案は広範な支持を得て2020年10月に成立した。
同法は成立から間もないため、その有効性はまだ検証されていないが、現時点で参考になる唯一のモデルとなっている。Studer氏は、世界初の法律を成立させたことを誇りに思うとした上で、この法律が今後どのように適用され、他国がどのように反応するかを注視していきたいと述べた。
マーストリヒト大学法学部のCatalina Goanta准教授は、「法的観点から言うと、今回の改革は欧州はもちろん世界的にもユニークなもので、多くの国が参考にしている」と述べたが、その有効性については、「今後の実施状況と評価結果にかかっている」と付け加えた。
親は子どもを昼夜を問わず、何時間でも働かせることができるという考え方は、児童労働の規制に取り組む人々が特に警戒しているものだ。Magee氏は、キッズインフルエンサーの多くは学校に通わず、ホームスクールで学んでいる傾向があるため、子どもが過剰労働を強いられていても、その事実を指摘できる人が身近にいないことを問題視する。
「周囲が気付かないうちに、過剰労働が続く可能性がある」とMagee氏は言う。
ソーシャルメディアのコンテンツ制作は即興で行われることも多いため、子役などに適用されている厳格な法律をキッズインフルエンサーにそのまま適用することは必ずしも現実的ではないとMagee氏は言う。
「柔軟な発想が必要だ。これまでのライセンスとは少し違う、キッズインフルエンサーに特化したライセンスを新設することで、子どもたちを守れる可能性がある」
もう一つの大きな懸念は報酬のゆくえだ。ソーシャルメディアで活躍する有名インフルエンサーは、数億円とまではいかなくても、数千万円を稼ぎ出す。自分が親、特に一人親の場合、子どもの動画を投稿することで世帯収入を大幅に増やせる可能性あるとなれば、目がくらんでもおかしくはない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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