五島の病院などに時速100キロ超で薬をドローン配送--日本初上陸の「Zipline」を現地取材

 アフリカのルワンダなどで、固定翼型ドローンを使って、病院向けに輸血用血液製剤などを配送している「Zipline(ジップライン)」。カタパルトから勢いよく発射される離陸の瞬間や、ワイヤーを使ってキャッチするドローンの回収方法がユニークであることで知られているが、このZiplineが2022年に日本に初上陸していることをご存知だろうか。

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豊田通商のZiplineチーム

 ルワンダでは1年365日、各地の病院から依頼がくると、ドローンが血液パック(輸血用血液製剤)を積んで病院へ飛び立っていく。病院上空に到着すると、血液パックを入れた箱を空から投下して、パラシュートでゆっくり安全に地上へ届けている。

 CNET Japanは2020年に、ルワンダから現地レポートをお届けしたが、今回は長崎県五島市で始まった、医療用医薬品B2Bドローン配送事業を現地取材した。フライトの手順、発射や着陸の仕組み、施設設備の構成など、Ziplineから日本に“移植”された最新技術を紐解く。

Ziplineの固定翼型ドローン
Ziplineの固定翼型ドローン

Ziplineが「日本」にやってきた理由--初の技術提供も

 Ziplineは米国発のスタートアップで、アフリカのルワンダとガーナなどを拠点に事業を展開している。日本とのつながりは2018年6月、豊田通商が事業会社としては初めてZiplineへ出資したことに遡る。

アフリカのルワンダで展開されているZipline
アフリカのルワンダで展開されているZipline(2020年2月に撮影)

 実は、Ziplineが2019年にガーナへ進出した際も、ガーナに医薬品卸の関連会社を持っている豊田通商のグループ会社が、協業を行っていたという。Ziplineはガーナにおいても血液製剤のほか、医療用医薬品やワクチンを配送している。

 日本では同じころ、中山間地域や離島地域の物流課題が顕在化し、ドローンを活用して解決を図る実証が各地で始まっていた。なかでも五島市は、2018年度から「五島市ドローンi-Landプロジェクト」として、ドローン物流の実証事業を実施しており、豊田通商はここに着目したという。

 2021年3月30日、豊田通商とZiplineは、日本市場でのドローン物流サービスの社会実装を目的とした戦略業務提携契約を締結。4月1日、豊田通商は100%子会社「そらいいな」を設立した。

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五島福江島にある「そらいいな」のオフィス

 さらに2022年4月21日、そらいいなはドローン発着拠点を竣工。5月には、そらいいなが、Ziplineの技術と機体を用いて、また五島市に拠点を置く医薬品卸会社からの委託を受けて、五島列島の医療機関や薬局へ医療用医薬品をドローンで配送する座組みでサービスを開始した。これは、Ziplineが他社に技術提供する初のケースとなった。

 2022年8月1日現在の飛行回数は150回以上、飛行距離は5800km以上(試験飛行も含む)。五島市がある福江島に、Ziplineの技術を移植した設備をつくり、福江島の二次離島である奈留島へ医療用医薬品を届けているほか、五島列島で2番目に人口の多い新上五島町への試験飛行も開始しているという。

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数多くの機体が並んでいる

注目のフライトと飛行手順

 早速、現地でフライトを見せてもらった。ローンチャーと呼ばれる発射台に機体を置き、ボタンを押すだけであっという間に固定翼型のドローンが飛び立っていった。最高時速は130km/h、巡航速度は100km/hだという。詳しく飛行手順を紹介しよう

 まず、パラシュートが付けられた専用の箱に、荷物を入れて荷造りを行う。

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 そして、箱についているQRコードをZipline専用アプリで読み込み、続けて機体のQRコードを読み込んで、荷物情報と機体をソフトウェア上で紐付ける。パラシュートに異常がないかを目視点検してから、荷物を機体の胴体部分に格納する。

 この状態ではまだ、機体は胴体と翼が分かれている。荷物を格納したら、まずは胴体をローンチャーに乗せる。翼を搭載するのは、そのあとだ。

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 発射準備は2名体制で行い、1名が機体をローンチャー上に乗せた後、もう1名が翼を機体に備え付ける。次に、バッテリーを搭載すると、機体の電源が入って、自動航行が有効化される。バッテリーにはSDカードが内蔵されており、この中に行き先や航路などのフライトミッションが書き込まれているという。

充電が完了したのバッテリーは青いランプ点灯している
充電が完了したのバッテリーは青いランプ点灯している

 このタイミングでもう一度、機体のQRコードを読み込み、ローンチャーの向きを示すQRコードを読み込むと、「荷物」「機体」「飛び立つ方向」「飛行経路」が全て紐付けされた状態になり、自動で飛行前点検が始まる。

 ソフトウェアで数十項目をチェックするのと並行して、フライトオペレーターが2名1組で羽やプロペラをはじめハードウェアに破損などがないかを点検する。2名の役割分担は、明確にマニュアルで指示されている。1名は、機体の周りをぐるりとまわり全項目点検、もう1名はその中でも特にクリティカルな4項目をチェックする。

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 ソフトとハードの点検が両方終わると、フライトオペレーターが管制官に離陸の許可を仰ぐ。管制官は、補助者と連携して周辺の安全確認を行い、拠点に備え付けられた風速計で風向きと強さを確認し、問題なければ離陸の許可を出す。最後はオペレーターが離陸ボタンを押すと、ローンチャーからドローンが飛び立っていく。

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 取材当日は、離発着拠点から目視で確認できるポイントで、上空から荷物を投下してもらった。実際に配送では、無人地帯上空を通過して、あらかじめ指定した半径約10mの空き地などの上空へ到達し、そこから荷物を投下するという。

 荷物投下後は、ドローンがリカバリーシステムと呼ばれる着陸施設へ戻ってくるが、着陸の仕組みはユニークだ。リカバリーシステムの細いワイヤーに、機体の尾翼にある2cmほどのフックを引っ掛けて、飛行停止させた上で機体を回収するのだ。

 このため、上昇下降のための回転翼を備えていない固定翼機を、限られたスペース内で効率よく着陸させられる。機体回収では、緻密な制御が求められるが、リカバリーシステムと機体がRTK測位を用いた位置情報を双方向に通信することで、ドローンが着陸するまで飛行経路を微調整し続けるという。

 リカバリーシステムで機体を回収したら、フライトオペレーターがワイヤーから機体を降ろしてバッテリーを外し、チャージャーで充電する。

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