ソフトバンクは8月4日、2023年3月期第1四半期決算を発表。売上高は前年同期比0.4%増の1兆3620億円、営業利益は前年同期比12.7%減の2471億円と、増収減益の決算となった。
同日に実施された決算説明会で、同社の代表取締役社長執行役員 兼 CEOである宮川潤一氏はその詳細について説明。行政による携帯電話料金引き下げの影響が引き続き業績にマイナスの影響を与えている一方、他の事業がカバーして売上高は増益を維持。営業利益は、法人事業が2022年度の一時的な増益影響をカバーできず減益となるなどで全ての事業が減益となったが、通期業績予想に対しては順調な進捗だと話す。
携帯電話を主体としたコンシューマ事業は料金引き下げの影響から売り上げ、利益ともに減少するなど非常に厳しい環境にあるが、宮川氏は、年間900億円と見込む料金引き下げ影響のうち、今四半期で約250億円の影響が出たと説明。その上で、料金引き下げの影響について「ピークを迎えてきたと思っている。後半に向けて徐々に減っていくと予想している」と話しており、今後業績の巻き返しが期待できるとした。
その基盤となるスマートフォン契約数は2022年度比で7%増加しているが、とりわけ今四半期は純増数の伸びが非常に好調だったとのこと。実際スマートフォンの純増数は2022年度比36%増の35万、携帯電電話などを含む主要回線の純増数は2022年度比11倍の13.8万に伸びているという。
宮川氏は、その背景にある1つの理由として、楽天モバイルが2022年7月から月額0円で利用できる仕組みを廃止したことを挙げる。月額0円廃止の発表以降、楽天モバイルからの転入が増えており、その中心は「ワイモバイル」である一方で、オンライン専用の「LINEMO」も獲得に大きく貢献しているとのこと。宮川氏は「従来のLINEMOの純増よりも角度高く増え始めている」と、楽天モバイルの影響がLINEMOにプラスに働いている様子を示した。
そしてもう1つは、やはり2022年7月頭にKDDIが発生させた通信障害の影響である。この通信障害の発生以降解約が減少し、「われわれから(KDDIに)番号ポータビリティで移った絶対数がぐっと圧迫された」と宮川氏は話している。ただいずれも影響は一時的なものである可能性があるだけに、「もう少し長い目で見ないといけない」と、今後の動向を見極める必要があるとも語った。
純増が好調でも解約率の水準は変わっておらず、その理由について宮川氏は、2021年に実施されたSIMロック原則禁止などの影響により、携帯3社間での流動性が高まっていることを挙げている。宮川氏はスマートフォンの利用者を増やし、ZホールディングスやPayPayなどスマートフォンと親和性の高いグループ企業とのシナジーを高めることで収益を上げていく考えを示したほか、ソフトバンク自身でも今後「新しいメニューを作ってARPUを反転させに行く」考えがあることを明らかにした。
そのPayPayに関してソフトバンクは、2023年度中の連結子会社化を既に発表している。決算説明会ではその具体的な方向性と、PayPayの今後に向けた取り組みについても明らかにされた。
これまでソフトバンクはPayPayを“事業成長期”と位置付けて事業成長を重視した戦略を取ってきたが、その結果2023年の四半期にはユーザー数が4800万人、決済回数が11.1億回に達し、コード決済の国内市場シェアでは7割近くを占めるなど圧倒的な地位を築いたという。そこで宮川氏はPayPayに関して今後、「種まきからマネタイズへと移行したい」と話す。
そのためには、ソフトバンクとZホールディングスが持つ顧客基盤やサービスをPayPayと連携することが重要であると説明する。ソフトバンクに加えZホールディングス傘下のヤフーやLINEが持つ顧客基盤を活用して経済圏を拡大し、グループの事業成長につなげていく考えだ。そこで連結化に当たっては、ソフトバンクとZホールディングスが中間持ち株会社を設置、PayPayがその子会社となることで2社による共同経営の形を取るとしており、実施は2022年10月1日を予定しているとのことだ。
さらに宮川氏は、PayPayの連結化後、ソフトバンクの事業セグメントにコンシューマ事業や法人事業などと並んで、新たに金融事業を追加する予定であることも明らかにした。詳細は今後明らかにしていくとのことだが、金融事業について宮川氏は「できればわが社の屋台骨になっていって欲しい。イメージとしては(事業の)3分の1くらいの規模間になって欲しいと思っている」と、強い期待を寄せている様子を見せた。
一方、赤字が続くPayPayの上場タイミングについて宮川氏は、現在の市場環境で上場するのは好ましくなく、「黒字化したタイミングで上場した方がいいとアドバイスしているのは事実」と話した。宮川氏はこれまでPayPayに攻めの姿勢を求めており、その姿勢は現在も変わっていないというが、PayPayの事業が好調なことから「攻めながら黒字化するぎりぎりの範囲までコントロールすることは、どこかでやるつもり」と、上場を見据えて黒字化に舵を切る可能性も示唆した。
記者からはKDDIの通信障害に関する質問が多く挙がっていたが、宮川氏は「高橋社長(KDDI代表取締役社長の高橋誠氏)は立派に答えて安心感があった」と評価する一方、「いつどこで同様のこと、もしくは違った事象も起き得ることが十分考えられる」と、改めて通信障害に対する危機意識を強めたとのこと。そこで同社内でも対策チームを設け、ネットワークの見直しなどを進めているという。
また、通信障害発生時に他社のネットワークを融通するローミングに関して、総務大臣の金子恭之氏が実現に向けて議論を進める旨の発言をしたことが話題になっているが、宮川氏は2018年に同社が発生させた通信障害の際に、導入の検討に言及したこともあって「何故進まなかった、と反省している。もっと継続して話を続けるべきだったと思う」と、議論や導入がまだ進んでいない現状を悔やむ様子を見せた。
現在は2018年当時よりもモバイル通信、そしてスマートフォンの社会的重要性が高まっているが、宮川氏が中でも重要としたのは認証と決済である。それは具体的には本人確認などの二要素認証などで用いるSMSや、「PayPay」をはじめとしたスマートフォン決済が日常に浸透しているためであり、「本当に119番や110番の(緊急)通話を確保するだけで世の中のパニックが収まるかというと、残念ながらあまり機能しないと思う」と説く。
その上で宮川氏は、個人的な考えとしながらも具体的な実現方法について「ソフトバンクがNTTドコモやKDDIからMVNOのような構造で(ネットワークを)借り受け、緊急事態には切り替え可能になるようなeSIMのようなものを用意しておく」というアイデアを披露。ローミングする各社の負担を増やし“共倒れ”にならないためにも、音声通話とウェブやLINEなどが利用できる300kbps程度の最小限のデータ通信を確保できる仕組みを、今後の議論の中でも提案、検討したいと語った。
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