五島の病院などに時速100キロ超で薬をドローン配送--日本初上陸の「Zipline」を現地取材 - (page 2)

配送拠点の設備構成は?

 こうした拠点の設備は、Ziplineがアフリカで使っている技術をそのまま五島に移植したという。設備の構成は、ローンチャー、リカバリーシステムのほかに、パワーアンドネットワークコンテナ、コミュニケーションタワー、チャージャーなどがある。

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パワーアンドネットワークコンテナと、すぐ左横に立っているのがコミュニケーションタワー
パワーアンドネットワークコンテナと、すぐ左横に立っているのがコミュニケーションタワー

 パワーアンドネットワークコンテナは、電力と通信の設備が統合されたコンテナで、電柱から供給された電力を230Vで分電して各設備に送電する分電盤や、サーバーもこの中に集約されている。特別にコンテナ内にも入室する機会を得たが(コンテナ内設備の撮影は不可)、この設備の据え付けを担当したZipline技術メンバーらのサインが、コンテナ内部の壁に残されていた。

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コンテナ内部の壁に書かれた技術メンバーたちのサイン

 コンテナのすぐ左横には、コミュニケーションタワーが立っている。コミュニケーションタワーには、モバイル通信設備や、RTK-GNSS基地局も設置されている。コンテナ内のサーバーとつながったコミュニケーションタワーは、リカバリーシステムとも有線接続されており、機体を回収する際の緻密な作動を実現している。

リカバリーシステムにワイヤーが張られているところ
リカバリーシステムにワイヤーが張られているところ
リカバリーシステムの支柱からワイヤーを送り出す
リカバリーシステムの支柱からワイヤーを送り出す

 設備然り機体も、当然定期的なメンテナンスが重要になるが、いまのところ大きなトラブルはないという。その理由は大きくは3つだ。

 1つめは、機体も設備も、日次と月次の点検ルールが明確に定められており、本家Ziplineメンバーが不在でも、整備実施が可能であること。

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点検に使用する工具もセットされている

 2つめは、Ziplineが社内で定めたフライトオペレーション、メンテナンスなどの各種研修と資格試験を、日本の豊田通商メンバーが受講し合格して、知見を持ち帰っていること。

Ziplineで研修を受講した、そらいいなの松山氏と土屋氏(豊田通商から出向)
Ziplineで研修を受講した、そらいいなの松山氏と土屋氏(豊田通商から出向)

 3つめは、万が一運用中に不具合が見つかったとしても、マニュアル通りに対応すればトラブルシューティングできる。それでもダメならモジュール単位で部品を交換するだけで通常のオペレーションに戻れるほど、Ziplineの技術が磨き込まれていることだ。

リカバリーシステムを機能させる制御機器が格納されたボックス。同じものが2台並んで設置されており、1台は予備
リカバリーシステムを機能させる制御機器が格納されたボックス。同じものが2台並んで設置されており、1台は予備

 なお、現在もZiplineとは週次で定例会を持つなど、良好な関係を継続しているという。Zipline側からしても、初の他社への技術提供で、この座組みが上手くまわれば、さらなるグローバル展開の足がかりとなる。

まずは「1日20〜30回」のドローン配送を実現する

 目下の目標は「五島列島でのB2B医療用医薬品ドローン配送を1日20〜30回実施」することだ。すでに、奈留島の薬局・医療機関への配送では、薬局・医療機関側にマニュアルを渡してオペレーションを始動しており、薬局側も2〜3回目ですぐに慣れることができた様子だという。

 また、新上五島町の薬局への配送も、試験飛行を始めたところだが、「これまでの船便では、注文してから翌日以降の配送になることも多かったが、即日薬が届くだけでも非常に役立つ」と好感触だという。

 ハードルになるのは、技術ではなく主に規制だ。たとえば現在、「劇薬」カテゴリの薬には、配送ニーズの高い薬があるにも関わらず、「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」で「社会実装」に関して許可も禁止もされていないため、“グレーなだけに飛ばせない”のが実情だ。また、「レベル4」と呼ばれる有人地帯上空の補助者なし目視外飛行が認められるまでは、迂回して無人地帯上空を飛行する必要があるなど、配送効率改善の余地も残る。

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 今後は、規制緩和の“追い風”に乗って、B2B医療用医薬品ドローン配送における取り扱い品目の拡充を図りつつ、取引先となる病院や薬局を増やしていく構えだ。とはいえこれまでも、医師会・薬剤師会、行政、病院や薬局、地元の住民、医薬品卸会社など、さまざまなステークホルダーと膝を突き合わせて、社会実装を推進してきた。豊田通商のDNAを受け継いで、そらいいなも現場に寄り添い、“無理や無茶はしない”で安全かつ着実に取り組んでいくという。

 ちなみに、そらいいなの社長には、Ziplineを発掘し協業を推進してきた松山ミッシェル実香氏が、出産を経て五島に子連れ移住し就任した。豊田通商が大切にしている “現場でともに汗をかく”を体現したエピソードのひとつだろう。取材記事2本目では、豊田通商から「そらいいな」を誕生させたキーマンたちのインタビューをお届けする予定だ。

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