シャープ 社長兼CEOの呉柏勲(Robert Wu)氏は8月8日、社内イントラネットを通じて、CEOメッセージを配信した。4月にCEOに就任してから、4回目のメッセージとなる今回は、「“節流”を徹底し、筋肉質な経営体質を構築していきましょう」と題した内容となった。
最初に触れたのが、8月5日に発表した2022年度第1四半期決算(2022年4~6月)である。中国ロックダウンやサプライチェーンの混乱、ウクライナ情勢、円安などの厳しい外部環境の影響を受けており、最終利益はSDP(堺ディスプレイプロダクト)の完全子会社化の影響で前年同期比増益となったが、売上高、営業利益、経常利益は前年同期を下回る結果となったこと、セグメント別では、ビジネスソリューション事業の伸長により、8Kエコシステムが増収増益となった一方で、スマートライフが横ばい減益、ICT、ディスプレイデバイス、エレクトロニックデバイスはそれぞれ減収減益となったことを報告した。
呉社長兼CEOは、「今回の決算は、新経営体制下における最初の決算となった」としながら、「第1四半期は、通期業績予想からはおおむね想定内の着地ではあるが、非常に厳しい結果であり、先を見通すことが難しい。足元の事業環境を踏まえると、公表値の達成に向けては、第2四半期以降は、より一層の努力が必要である。中国ロックダウンの生産影響はすでに正常化するなど、回復の兆しも見えつつあり、今後も『海外事業の強化』『新規領域の拡大』『リスクへの対応』に重点的に取り組むとともに、全社をあげてSDPの経営改善を加速し、早期の業績向上を実現しよう」と呼びかけた。
また、SDPの連結化や事業環境の変化などを受けて在庫が増加。現在、適正化に向けた取り組みを強化している点にも触れ、「各事業責任者は、高い意識を持ってISPI管理の徹底や『罪庫』の削減に取り組んでほしい」とした。
ここでいう「罪庫」とは、販売量や生産量において適性に管理が行われている「在庫」に対して、適性を超える悪い在庫のことを指している。在庫と罪庫という言葉を使い分け、適正量を上回る罪庫の削減を課題にあげた。
2つめは「開源節流」である。開源節流は、2022年6月に会長兼CEOを退任した戴正呉氏がシャープ社内に向けて発信していた言葉で、「開源」は水源を開発すること、「節流」とは水の流れる量をしっかりと調節することを意味し、健全な財政を、川の流れに例えた言葉である。
呉社長兼CEOは、7月4日から5日間に渡り、各事業本部や子会社を対象にした「開源節流会議」を開催し、「いまのシャープには、足元を生き抜くための“改善”ではなく将来を見据えた“改革(イノベーション)”が重要であるということを徹底し、それぞれの取り組みの進捗状況の確認と、見直しの指示を行った」と報告。「ここ数年、予期せぬ環境変化が次々と生じており、シャープの業績にも大きな影響が出ている。持続的に収益をあげていくには、“節流”を徹底し、事業の損益分岐点を引き下げ、たとえ売上高が大幅に減少しても耐えられる筋肉質な経営体質を構築しなくてはならない」と述べた。
また「2016年以降、抜本的構造改革を断行してきたが、先送りしたままになっている課題や、事業環境の変化によって新たに顕在化しつつある課題、これまでとは目線を変えることでさらなる改革ができる課題など、取り組むべきテーマはまだまだある。こうした課題を抽出し、具体的アクションに落とし込むために、まずは費目ごとに10%、20%、30%と挑戦的な削減目標を掲げ、日々のオペレーションからビジネスモデルに至るまで、ありとあらゆる視点で、自らの事業をいま一度見直してほしい」と要望した。
また、“開源”については、「4象限経営を実践し、早期に新たな売上げ、利益を創出していくことが重要である。とくに海外には、シャープにとってビジネスチャンスが多分に残されている。顧客志向の発想で、各国や地域のニーズを捉え、シャープならではの特長商品やサービスの創出、空白市場の開拓を加速することで、さらなる事業拡大を実現していこう」と呼びかけた。
4象限経営とは、「開源節流」と同様に、戴氏が打ち出していた経営の考え方であり、永続的なトランスフォーメーションに向けて、「既存事業の維持、強化」の象限から、商品・サービス軸と、顧客・マーケット軸の2つの軸で取り組みを広げ、「商品のアップグレード」「市場のエクスパンション(拡張)」「新規事業の創出」につなげることを指している。
さらに、今回のメッセージでは、「次の成長に向けたシーズの開発も、早急に取り組むべき課題のひとつである」とし、「今後は、各事業の2~3年後を見据えた技術開発に加えて、デジタルヘルスケアやカーボンニュートラルなどの新たな経営方針に沿った中長期視点での要素技術や、ソフト技術の研究開発を、より一層強化し、特長ある新規事業を創出できる基盤を構築していきたい」とした。
その上で、「“開源節流”の取り組みは、単なる円安や市況悪化に対する挽回策の検討ではなく、シャープの持続的成長に向けた経営改革そのものである。各事業責任者は、いま一度、これを肝に銘じ、決心とスピードをもって、改革をリードしてほしい。それによって、経営計画の達成はもとより、さらなる業績向上へとつなげていこう」と述べた。
8月4日に、米シンシナティ大学の名誉教授であるジェイ・リー博士を、大阪・堺市のシャープ本社に招き、講演会を開催したことについても触れた。ジェイ・リー博士は、産業分野において、ビッグデータを用いた故障予測や健全性管理の第一人者であり、これまでにもさまざまな業種の世界的企業をサポートした経験を持つ。
今回の講演会は、シャープの各拠点とテレビ会議を接続。企業がイノベーションを実現していくためには、顧客価値をゴールに置き、データをもとに、ゴールと現実との間にある、まだ顕在化していないギャップを見つけ出すことが大切であることを、さまざまな具体的事例を用いて示されたという。
「これは、すべての事業に通じる考え方であり、とくに、シャープが、ハードウェアからシステム、ソリューションへと事業を変革していく上で、極めて重要な視点である。各事業本部や子会社においては、今回の講演の内容を参考に、いま一度、顧客への提供価値を掘り下げ、関連するデータをしっかりと分析し、新たな事業の創出へとつなげてもらいたい」と、講演の成果をビジネスに生かすことを促した。
また、呉社長兼CEOは、「今後は、研究機関や大学など、さまざまな分野における専門家の方々との連携を深めることで、彼らの深い知見や広い視野を貪欲に吸収し、シャープの次の成長に向けた力に変えていきたい」と、次の取り組みにも意欲をみせた。
最後に、呉社長兼CEOは近況について報告。「現在、ASEANに出張しており、今後、ベトナム、フィリピン、インドネシア、シンガポール、タイ、マレーシアの各拠点を視察するとともに、政府機関や顧客とのミーティングを行う予定である。日本では今週木曜日から夏季休暇に入るが、この休暇中、新型コロナウイルスへの感染に十分に気を付けつつ、しっかりと英気を養ってほしい。連休明け以降、再び、シャープの総力を結集し、業績向上に邁進しよう」と締めくくった。
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