欧州のスタートアップへの資金調達総額は2021年に1160億ドル(約15兆円)に達し、2021年比159%増と飛躍的な伸びを見せた。TechCrunchの報道によれば、欧州全体のユニコーン企業数は323にものぼるという。
北欧ではスウェーデンがスタートアップ市場をリードしており、2021年にはスウェーデン全体で市場に80億ドル(約1兆550億円)が投資された。「進化する北欧イノベーションの今」を届ける本連載。今回は、北欧地域で次にユニコーンになることが期待されている「ネクストユニコーン企業」に注目し、ビジネス戦略を掘り下げたい。
取り上げたのは、2009年創業、自然光、人工光を問わず、効率的に発電する太陽電池を開発するスウェーデンの「Exeger(エクセジャー)」。アディダスを含む大手企業とも提携し、2022年3月に1億7890万スウェーデン・クローナ(約23億円)の資金調達を実施。2019年にはソフトバンクグループも出資しており、その子会社のSBエナジーとは戦略的パートナーシップを締結している。ユニコーン間近のExegerの独自性とは——。
Exegerが10年を超える研究により開発した特許取得済みの太陽電池「Powerfoyle」は、室内光でも効率的に充電できること、多様な形状や色彩にプリントできることを強みとする。
日本でも蛍光灯の下で充電できる太陽電池は開発されているが、発電量が乏しく実用的ではないものが多いようだ。ところが、Powerfoyleは自然光、人工光を問わず、周囲の光条件に効率的に反応し、さまざまなデバイスで発電ができる色素増感型太陽電池だという。
今回、Exegerにコメントでの取材を実施した。担当者は、「世界には晴れの日が少ない国も多く、ほとんど日が当たらない国もある。Powerfoyleは、ソーラーパワーの意味を完全に再定義した。Powerfoyleのような太陽電池は市場には存在しない。当社の特許技術により、屋外の太陽光でも屋内の天井の照明でもデバイスを充電できる」と自社素材の強みを話す。
発電の効率性に加えて、デザイン性を損なわずに製品にシームレスに組み込むことができることも、Powerfoyleの特徴だ。レザー、カーボンファイバー(炭素繊維)、木材など、100種類以上の異なるパターンとテクスチャがあり、製品デザインに美しく溶け込む。
スウェーデンに自社工場を持つExegerは、2021年11月、2つ目となる自社工場をストックホルムに建設したことを発表した。最大250万平方メートルの太陽電池を生産できる規模があり、大幅に増えている需要を満たすこと、製造上の障害にも耐えうることを目的としているという。担当者は「Exegerの未来にとって重要なステップだ」とコメントを寄せた。
特許技術を用いた独自素材であることから、市場での反響も大きいようだ。BtoBのビジネスモデルを採用しているExegerは、さまざまな企業とパートナーシップを組んでいる。
サイクリング等のスポーツアイテムを扱うスウェーデンのメーカーPOCとのコラボレーションでは、2021年2月、Powerfoyleを搭載した業界初のセルフチャージングヘルメット「Omne Eternal」を発表。ヘルメットには自動で点灯するリアライトが内蔵されており、使用中に周囲が暗くなると自動的に点灯する。頭部に搭載された太陽電池が周囲の光を取り込み、バッテリーは常に充電されているという。日本向けの発売価格は3万1250円だ。
スウェーデンのライフスタイルオーディオのブランドUrbanistaとは、Powerfoyleを搭載した充電不要のワイヤレスヘッドフォン「Urbanista Los Angeles」を共同開発。2021年4月に発売している。日本でも代理店を通じて流通しており、3万円前後で発売されている。再生可能時間は約80時間とされているが、常に太陽光や人工光で充電が行われ、80時間以上の再生が可能だという。
スマートセンサーシステムを開発するスウェーデン企業CSECとのコラボでは、GPSとPowerfoyleを搭載した犬用のハーネス「Spåra Hund」が2022年6月に発売された。太陽エネルギーを動力源とするスマートトラッキングにより、犬が指定されたエリアを離れると飼い主に警告を与える仕組みだ。飼い主はスマートフォンから犬の居場所を確認することができる。
adidas Headphonesとのパートナーシップでは、持続可能性を意識したスポーツヘッドフォン「The adidas RPT-02 SOL」を発売している(日本向けの発売価格は2万7500円)。太陽電池で自動充電されるほか、本体にはリサイクルされたプラスチックができる限り使われているそうだ。
日本とのつながりでいうと、2019年3月、ソフトバンクグループがExegerに1000万ドル(約13億円)を投資したことを発表している。同時に、ソフトバンクグループの子会社で自然エネルギー事業を行うSBエナジーが、Exegerの太陽光発電テクノロジーのグローバル展開加速を目的とした戦略的パートナーシップをExegerと締結している。
Exegerは、ネクストユニコーンとして期待されていることに対して、「とてもエキサイティングだ」と喜びを示した。一方で、「ユニコーンになることは素晴らしいが、積極的に目指していることではない」という。
「もしユニコーンになったとしても、それはビジネス上の決断と成功をもたらした努力の結果だ」というのが、現状のExegerの見解だ。ただし、ユニコーンになることで日本のように遠く離れた国においても知名度が上がり、ビジネスが加速する可能性は大いにあるのではないだろうか。
個人的にも、充電の手間、わずらわしさを不要にしてくれるExegerの独自技術に期待したい。電気エネルギーによる環境への負荷を考慮しても、天候や今いる場所に左右されず、効率的に充電できる太陽電池のメリットは計り知れない。
小林香織
フリーライター/北欧イノベーション研究家
「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ。【イノベーション、キャリア、海外文化】などの記事を執筆。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より東京拠点に戻しつつ、北欧イノベーションの研究を継続する。
公式HP:https://love-trip-kaori.com
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